第117話 接し方
「……にしても、真がここまで性癖の話するとは思ってなかったな…」
「えっ、お前何を聞いてたの……?」
昼休み、当たり前のように集まっている四人組で理科実験室…ではなく、教室内で二つの机を囲んでいた。
「真は黒髪ロングの女の子が好きなんだろ?」
「そうだけどそうじゃない。それだと霧崎がドンピシャになるだろうが」
「あれ、でも見た目だけならその通りじゃないのかよ?」
「それはそうだけどな…。あいつと居ると調子狂うから寧ろ苦手なんだよ…」
声を潜めて呟くと、祐樹と海人は苦笑いを浮かべた。達也は「マジかこいつ」と言わんばかりだが。
「…あ、てか、さっき途中で話止まったけどよ、結局この学校の誰なんだよ?」
祐樹の質問に、俺は躊躇わず答えた。
「神里先輩」
「「「………」」」
三人は食事の手を止めて互いを見合った。俺はそれを無視して話を続ける。
「…いや、でも…?真お前、神里先輩のこと好きなのか…」
「あのな、昔の話だ。一目惚れしたというか、初恋の相手ってだけで…今は違うって。それに、今恋心を持ってたとしても、生徒会の事とかあるし、そうなっててもおかしくはないだろ」
まあ、今も神里先輩の事が好きなのか、と聞かれると少しだけ意味合いが変わるのだが。
あの人から依存されてる様な感覚が無いとも言い切れない。
「いや、おかしくはないけど……なぁ?」
同意を求めるように隣を見る海人。頷く二人。
「なんだよ…?」
「お前女の子に興味あったの?」
「どういう心変わりなんだ?」
「……お前ら俺の事なんだと思ってんの…?」
俺は大翔とは違って、確かに女の子に対しては一線引いて接して来た。
割とその一線を無理矢理に踏み超えてくる奴が居るだけで、大抵は俺の本意じゃない。
俺が大真面目に「この人と一緒の時間が好きだ」と思ったのは女の子は、美月と中学の頃の霧崎、後は橘と結月、理緒先輩とか…それくらいだ。例外的に天音さんや汐織も、だが…。
美月とは確かに色々あった。
だけど、幼馴染みでありたいのだ。
一緒に風呂に入った時に凛月に色々言われた事も、頭には残ってる。
そうじゃなくとも俺は美月とは、“幼馴染み”であり“家族”でありたい。
彼女に何を言われようと、どれだけ想いを伝えられようと、そこを変えると多分、俺はまた壊れる。
俺はいい加減に、自分で気づいたんだ。
俺は多分、美月が思ってる何十倍も重い感情を美月に大して抱いている。
神聖視している、とでも言うべきか。
彼女にとって俺は他人だ。とても遠い存在なのだ。だから好きになった。
でも俺にとって美月は家族だ。空に浮かぶ月なんかよりも、遥かに身近な存在。クロエや夏芽姉さん、そして白龍先生なんかと同じ立ち位置に居て欲しい。彼女はきっと、全く違う関係を望んでいるんだろうけど。
霧崎は以前と比べて彼女自身が良い方向に変わった分、本当なら“俺が気に掛ける必要がない子”だと分かって高嶺の花みたいに思っているのが本音だ。
夜空や真冬、桜井、蜜里なんかは、きっと俺じゃなくて福島に傾倒しているだろう。
桜井や中村先輩なんかの生徒会メンバーは大抵、友達だと思ってる。
理緒先輩は、恋愛感情的なのはあるんだろうけど、盲目的になるタイプでもない。他の誰かに取られそうになったら、何かしらの行動はするかも知れないが、多分その程度。後輩として慕ってくれて居るんだとは思う。
結月は、なんせ………分からない。
外見はともかく、実は内面まで好きになるほどの時間を共に過ごしてない。なにより…彼女から感じる気持ちは依存に近い気がしてならない。その気持ちを受け入れて良いのかが、まるで分からない。
橘とは今の関係が気に入っている。悪い言い方をするとキープしてる様な状態だ。好かれてるのは分かるけど、互いに今の距離感を気に入っている。今以上に近づいたら、きっと順当に進展するだろうけど。互いにその気はない…と思う。
南は…………女の子が好きって言ってたしなぁ…。多分俺の事は信頼できて、南条サラよりも楠木南としての友達だと思われてる…よな。
雨宮は正直分からない。最近忙しいらしくて、連絡すらとってないし。
あと気になるのは、汐織くらいか。
彼女から恋愛感情を感じた記憶は無いが、俺としてはクロエと仲良くやって欲しいってくらいだ。同級生としても、同じクラリスの新メンバーとしても…。
……他にも考えなきゃ行けない事はある。
主に父さんと、中村真緒のことだが。
父さんはこれからも警察から逃げながら、彼女の足取りを追うようだ。
難儀な人だな…。
俺は作戦実行日である文化祭以外では特にやることは無い。
強いて言うなら、中村真緒に警戒されない様にする事だけ。普通の高校生として文化祭までの時間を謳歌すれば良いだけだ。
「てか文化祭の話で思い出したけどさ、そろそろ出し物決める頃だよな」
「あぁ、そういやそうじゃん。なにやるんだろうな…」
と、そこからは文化祭の出し物についてぼんやりと話をしていた。
……あれ…?誰か忘れてる気がする…。
俺に、恋愛感情や独占欲の様な物を明確に向けて来た、誰かの事を……。
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