第八章
第116話 二学期
夏休みが明けて、二学期の初日。
俺はいつも以上に睡眠時間が短かったので、眠気に耐えながら一年教室に入った。
「おは…」
朝の挨拶を言い切る前に、思わず足を止めてすぐに息を潜めた。
教室のど真ん中では、我がクラス屈指のラブコメ主人公男、福島大翔が複数人の女子に囲まれ、詰められていた。
蜜里さんと花笠さん、あとは…真冬と夜空、その他クラスの女子が数人。
揃いも揃って何かを大翔に詰め寄って居るようだが、ガヤガヤし過ぎて内容までは分からない。
と言うことで、俺は自分の席に移動していつもの三人の中に入り込んだ。
「何が有ったんだよ、これ?」
そう聞くと、達也が呆れた様に答えてくれた。
「大翔が椿先輩二人に挟まれて街を練り歩いてたんだってよ。マジでアイツ…」
椿先輩…あぁ、あの美人姉妹か。
「…え、それだけ?」
「それだけ?じゃねえよバカ。お前は生徒会で普通に話してるから知らないだろうけどな…あの二人男嫌いで有名なんだぞ」
海人にそう言われて、すぐに困惑した。
「えっ………?初耳過ぎる、なにそれ…」
どこがどう男嫌いなのか、俺には全く分からない。
「…まあ、男嫌いは言い過ぎだけど、告白されても尽く断ってるし、男とは絶対に出掛けたりしない人たちだから…。まあ、大翔が一緒に居るの見かけられたらそりゃあなぁ…」
達也はつぶやき、女子に詰められている大翔を見て疲れたような薄ら笑いを浮かべた。
「でも、前に色々噂になってただろ?」
「生徒会の手伝いをしてただけだって否定したのは福島だぞ。その挙げ句これだ、ギルティだろ」
祐樹は妬ましそうにそう言った。彼女持ちのお前がそれを言うのか。
「…別に良いだろ、大翔ってまだフリーなんだし…。Shineのメンバーとも連絡取り合ってんだから気にするだけ時間の無駄じゃねえのかな」
「おう…。は?なんだそれ……?」
祐樹が綺麗にこちらを二度見したが、俺はスルーして、ぼんやりと人集りを見つめた。
「……」
俺と違うのはこういう部分なんだろうな…。
「なあ達也」
「んー…?」
「お前いつ真冬に告白すんの?」
「………へあっ!?」
達也は急激に顔を赤くしながら素っ頓狂に声を上げた。
「えっ、え?」
「うっそ、マジ?おう、その反応はマジだな?」
「おまっ…いつから気付いてんだよ……」
「大分前から…。多分だけど、押せば落ちるよ。真冬あいつ、最近自己肯定感低くなって来てるから」
主に凛月と南と大翔と夜空のせいで。
「…早めに決めた方がいいよ、真冬の為にも」
「その超ローテンションで言う事なのかそれ…」
「眠いんだよ…」
それにしても、だ。
あの輪の中に夜空が入っているという事は、やはりそう言う事なんだろう。
女心と秋の空、とでも言いたいところだが、残念ながらまだ空は夏模様だ。
「…つーか、それなら真、お前はどうなんだよ?」
海人にそんな事を聞かれて、真っ先に頭に思い浮かんだのは美月だった。
…でも、違う。俺にとって美月は、やっぱりそういう相手じゃない。
どれだけ関係を迫られても、どれだけ想いを伝えられても…。
美月と凛月は、幼馴染みだ。
それ以上でも以下でも無い…というより、そこから変わって欲しくない。………そう、自分に言い聞かせている。
夜空はあの様子だし、霧崎は俺の手に負えない。
今現在の感情だけでいくと、やはり橘だが…。どうも気が進まない。
「……俺は…。話した事無かったけど、前から好きだった子がいるんだよ」
呟くと、三人揃って意外そうな顔こっちを見てきた。
「えっ……あ、いや…そうか…。通りで、誰にも靡かないわけだ」
達也は勝手に何かを納得した。
「そう、だよな。だからか、あんだけ美少女に囲まれても反応ないのはそう言うことだよな」
「実は、な。これ他の奴等には言うなよ、面倒な事になるから」
「「「当たり前だ」」」
おお、良い友人たちじゃないか。
「…で、誰だ」
「……中学2年の、4月末くらいの話なんだけど…」
俺はホームルームが始まるまで、三人にとある日に出会った濡烏の様な美しい髪をした少女についての話をした。
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