第113話 原因達
「……本当に一人で来たのか」
「そう指定したのはアンタだろ……」
…俺はいつになったら父親との感動の再会ができるんだか……いや、ある意味感動ではあるのか。
感動は感動でも、動揺だったが。
そこは俺や晶が通っていた中高一貫校の校門から見て向かい側の道路、そこをしばらく歩いた場所に建てられた公園だ。
俺は「公園に集合」と言われたらここしか思い浮かばない。なぜなら、晶と待ち合わせするのは大抵ここだったから。
なんでコイツが知ってるのかはさておき、この公園には大きな
「…んで、二ノ宮誠さん。俺に何の用があんの?」
俺はさっそく本題に入ろうとした。
だが、彼はベンチに座ったまま俺をじっと見ているだけだ。
しばらくそんな時間が続いた後、ゆっくりと口を開いた。
「……クロエは元気にやってるか?」
「まあ、元気だな。あと…姉さんも元気してるよ」
「姉…夏芽のことか?」
「そうだよ。夏芽姉さんも、クロエも、俺も同じで白龍先生の元で黒崎姓を名乗ってる」
どうやらそこまでの情報を持ち合わせている訳では無い様だ。
少し目を見開いたあと、男は小さく笑った。
「…白龍か…。良い奴だよ、アイツほんと…」
「先生は、あんまりアンタのこと知らなそうだったけど」
「当然だろ、白龍の目には湊しか映って無かったからな。だからいい奴なんだよ」
…どういう意味だ、それ?
気にはなるが、それは後にしておこう。
何かを思い出すように笑みを浮かべていた男は、少し首を振ると、すぐに真剣な顔に切り替わった。
「真、とりあえずいくつか誤解を解いておく。俺は…」
「誰も殺してない…って?」
試しにそう聞いてみると、男は肩を竦めて頷いた。
「…なら、昨日の爆発に覚えは?」
「アレはマジでびっくりした。偶々見つけたお前のこと尾行してたら、急にドッカンだもんな」
……あ…そう。あの爆発っていつものトラブル体質のせいなのか。
まあ、そのタイミングで拓真さん含めて、人目に付かない状況で話がしてきたのだから、それを利用したコイツが臨機応変に動いてたって事なのだろう。
それはそうと尾行されていたのは気に入らないが。
「…あの玩具ナイフ、持ち歩いてんの?」
「玩具じゃないぞ、マジックで使うやつだ」
男は懐から、カチャカチャと刃の部分を押し込めるナイフの玩具を取り出して見せてきた。
「まあ、なんだ。俺は誰も殺ってない…ってのは、お前も流石に予想してたのか」
「一応ね…。それなら、殺した奴に心当たりは?」
「ある」
「誰?」
「多分、お前は知らない奴だ。中村真緒って言う…」
………いや、知ってるわその人。
「アンタの元同僚で、ついでに大学の同級生だっけ?」
俺がそう聞くと、男はぽかんと口を開けた。
「…一回会ったよその人。アンタと見間違って話しかけて来た」
あの時の状況を鮮明に思い出しながら、俺は男の声に耳を傾ける。
「……いや多分、見間違った訳じゃない。元々お前に目をつけてたんだ」
「…えっ?でも、出会ったのは偶然…」
……じゃない、のかも知れない。
この街で遭遇したならともかく、偶然旅館で出会うなんて滅多な事では起こらない筈だ。
「……あの、中村さんが…人を殺せる様には見えなかったけど」
「…同感だな。俺も初めて会った時は、アイツがあんな…破滅願望持ってるヤンデレ気質のメンヘラ女だとは思わなかった」
そんな台詞だけで、若干だが中村真緒との関係性が見えた気がした。
「………俺も、アンタが割と普通の精神状態してる人間だとは思わなかったよ」
「だろうな…。湊は俺のこと酷評してるだろ、それ聞いてたら当然だ」
ふと、そう言われて思い出した。
この人は確かに、俺の父親なのだろう。顔を見れば夏芽姉さんとの血の繋がりもよくわかる。クロエの事を心配している事も、理解できた。
「…あんたさ、殺人してないのはとりあえず分かったけど、なんで浮気やら不倫やら繰り返してんの?」
かなり直球な質問ではあるが、男はより眉間にシワを寄せるだけで意外な言葉を口にした。
「お前に理解出来るかは知らないけどな、俺の心は凛さん一筋だ」
「嘘くさ…」
「嘘じゃねえよ、マジな話だ」
声のトーンからしてそうなんだろうとはわかるが、それなら尚更だ。
俺が再度質問をする前に、ぽつりと呟いた。
「仕方ねえだろ、こちとら昔っから無駄に顔だけは良かったからな…。そのせいで変な女共に寄り付かれるんだよ」
どうしてだろう。そんなセリフがグサッと俺の心に刺さって来た。
「夏芽は…そもそも、湊に言われるまで産まれたことすら知らなかった」
夏芽姉さんの母親とは、高校の同級生だったそうだ。関係性と言えばそれだけで、卒業後に少しの間交際して、別れて、懇願されて仕方なく復縁して…そんな事を繰り返していたらしい。
一時は執着され、ストーキングまでされたとか。
大学を出てしばらくした後、仕事の都合で海外へ出向き、偶然母さんに出会って一目惚れしたらしい。
その後はずっと母さんに付きっきりだったとか。
結局、姉さんの存在は、どこから拾ってきた情報なのか湊さん経由で知ったんだそうだ。
三年も前に別れた女が自分の子供を妊娠してて育ててましたとか言われて二ノ宮は困惑。ブチ切れた湊さんに半ば無理矢理追い出され、離婚させられたらしい。
それで、仕方なく松川家にお邪魔したと。
「あれ、じゃあ不倫じゃなくない…?」
「だから違うって、言ったろ」
「…なら、クロエの方は?」
「凛さんと離婚したあと、仕事先で会った女優に惚れられて……。まあ、なんだ。色々と、タイミングも悪かったからな…」
流れで肉体関係を持ったら当然の様に出来てしまったと。
「…この際だ、もう一つ言っておく」
「何?もう一人居るとかはやめてよ?」
「いる、お前が知り合いだって事も分かってる」
思わず俺は頭を抱えた。
その間も、頭の中で知り合いの顔を思い浮かべていく。
「……誰……?」
「天音由紀だ」
「…は?いや、あの人は…」
……あれ?
何かを忘れている気がする。
そんな俺の感情は置いてけぼりされて、男は話を続ける。
「湊の嫁…紗月が元々天音姓なのは知ってるな?」
「えっ…あぁ……あれ……?」
「なんだ、知らないのか…」
いや、それは知ってる…けど…。
「天音紗月は純粋な日本人のくせに変な髪色してるせいで『由緒正しき家系』とやらから追い出された可哀想な奴だよ。その代わりに養子として迎え入れられたのが鷹崎由紀…俺と、“お爺の隠し子”の間にできた子供だ」
本格的に、頭が痛くなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます