第111話 不可解

「……えっ…と…?つまり、母さんと二ノ宮が出会ったのはやっぱり海外で…。ハリウッド映画の撮影スタッフと、俳優の通訳として出会った…と」

「そうらしいね」

「…で、丁度撮影地がドイツだったと」

「ベルリンだってさ」

「………どこで調べたらそんな事わかるんですか?」

「企業秘密」


 様になる仕草で人差し指を立てる川崎拓真さんを見て、俺は小さくため息を吐いた。

 企業じゃねえだろって突っ込みをする気力も出ない。


「ま、君の方の話も了解したよ。文化祭までに見つからない様であれば、校内に警察の人を送り込んでおくよ。僕も行くつもりだしね」

「あれ、わざわざ休み取るんですか」

「仕事でもあるから良いでしょ」


 結月と2人で文化祭の話をしたのが三日前、その後も文化祭については話をしていた。

 それとは別に、その日に出会った色々なトラブルの元凶である男について、湊さんと拓真さんに話をした。


 そして、二ノ宮誠について色々と調べがついたらしい拓真さんとは、夏休み最後の日である今日になってからやっと直接会って話が出来た所だった。


「にしても、君はホント、どこ行っても面倒な事に巻き込まれるねえ」

「不本意ですけどね」

「けど、それも最後にしてほしいね。いい加減に、仕事の途中に君と湊の相手をしてると頭が痛くなるよ」

「可能なら俺も最後にしてほしいんですけどね。残念ながら、どんなに短くても文化祭までは続きますよ」

「だろうねぇ…。明日から、また学校なんだよね?」

「はい。夏休み中も色々ありましたけど、まあ、上手くやります」


 まあ、本当に上手くやれるかは置いておき。


 ガラガラに空いたカフェの中、どこからかごく微かに打鍵音が響いている。


 ぼんやりと続いた静寂を破ったのは店の外で鳴り響いた、耳をつんざく爆発音と空気が強く揺れる…ドガアアアッ!!…と言う様な激しい衝撃はだった。


 俺も拓真さんも、思わず体を震わせてから、慌てて席を立った。


「っ…んだよっ!?」

「爆発した?どこで…」


 拓真さんが店の外に出ようと、走り出した時。

 ゾクッ…と冷たい感覚が首筋に走ったのを感じ取り、俺は動き出そうとした足を無理矢理に止めた。


「っ……」


 拓真さんは気付かずに店の外へ、俺は席を立っただけのままに、小さく声だけを出した。


「……三日ぶり…」


 言いながら振り向こうとすると、冷たい感覚はごく僅かな痛みに変わった。

 どうやら首元に刃物を突き付けられている様だ。強めに押し付けられている気がするが、まだ血は出てなさそうだ。

 後ろ見たら、鏡見てるみたいに似たような顔の男が居るんだろうと想像しながら、言葉を続ける。


「目的は?」

「…質問に答えろ。嘘さえ言わなければ、殺しはしない」

「あ、そう。なら、質問って?」


 できるだけ淡白に言葉を返すと、抑揚のない中性的な声が先程より少しだけ鮮明になって聞こえて来た。


「お前は間宮…いや、黒崎真だな」

「そうだよ、多分アンタの息子。顔もそっくりだろ」

「…二ノ宮クロエという名前に覚えはあるか」

「あるよ、今は同じ家に住んでる」


 一切躊躇わず、正直に答えた。

 すると、不思議な事に小さく息を吐く音が聞こえた。まるで、安堵しているかのようなため息に感じた。


「……お前の母親、

「…は?」


 俺は思わず、素っ頓狂な声を上げた。


 どこにいる……男は確かに、そう聞いてきた。

 俺の知る限りでは……。


「……アンタが殺したんじゃないのか?」

「…なっ……!!?」


 男は明らかに動揺した様な声を上げた。

 俺はそれに合わせて振り向き、首に当てられていたナイフを素手で掴もうと手を伸ばす。


 奪い取ろうとしたが、男はすぐに手を引っ込めながら素早く後ろに下がった。

 自分とよく似た顔のそいつの目元、とても印象的な泣きぼくろがあった。男は俺の事をじっと見ながら…苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。


「間に合わなかったのか…。いつだ、いつ殺された?」

「………6月の半ば」


 男は悔しそうに眉をひそめて、ナイフを懐にしまった。

 そして…


「おい真……今夜、夜中の一時に一人で《《学校近くの公園》に来い。いいな、必ず一人で来いよ」

「…いや、あ…ちょっ、待…」


 言うだけ言って、男は店を出て行った。


 …………はあっ!?色々分かんねえんだけど……?

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