第110話 似ている、似ていない。
必要な人に必要な連絡だけ入れた後、俺は結月が待っているカフェに入った。
「アイスで良かった?」
「あぁ、ありがとう」
コーヒーだけ注文してくれていた彼女に礼を言いながら正面の席に座る。
「…それで、さっきの人は?」
「父親。どんな人か…話したことあったっけ」
「………少しだけ聞いた」
「じゃあ概要は知ってるかな。ほぼそのままで、言葉を選ばずに言うなら不倫と殺人繰り返してた最低のクズ…と、思われる人で、俺がよく似てるって言われてる人」
もしかすると他にも色々やってるのかも知れないが、取り敢えずこの街に存在を確認できたのは収穫だろう。海外逃亡の可能性が一番高かったわけだから。
犯人は現場に戻ってくるって本当なんだな。
「…似てるって顔の話…」
「内面もかな。そっちの方がよく言われるかも」
「……犯罪者に似てるって言われて、何も思わないんだ」
「精神性の問題だからな。向いている方向が違うだけで形は似てるのかもしれない」
それに、どうあれ父親だし。
初対面があんな形になるとは思わなかったが、まあ顔が見れただけよかったかも知れない。湊さんと同じで老けないんだろうな。
「ま、それは良いよ」
「良くない」
………良くないのか。
「凶悪な犯罪者いるってハッキリしてる街に照準して文化祭のPRの話なんて出来ないでしょ」
「……そういや今日の待ち合わせの目的それだったな…」
11月の下旬頃、二日に渡っての文化祭がある。
今日は一応、俺が参加してない生徒会の話し合いで決まった事項の整頓や連絡の為に会っている。
別に直接合う必要はないんだけど、この人がどうしても顔を合わせたいって言うから。
取り敢えず後輩モードで丁寧語を使う。
「ある程度話は聞いてましたけど、結構規模大きいんですよね」
「生徒数はこの周辺の高校と比べると特に多いから、自然に大きくはなるよ。でも生徒会の規模は小さいから、やることはそんなに多くもないよ。開会式と閉会式の進行が殆どだから…」
「…いっそ文化祭に来るよう誘導できればな…」
「そんな危険なことしないで」
「あぁ、いや。危険なの俺と夏芽姉さんくらいですけどね」
「君が危険な時点でダメ」
「でも、あの人がここに居た時点で危険なことに変わりはないんですよね。捕まる前に文化祭が始まったら、来る可能性はかなり高いと思いますよ…。俺の顔とか特徴調べればすぐ出ますからね」
それだけの知名度は残念ながら持っている。
ほんの少しだけ調べれば簡単に顔と名前が出てくる程度には。
「…湊さん達に任せるしか無いわけだし、普通にやるしかないと思いますよ。まあ、それまでに捕まらなかったら当日に私服警官が校内を彷徨くことにはなりますけど…」
「何かあるよりはマシ…か」
「だと思います。なんで、普通に話進めましょう」
言ってから一口アイスコーヒーに口をつける。
「…それで、どうするんでしたっけ?」
「今日はPR動画作成のための下見と、大まかな内容の縁取り、かな。残念ながら君と私しか今日は来れなかったけど…」
「…あれ、俺以外も呼んでたんだ」
「………別に、今日は私が二人っきりで話したかったとか、そういうわけじゃないよ…」
ジトッとした視線を感じたので、俺は顔をそらして窓の外を眺めた。
…確かな答えこそないが、だからこそあまり迷っても居られないだろう。
……顔は覚えてる。
次に会った時は必ず、聞かなきゃいけない事だってある。
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