第109話 厄介事からは逃げられない

「……あのさ、どこ行くのこれ」

「着いてからのお楽しみ」

「良い予感がしないんだけど…」

「悪い予感でもするの?」

「なんか機嫌悪いだろ、今のキミ」

「真が全く連絡くれなかったから…」

「余計にわかんねえって。俺は誰に対しても用がないと連絡入れねえよ…暇してる時間が一番好きなんだよこっちは」

「つまり、用もないのに連絡を入れてくれる様になったら関係も進展すると…」


 どう言う思考回路をしていたらそうなるんだろう。言われてみればその通りなのかも知れないが。


「…変わったよ、真は」

「…変わったって言われるほど長い時間居た記憶ないけど」

「ううん、ここ数ヶ月の話」

「……知らないね」


 変わったつもりはない。というか寧ろ美月には変わらないとまで言われた。

 ここまで評価が分かれるのは“見ている側面”の視点が違うからなんだろう。


「…彼女とか、作らないの?」

「知ってるでしょ、俺が夜空とか霧崎の告白断ってるの…」

「だから、その理由」

「………。別に、付き合う理由も断る理由もない」 

「ないなら付き合えば良い。興味はあるんでしょ」

「何がいいたいの?」


 話の意図が分からない。興味本位でこんな事を聞いてくる人でもないと思っている。


「…別に、その人達でダメなら私もダメかなって思っただけ」

「前と同じくらい髪伸ばしたら良いよ」

「……なにそれ」

「いや、それなら時間掛かるかなって」

「ちゃんと答えて」

「俺より良いやつなんて星の数ほど居るでしょ」

「星の数って億単位より圧倒的に多いよ」


 知ってるよそんなの、よくある比喩表現だろ。


「…それに、君より他人に優しい人は、この世に二人と居ないと思う」

「俺は少なくとも二人知ってるな」

「……誰?」

「母さんと、天音さん。身内と自分には厳しいけど他人に対して生粋のお人好しな二人だよ」


 今の俺の人格をかたどった、そう言っても過言じゃないくらい、俺に影響与えている。

 二人にその自覚があったかはさておき。母さんはともかく、天音さんは俺のことだけ特別扱いするが、それ以外の人にも、相当なことが無い限りは同じかそれ以上の温情を持って接する人だ。


「…まあ、そうじゃなくとも…。父さんの事が片付くまでは恋人は作らないし、もしない。昔みたいに大人しくしてるつも……り」


 話している途中、突然結月が足を止めた。

 どこを見ているのかと思えば、今歩いて来た道を振り返っていた。


 目立つ様には見えない、ごく普通の青年の後ろ姿に視線を送っている。

 とくに不審な挙動をしている様には見えない。


「…どうした?」

「……気の所為…。かな、あの人、真に似てた気がして…えっ、ちょっと!?」


 俺は話を聞いて、すぐに走った。

 結月が見ていた青年の肩を掴んで、力任せに振り向かせる。


「おい、アンタ……」

「っ…なん……だ……。お前…?」


 似ている、とか言う次元じゃない。ほぼ鏡写しだ。

 一つ違うとするなら、こいつは泣きぼくろが少し特徴的な程度。


 青年は俺の手を振り払って、一瞬だけ視線のみで周囲を見回した。

 そして何も言わずに踵を返して走り出した。


「結月、ちょっとカフェ寄って良いか?」


 後ろから追ってきた少女にそう声を掛ける。


「えっ…と、追わなくてもいいの?」

「陸上選手でも追えねえよ、逃げ慣れし過ぎだ…アイツ。取り敢えず俺も必要な人にだけ連絡入れるから、少し休んでて」

「…………後でちゃんと話してよ」

「言えることは言うよ、意見欲しいし」


 取り敢えず湊さんと拓真さんと白龍先生に連絡入れないとか…。

 …そりゃあ湊さんも、顔がややこしいから関わるな…なんて、言うか。

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