第103話 想い人

 〜side〜鷹崎美月


 逃げられない様にして、少し強引に気を引いた。


 私は凛月みたいに器用じゃないから、こうでもしないと私のことを神聖視しているフシがある真からは、本気で目を向けてもらえない。


 真の言う様に、私は凛月と同じくらい、色々な事への才能はあるのかも知れない。

 だからと言って興味を持って行動に移せるほど、心に余裕がない。


 凛月は他の追随を許さない圧倒的な才能人だ。

 ただ、双子なだけあって私もさして変わらない。自分では良く似た双子だと思う。


 でも凛月は、常に完璧超人をこなしている。好奇心旺盛で、興味のあることに関しては本当に努力するから。


 …その反面で父親である鷹崎湊と、幼馴染みの真と関わる時だけは明確にポンコツとなる事がある。


 日頃の行いが良いから誰も気付かないけど、凛月は興味の無い事に関しては必要に迫られない限り学ぼうとはしない。

 誰だってそうだと思う、私だってそうだ。


 だから、凛月はあの二人に対して適当な姿を見せる。

 幼馴染みの真、父親の湊の二人には


 その凛月が、わざわざ真にそんな話をして…私にも忠告のような言い方をしてきた。

 興味の無い幼馴染みに


 私に何か言うよりも、少し前まで心が不安定になっていた真に「家族なんだから」とでも言えば真の心はそっちに強く傾く。

 真のことはどうでも良いけど、私が真の方に行くのは気に入らない。ソレがあの子だ。


 そして私は、その凛月の行動が気に入らない。

 本当によく似てると思う。


 真は知らないと思うけど、凛月は少し度を越したシスコンだったりする。わざわざ言う必要のあることではないけど。

 でも、そんな凛月は真のことを無碍に扱う。

 それこそ、“幼馴染み”以上の感情を持ち合わせてない。


 私が家族よりも大切に思っている真のことを、凛月はその程度に思っている。家族と同程度だと。

 それに、私には真以上の存在が居ないことを、その真が分かっていない。


 私は真のことを他人だと思っている。

 だから好きになったし、だから好きだと言われたいし、彼にとって何よりも特別で在りたい。


 真が何が欲しいのか、何を求めているのかは分かっている。

 可哀想だと同情するのは簡単だ。だって、私にはなにもできないから。

 でも私はやっぱり、それでも何かしたい。真のためになりたい。不格好でも良いから助けたい、支えたい。


「……何も出来ないのは分かってるけど、真の為に何かしたくて必死なんだよ…。真にとって私はいつでも手を伸ばせば届くのかも知れないけど、私にとって真は凄く遠い事も、分かってよ…」


 言っても分かってもらえないだろう、だってこんな近くに居るんだから。


 私は自分が、周りの誰とも違う特別な人間だと思っている。そう在りたいのではなくて、両親や妹がそうだからそうなってしまっただけだ。


 でも真は違う。私や彼を慕う皆にとっては特別でも、彼は“案外普通の男の子”だった。


 環境にそう在るように強要されてしまっただけで、真本来の性格は物静かで少し口が悪くて、でも何だかんだ心優しい、そんな少年だ。


 他人より物覚えが良かったり、頭が良い、運動神経が良いとかそんなことはあるけれど…。

 今の様に、話す人皆を魅了して虜にするような人では無かった。


 そしてお父さんはそんな人が大嫌いだ。

 恩人である凛さんを蔑ろにした腹違いの兄とよく似ているから、という理由で。


 二ノ宮誠という、真の父親はまさに、今の真とよく似ていたらしい。

 因みにお母さんは、そんな二ノ宮誠という人を「悪い人には見えませんでしたよ?」なんて言って、多少なりとも真の事を肯定している。

 お母さんは自分に危害が無ければそう言いそうだから、何とも言えないけど。

 …そのお母さんは、本当は白龍先生に任せるのではなく、自分が真を引き取りたかったんだと思う。

 お母さんは真のことを、ちゃんと大切に思ってくれているから。……家族として…。


 私は今も昔も、真の根底の部分は変わってないと思っている。

 だからやっぱり、どうしようもなく間宮真の事が大好きだ。


「……美月、これ外して」

「ダメ」

「…外してくれないと謝る気も起きないし、慰められないんだけど」

「どっちもしなくていい」

「ならどうすりゃ良いんだよ?」

「なにもしなくて良いから」

「俺は良くねえから言ってんだって……」


 最近の真を見ていると、こうして少し口調が乱暴になっている姿を見せた時にはかなり苛ついている様に思える。

 …昔はずっとこんな感じだった気がする。


「……ほら」

「えっ……?」


 突然、真の胸元に抱き寄せられた。彼はいつの間にか起き上がっている。

 ベルト式の手枷はチェーンでもう一つの枷がベッドの柱にぶら下がっている。どうやって手枷を取ったのかは分からない。


「…家族がどうとか他人がどうとか、今は良いよ。でも美月が泣いてんのを見過ごせってのは無理」


 頭を撫でてくれる真の手は決して大きくはないけど、暖かくて優しい。

 身勝手で強引で不器用な私とは違う、実直で清廉な優しさ。


「………やっぱり、変わってない」

「何が?」


 真は昔からずっとそうだった、今だってそれは変わってない。


「…どうすれば良い?」

「いや、だから何が?」

「……バレても良いか」

「は?何…んっ……!??」


 私は真にキスをして、そのまま押し倒した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る