第98話 祝いの膳
「顔色は戻って来たし、呼吸も安定してます。一応水は吐き出したのを確認してますし今の所咳はありません。それらしい症状や予兆も見当たらないし、触診した限り循環器系に異常もないでしょうから…取り敢えず二次溺水の心配は無いと見て良いと思います。で、足の方に関しては…すぐに腫れが引きましたし、痛みもないらしいんで…」
湊さんと紗月さんに一応凛月の眼の前で容態の説明をしていた。
旅館の布団で上体を起こして居られるし、今は立って歩ける状態にまで戻った。
まだ夕食の前なので、そっちには参加できそうで何より。
それはそうと、説明していると…凛月の親二人が少し表情を引き攣らせていた。
「…どうしました?」
「…いえ、どうもこうも…」
「真、お前なに、医者でも目指してんのか?」
「…ん…?将来は天音さんの秘書やる予定ですけど…?」
「…そりゃ熱烈に誘われるよ」
「……俺一応、中三の時にライフセーバーの資格受かってるんですけど」
「…そういや、そんな事もやってたな…」
苦笑いしてる凛月に、念を押しておく。
「些細でも異常を感じたら近くの奴に言えよ、強がりは無しだ。良いな?」
「私、真と違って強がんないよ」
「俺を引き合いに出すなよ…」
「怪我してもポーカーフェイス貫く人とは違って、ちゃんと痛がるから安心して」
「…まあ、そうだな」
取り敢えず凛月の事は心配なし、夕食の為に旅館の宴会場大広間に向かった。
「…お母さん今日は飲むの?」
「はい。少しですけど、いただくつもりです」
……え、飲むの?
「……少し…ね」
湊さんがどこか引き攣った表情で小さく呟いた。
「湊君も飲みます?」
「…紗月、俺には飲ますな。酒の味分からないし醜態さらすだけだから……。紗月飲むのか……」
湊さんはお酒が飲めない。甘酒をコップ一杯飲むだけでふらふらになるくらいにアルコールがダメなタイプ。
挙句の果てにお酒全般の味が苦手な始末。
一方で紗月さんは滅多に飲まないが飲む時はマジで飲む。お酒には鬼のように強いし、顔色や態度からでは全く酔いに気付けない。
でも俺は知っている。
酔ってる紗月さんはちょっとだけキケンな香りがする。
明日には腹上死寸前の湊さんが起きてくる事だろう。
誰でもいいから労ってやれ、俺は知らん。
大広間に入ると、旅館の女将さんも天音さんが何か話していた。
俺はその二人に軽く会釈をしてから、一番端の席に座った。
「おっ、凛月ちゃんも来たね。それじゃあ…」
それから天音さんは少しだけ話して音頭を取る…のかと思ったら…。
「少年、音頭頼むよ」
「……俺ですか?」
「当たり前でしょ」
「当たり前なのかよ…。じゃあ、そうですね…。音頭なんて取ったこと無いんで、少しだけ語らせてもらおうかな」
俺は前のステージに腰を下ろして、皆から自然を集めた。
「一番長くて、俺の人生丸々15年と少し。一番短くても
一息ついて、軽く頭を下げた。
「勿論、皆にとって大切な二人の誕生日って事で集まってくれてるのは承知してるけど…まあ、計画してからここに至るまで本当に色々あったせいで、目的変わってる気がしないでもないんだよな」
「主に少年のせいだよねそれ」
「ぐうの音しかでないんで言わないで下さい。ま、実際その通りではあって…二人の誕生日会の他に、鷹崎家と黒崎家の家族旅行とか、霧崎と
湯治とは名ばかり…ではなく、湯治の意味合いはちゃんとある。
その際に生存確認の監視役として、神里先輩と霧崎の二人が残るらしい。
どうか穏便に…………。
それはそうとこういう時って確か…
「そういうの全部引っ括めて、祝いの膳を頂きましょう。時間の限り、楽しんで下さい…それじゃ、乾杯!」
「「「「「「「「「かんぱ〜い!!」」」」」」」」」
…お、良かった言う事合ってた。
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