第92話 謝罪
自宅…というか、白龍先生の家に帰ると…何故か見覚えのある靴が沢山。
「ただいま…」
「あっ…おわっ!?!?」
「…は?」
玄関に滑り込んで来たのは、無駄に背の高い爽やかイケメン。
来客用のスリッパに足を滑らせて転びそうになる彼に手を貸した。
「達也?何してんだお前…」
「おまっなっん?どこで行ってたん…」
……?
「ちょ、ちょっと待て。さっきから喋れてないぞ、ちゃんと話せ、何を言ってるんだ?」
「どこ行ってたんだって聞いたんだよ!」
噛んだだけのくせに八つ当たりしてくんな。
「全くそんな事聞かれてねえよ…。アッチの家に泊まったから、そのまま行きつけの病院行ってたんだよ」
「………」
「…なんだよ?」
「あれ…?お前そんな口調だったっけ?」
「はあ?あー…まあそうだな、こっちが素」
「……顔に似合わね…」
「っるせえなぁ…」
なんでそんな事言われなきゃいけないかな…。
取り敢えずリビングに入ると、なんか…知ってる顔がいっぱい居た。
白龍先生とクロエと姉さんは勿論として…美月と渚、達也、海人、福島、達也、晶、九条…と。
俺としては珍しく、男のほうが多い。
それはそうと8人も訪問者が居るというのはどういう事なんだか…。
「…何やってんだお前ら…。一応ここ教師の家…」
「心配で来てくれた親友にその言い草かい真?」
「いや、いつお前と親友になったんだよ晶…」
「なんだよ、幼稚園の頃からの仲だろ」
「話すようになったの中学入ってからだろ」
「そうだっけ?」
晶とこうして話すのも何となく久しぶりな気がした。
多分そんなに久しぶりってわけではなく無いんだろうけど…。
「まあ、その様子なら大丈夫そうだね」
「お前と話してるとどんな様子でも調子狂うよ」
「光栄だね」
あーあ、だるい。
本当に、調子狂うんだよこいつ。
「…で、他は何でいんの?」
「友達に来てもらった奴の態度じゃねえだろ!」
「俺、来いなんて言ってねえし…」
「…私呼ばれて来たよ?」
「あ?あー…うん、美月は呼んだ。海行く日二人の誕生日に決まったから、よろしく」
「はーい」
「…は?海?」
福島と達也が首を傾げた。
「何だよ、今夏だぞ。来たいなら追加しとくけど」
「えっ、いや…いつ?」
「8月8日」
「今週末かよ!!」
「…あ、その日から3日部活ねえし行くわ」
「おっけ、達也参加な…福島は?」
「お、俺も行くけど…」
「泊まりの用意しとけよ」
「泊まり?」
「一泊二日、天音さんとこのプライベートビーチと旅館貸切らせて貰うから」
天音さんに参加人数の変更を入れておかないとな。
凛月の話では
「……どういう事?」
「諦めなよ達也、真はこういう奴だから」
「お、おう。でもよ晶…いくらなんでも天音財だ…」
「ちょっと待て、いつの間にお前ら呼び捨てにしあってんだ…」
なんかよく分かんない。
こいつらの状況が…。
それから、色々聞いてみた結果。
今日ここに来ての数十分で晶一人の手によって打ち解けたらしい。
コミュ強ってマジで化け物だな…。
こういう所は俺と少し違う。
一対一で仲良くなるなら俺も得意だが、大人数を仲介するのは無理。
これはもう、慣れでしょ。
それはそうと、一つ感じる事がある。
「…ここに居ると溶けそう」
「ん?アイスでも買ってきたのか?」
「…顔の話でしょ、聖属性の集まりだから」
流石、美月は俺の心中の察しがいい。
美月が説明してる間に、俺はさっさと手に持ってたトートバッグやら荷物を片付けてリビングに戻り、いつも通り心を落ち着かせる為のココアを作る。
「あのさ、一つ気になったんだけど…」
ふとずっとスマホに目を落としていた九条が顔を上げながら話し始めた。
「天使様は間宮の異変に気付かなかったの?」
…うん?ちょっと待って?天使様ってあだ名まだ使われてたの?
「りつは知らなかったと思う」
「…美月ちゃんは?」
「…それは、わかってたよ?」
何を当然の事を言ってるの?と言わんばかりの無表情。それが当たり前であるかの様に「わかってた」とはっきりと明言した。
俺ですら気付いてなかった自分の限界に気付いていた…と。
「りつにも私にも解決能力はない。だから距離は取ってた。体育祭くらいの頃から、真がおかしくなってたのは気づいてたから」
「…体育祭…の時…?俺なんか変だったかな…」
「私に、家族の事をどう思ってるか聞いて来た。普通にしてたら真はそんな事聞いてこない」
「えっ…あ……あー…そんな行動取ったかも知れない」
「…何があったのかまでは知らないけど、少しだけ追い詰められてるのは分かった。その後すぐに…凛さんの訃報があったから……」
家族の事を聞いて追い詰められてた…。
確かあの頃は、夜空にアプローチされてた頃だ。
夜空の家族の話を聞いて、自分の家族の話をしようとした時に…酷く辛そうな顔をしていると、夜空にも白龍先生にも言われた。
「…それに、夏休みに入る少し前くらいから、明らかにおかしくなってた」
「…そうなの?」
九条の質問に、海人と達也が首を横に振った
「…どうだった?」
「や、流石にわかんねぇけど…」
そう言われた俺は何となくスマホを確認して、美月とのやり取りの履歴をスクロールしていった。
夏休み前になんて、美月と話した記憶は無かったから…何か異変を感じる物でもあったのかな…と。
一番最近のやり取りは今日行っていた病院での待ち時間。
『少し話したいから会える?』という内容。
『渚がクロエと勉強するから、その付き添いで行く』と返ってきている。
その前に遡ると俺が『ちょっと話したいんだけど会える?』と送って『今日無理』みたいなやり取りがほぼ毎日のように繰り返されている。
何この浮気疑ってる彼氏みたいな…。
99%記憶にないが、何故こんな事になってるんだ?
それから履歴を見ていてやっと分かった。
…霧崎が転校してきた頃からずっとこんな状態だったのか…。
なるほど、これは嫌でも異変に気付く。
俺自身、こんな事になってた事に気付いてなかったくらいに、追い詰められてたみたいだ。
ふと、思った。
これ…あれだな、湊さんにも『…7月…半ばくらいからか?真お前、昔みたいになってきたよな』って言われたな。
その頃からちょっとおかしくなってて…霧崎の拉致事件と顔と名前が露出してしまった事で、完全に器がいっぱいいっぱいになった。
そして昨日、色々と溢れ出てしまった。
「…真、ごめん」
「…ん…。…えっ?」
一旦受け入れて、その後思わず聞き返した。
何で今、美月に謝られたんだ…?
「えっ…と、何でごめん…?」
「…さっき、言った様に…真が限界なのは分かってた」
「…うん」
「でも…」
ふいっ…と視線を逸らして、気まずそうに呟いた。
「…心配だったけど、真は何だかんだ言いながら乗り越えるんだと思ってた。今までずっとそうだったから…私には、どうすれば良いか分からなかった。私じゃ、真の力になれないなって…今更になって気付いたから…ごめん」
それは美月の、心からの謝罪だった。
自分自身ですら気付いて居なかった異常に、唯一気が付いて居ながら、何も出来なかった事への。
美月の話を聞いても、俺は何も言えなかった。
静まり返ったリビングで、なんて答えればいいのか分からなかった。
…なにより、美月が俺のことを心配して悩んでいた事があまりにも衝撃的すぎて、頭が全く回らなかった
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