第80話 世の論

「…どこもかしこもシオンの事ばっか…」


 早朝からシャワーを浴びて、ホットサンド片手にテレビの報道を確認していた。

 テレビやネットニュース、SNS、どこを見てもシオンの拉致騒動の事ばかり。


 俺は昨日は夕食も風呂も入らずにベッド…ではなく、自室の床に倒れて寝ていた。

 朝起きた時は本当に体中が痛かった。

 …フローリングには直で寝るもんじゃねえな…。


 それはそうと俺は窓から家の外を眺めた。


 外には大量の報道陣が待機している。

 果たして俺か、シオンを狙った物か…。


 何故俺の可能性があるのかと言うと…理由とかは全く知らないけど、一部のネットニュースに俺の名前が…ガッツリと記載されていたからだ。

 今はその記事は取り下げられているが、一瞬でもネットの海に載ってしまったら、それはもう…取り返しはつかない。


 ひどいよね、俺のプライバシーを返せ。


 名前さえ分かれば個人情報なんていくらでも探れるだろうし、俺はつい最近、高校の担任教師の養子に入ったり…児童養護施設の子どもと兄妹になったりと…まあ探せば話題に事欠かない。


 そんな奴がシオンの隣の家に住んでて、しかも拉致から助け出した張本人であると。


 もう、手の付けようが無いよこれは。


 という事で、俺はスマホを確認した。


 …なんか通知の量がとんでもない事になってる…。昨日、廃工場内で音が出ないようにと、通知設定オフにしたまま放置してたから気付かなかった。


 99%がシオン関連。

 1%は本当にどうでも良い通知。


 取り敢えずクラスメイトから飛んで来た奴は全部既読無視。

 そう思ったが霧崎からも連絡が来ている。

『…どうしようこれ…』

 …と。俺よりも報道陣の相手は慣れてそうな物だけど。


 不祥事を起こした訳でもあるまいし。


 あんまりこういうやり方が良いのかは分からないが、今回は影響力のある奴に動いてもらうとしようかな。


 今の時間なら起きてるだろうし。


「…凛月、今大丈夫か?」

『真!そっちこそ昨日大丈夫だったの?』

「俺は大丈夫、それより少し話したい」

『…なんか必死だね、どうしたの?』

「凛月…というか、月宮ルカって確かシオンと面識あったよな?」

『えっ?うん、何回か共演もしたよ。話したことはあるけど…』

「なら、クラリスのメンバーと、できるだけshineシャインのメンバーも連れてこっち来てくれないか?白龍先生の隣の家にシオンが住んでるんだけど…そこに報道陣集まってて俺は身動き取れないんだ」

『あー…そう言えば名前と…顔写真も出ちゃったもんね真は。えっと、家に行くってことは…シオンから私達に注目を切り替えるって事で良いんだよね?』

「そういう事、話が早くて助かる」

『分かった、皆来てくれると思うよ』


 流石凛月、直接会うとポンコツになるけど、こういう時には本当に頼りになる。


「月宮ルカの注目度と影響力…且つ、今のシオンの精神状態を利用して世論を味方につければ報道陣も注目を切り替えざるを得なくなるだろ。報道陣に声かけられたら、適当に正論ぶつけてやれよ」

『分かった、お昼前には行けるかな…。マネちゃんに車出して貰お』

「…悪いな、こういう時ばっかり利用して」

『いいよ?私も、ちょっと報道見ててどうなのかなぁ…って思ってたから。真の方こそ、大丈夫なの?』

「そう、そっちはマジでどうしようかな…と思ってるんだよ。調べた感じ、結構な量の個人情報が割れてる…」

『ほぼ特定されちゃってるもんね』


 取り敢えず顔と名前と小中高校と今住んでるこの家…とあらかたの個人情報は露出してしまっている。


 取り敢えず、顔と行動に対して好意的な意見が多いのはありがたいし…露出した事に対して否定的な意見も割と多い。

 なんか知らないけどクラスメイトって所まで割れてる辺り…高校の関係者が何かしたか、捕まったあの先生の悪あがきでもあったのだろうか。


『唯一、真が全くSNSをやってなかったのが良かったね』


 情報収集に使ってることはあるが、本当にそれだけのアカウントがある。


「…まーじでどうすっかな…」

『知り合いに相談してみようか?』

「あー…?なんか宛があるんなら、頼みたい」

『うん、りょーかい。じゃあ…多分後で、かな?』

「そうだな、俺も霧崎の様子は見ておきたい」


 ということで、凛月に動いてもらう事になった。

 それから一時間程度経ってから、隣の家の周りが大騒ぎになった。


 それによって、この家の周辺には野次馬やら報道陣やらがそれはもう、凄い事になってる。

 凛月は世間的にも芸能界の中でも圧倒的な人格者だとされている。


 シオンの家に月宮ルカがクラリスとshineシャインのメンバーを全員連れて来たことで…テレビも慌てて報道を始めたし、ネットでもそこら中に動画が投稿された。


 月宮ルカは自分以外を家に入れてから、報道陣に対して真摯に対応しつつ、少しだけ小言を挟んだ。

『傷ついてる女の子を取り囲んでいじめるのは駄目ですよ…?』

 と、少しだけ笑みを交えて。


 一言で世論の九割を味方につけた事だろう。


 それはそうと今回拉致事件については様々な考察が世の中に広まった。


 中でも一番の問題は『黒崎真は何者だ』という案件。


 まあまあ情報が表沙汰になってしまった…だからこそ、一つだけ重要な問題点があった。


 どれだけ情報を探し回っても…黒崎真は普通の高校生であるという事にしか、情報がいきつかない、という大きな問題点。


 そしてそこに、爆弾と結論を落とし込んだ奴が居る。


 それは誰か。

 月宮ルカだ。


 そんな訳で、今日の夕方頃にはこの話の決着がついた。

 とある今回の事件を纏めたサイトによると…




 黒崎真という男子高校生は現在、動画投稿サイトのクラリスの公式チャンネルにて動画編集を担当している高校生である。

 “月宮ルカの幼馴染”であり、月宮ルカとは幼少の頃から親密な仲であるそうだ。


 今回の事件に関係した理由としては、シオン(本名霧崎紫苑)が月宮ルカにストーカーがいる、と相談をしたことから始まる。


 shineシャインを脱退後、元々通っていた黒峰高校で少し騒ぎが起こったことから転校を決断。

 自身のストーカーが居る可能性があると月宮ルカに相談したところ、頼りになる人物ということで黒崎真を紹介、彼の居る高校へと転校した。


 その後にシオンが拉致される前から情報収集をしていたことから、緊急事態にすぐに黒崎真が行動した事で救出に成功した。


 そして、警察関係者への取材によると、黒崎真は高校生でありながら、以前からひったくりの阻止や人身事故から少年を助け出したといった実績があり、市内の警察署内ではかなり有名人であったと判明した。


 そういった日頃の善行が功を奏して、今回のシオン拉致事件も早期に解決する事ができた様だ。




 …と、なにやら黒崎真がとてつもなく素晴らしい人間であると世論からの意見は結論づいた。


 そして、半日も経てばそれはクラリスやshineシャインのファンからすれば周知の事実となった。


 誰だよ、この話作った奴…ふざけんなよ…。

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