第72話 顔面偏差値

「なあ」

「なんだよ」

「夏休み肝試し行かん?」

「は?どこに?」

「知らねえの?この辺に地図とかナビに映らない廃墟があるらしいぜ」

「なにそれ、夜中行くの?」

「なんか、人の声聞いたとかって噂が結構あるんだよな」


 …へえ…肝試しか。ちょっと楽しそう。霊感ないからおばけって見てみたいんだよな。


「おっ、チーム変わった…てか話も変わるけどさ」

「おん?」

「クラスの顔面偏差値、限界突破してね?」

「あー分かるわ」

「シオンたん入ってから底上げされたよな」

「なにその呼び方…?」

「知らねえの?shineシャインのファンは皆そう呼んでたぞ、歌の合いの手に入るくらい有名だ」

「そうなんだ…」


 体育の時間、別のクラスのチームとサッカーをやってる。

 俺はチームから外されてるクラスメイト達と、男子なんて一切見ずに女子チームを眺めていた。


 最近は福島と仲の良い栗山夜空を筆頭に、柊真冬、桜井美琴、秋山千歳、蜜里朱音、それに加えて霧崎紫苑。

 そして最近になってイメージチェンジに成功した花笠詩歩も、かなり容姿の整った美少女であると判明した。


 あえて男子の面々も言うと、福島大翔を筆頭に東蓮寺達也、阿部佑樹、五十嵐海人がやはり頭抜けてイケメンである。


 俺は違う。

 なんか…その辺りの枠組みに入れてもらえない。


「…揺れるなあ…」

「……何処とは言わないけどな」

「おっぱいだろ」

「やめとけって」

「…俺貧乳好きだけどよ、最近巨乳の良さが分かってきたんだよ」

「このクラス大体でかいもんな」


 それは同意するよ。


「…柊さんホント足速いよなあ」

「この後の女子更衣室天国だろうな」

「「「キモッ…」」」


 流石にやばいだろ言ってること…。


「はあ?お前らもそう思うだろ」

「思っても言うなよ…」

「あー…くそ、福島さえ居なけりゃなぁ…」

「来年クラス変わるよな…。福島と東蓮寺だけ別クラス行ってくんねえかな」

「「「「「それな」」」」」


 俺一切会話に混ざってないけど、こいつら一致団結しすぎてて面白いんだけど。


「つーかさ、霧崎さんめっちゃ話しやすくね?」

「あ、それ分かるわ…」

「明るいよな」

「うちは担任も美人だしな」

「黒崎先生可愛いよなあ…結婚したい」

「それなら俺は柊さんが良い」

「蜜里だろぉ…あの母性に包まれてえな…」

「そういう話だと神里先輩だなあ」

「何お前、塩対応されたいの?」

「ちげえよ、あれで自分にだけ甘えてくるとかそういうパターン」

「妄想だな」

「椿先輩二人並べてデートしたい」

「なんだその贅沢、最高か?」

「やっぱ川村先輩だろ、合法ロリよ」

「あれに「ざぁこ♡」って罵られたいのはちょっと分かる」

「言い方キモイぞ」


 男子高校生の話聞いてんの面白すぎるんだけど、ぜんっぜん話に混ざれないのちょっと悲しい。


「……それで言うと、このクラスに性癖破壊人間が居たよな」

「「「「あ…」」」」


 …ん?何だ急に雲行き怪しいぞ?ふと、横を見ると…全員こっち見てた。


「えっ…?何?」

「よく見ると間宮って、栗山さんとか柊さんより可愛いよな…?」

「…なあ、お前試しに女子制服…」

「着ねえよ?何言ってんの?」

「頼む、一回試しに着てみてくれ!」

「制服が駄目ならメイド服…」

「悪化してる!絶対嫌だって!欲望が駄々漏れじゃねえかよ!」

「正直、俺間宮で抜いたことある…」

「それは多分、ウチのクラスの男子全員あるだろ」

「……気持ち悪…」


 ちょっとマジで勘弁して欲しい。

 急に矛先がこっち向くのは辞めて欲しいんだけど。


「お前さ、実は付いてないとかある?」

「流石にねえよ、ふざけん…」

「間宮って孕めそうだよな」

「マジな話、間宮が俺達と更衣室同じなのって欠陥システムだけど神」

「…腰つきが意味わからんもんな」

「もはやメスであれよ」

「可愛い上に付いててお得って…真理だよな」

「分かる」

「スマホで「お」って打つと予測変換で「男の娘」って出るようになったんだけとこれって故障かな」

「安心しろ、俺もだ」

「間宮は試しに髪伸ばして欲しい」


 ……男子高校生の頭の中こんな事ばっかりなのかな。


 俺実は男子高校生じゃない気がしてきた。

 JKなのかな…。


 それはそうと…正直、髪伸ばしてみたい願望はちょっとだけある。


 シンプルに自分に似合いそうだなとは思ってるから。


「逆に俺で間宮が童貞卒業するとか…」

「「キッモ…!」」

「流石にキモいぞそれは…」

「安心しろ、元々お前ら全員キモいから。あと俺童貞じゃねえよ」

「「「「「は…?」」」」」

「はあ?なんだよ?お前等と一緒にすんなよ、俺これでもソコソコにモテる方だからな?」

「いや、それは分かるけどよ……」

「不一致だわ…」

「解釈違い過ぎる」

「どういうイメージなんだよ…」


 何となくこいつらの中にある間宮真の像が分からなくなった。


「ほんっとうに気持ち悪い…」

「…そのセリフ良いな」

「ひっ…!?」


背筋が凍ったんだけど。

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