第70話 shine(シャイン)

 和也さんは斑鳩光の事を、社長さんに連絡している。

 綾さんと尊さんは、灯里と夕食の用意を手伝ってるらしい。


 俺は理緒先輩の私室で、話していた。

 ベッドに座ると、定位置と言わんばかりに先輩は俺の膝に乗ってきた。


「…天音財団の代表とか刑事と知り合いって、真お前どういう交友関係してんだ…?」

「どうなんでしょうね?自分でも、変な交友関係ばっかりだと思うので、なんでこうなったのかは分からないです」


 大体は湊さんの関係者でもある。


「…なんか、あの人が言ってる事なんとなく分かった」

「あの人って?」

「天音財団の代表が…言ってただろ、お前の事…基本的な能力が高くて、交友関係も広くて、問題事の解決能力が高い。相当な事が無い限りは冷静で常に物事を客観的に見れるし打算無く人を助ける性格の良さ…もある…だったか?」

「よくもまあ一言一句覚えてますね」

「……ウチ入る前に、不釣り合いとか言ってたけど…その通りかもな」


 突然そんな事を言い出す先輩の事を少し抱きしめた。


「どうしたんですかさっきから…」

「……なあ真」

「…はい」

「…お前との関係、少し考えさせて欲しい。お前の事もだけど、なんか…自分の気持ちがよく分からなくなってきた」

「……先輩がそうしたいのであれば、俺はそれで良いです。…あ、それなら灯里さん達には『斑鳩光との関係をどうにかしたかったから呼んだ助っ人』って事にしておきますか」

「…そうだな。まあ…なんだ、今更距離感を変えろとは言わねえよ、ただ…」

「分かってます、言いたい事は…なんとなく。あ、でも…髪の手入れはしますよ?」

「…それは、まあ良いか」

「そういう事なんで、そっち座って下さい」

「はあ!?今かよ!」


 俺は理緒先輩を持ち上げてドレッサーの前に座らせた。



 ◆◆◆



 あの後、俺は川村家の夕食に混ざって誕生日を祝った。

 色々あった後だから早めに帰ったものの、改めて灯里さんには礼を言われた。


 そして翌日、めちゃくちゃ学校で話題になっていた。


「…おい、真。あの噂マジか…?」

「六割はマジ」

「過半数はマジなのかよ!」

「相談ごとがあって家に同行したのは事実だし、誕生日祝ったのも事実。ただ付き合ってるんじゃなくて、電車の中では理緒先輩が周りの反応面白がって調子に乗っただけ」

「……勉強教えてもらったってのは?」

「本当、めっちゃ成績上がったからな。やっぱり三年間ずっと学年総合一位キープは凄いよねホント」

「俺はあの先輩と普通に話してることのほうがびっくりだわ」

「面倒見良いし、割と優しい良い先輩だぞ」

「それはお前相手だからじゃねえの…?」


 それはあるかも知れない。あの人遠慮されるの嫌いだからな…。


「海人は、さっきからずっと何見てんだよ?」


 海人というのは、五十嵐の下の名前。なんかずっと名字呼びされてたのが気になったらしい。

 俺達四人は名前呼びしよう…と、何故か、いつの間にか決まった。


「クラリスの朝ライブの切り抜き」

「……なにそれ?」

「は?真お前知らねえのかよ!」


 佑樹、阿部佑樹がマジかこいつ見たいな目で見てきた。

 そして海人が説明してくれた。


「毎週土日の朝にやってる雑談ライブの切り抜きだ。公式チャンネルが出してる奴、普通にアーカイブ見るのも良いけど、因みにこっちはマジで編集が良い」

「流石にクラリスのプロデューサーが認めるだけあるよな。ガチで撮れ高集って感じするから。切り抜き動画投稿するようになってからもかなりリスナー増えたよな」


 達也も乗っかって説明を続ける。


「歌じゃなくてこっち目的の奴も結構居るくらいはな」


 なんか好評らしい。画面を覗き込むと…なんかめちゃくちゃ見覚えがあった。


 ……あ、これ編集してるの俺だわ。そりゃ見覚えあるよな。ここ最近、クラリスの動画の編集はよくやらされる。

 最近は手伝いじゃなくて日課と化してるよ、それ…マジで仕事が終わらないんだよ…。


「……どういう所が良いんだ?」


 海人と佑樹と達也の三人にそう聞いた。

 何が見やすいとか軽い意見があるなら聞いてみたい所。


「ん?まあまず見やすい。完全字幕付だけど、フォント変わるくらいで余計なエフェクトとかないし…」

「ライブのアーカイブだと聞こえにくいところ調整してたり、細かいとこの何気ない気使いがマジで良い」

「3人の良さ引き出してるよな。マジでそれぞれの良いところをよく分かってるんだろうなって」


 …うーわ…キッショ…なんだこの三人…。なんか行き過ぎたオタクの末路って感じして嫌だ…。


 動画内の三人を褒めるのであれば違和感は無いが、試しに聞いただけの編集側についてここまで褒めれるのは流石に気持ちが悪い。


 オタクって皆こんな感じなのだろうか。


「つーかさ、この編集やってんの高校生じゃねえかってうわさが有るんだよな」


 佑樹のそんな話に、達也と海人が首を振った。


「「それはねえだろ」」

「いや、俺もそう思うけどな?噂になるくらいだから何かの根拠はあるんじゃねえのかって話よ」

「…この毎日投稿のペースについていける編集できる高校生居ないだろ」


 部活やってないから何とかなってるのはある。

 流石に寝る時間惜しんで…とまでは行ってないが。

 それはそうと何故そんな噂が立ったんだろう、少し調べて見るかと、思いスマホを取り出した。


「………」


 噂の出処はよく分からないが、確かに噂だけは独り歩きしている。

 独り歩きじゃなくて実は正解なのが面白いところだが。


「…真はどう思う?」

「流石にないだろ」

「だよな」

「おいおい夢がねえなあ」

「いや、編集者じゃなくてクラリスに夢を持てよ」

「「「それはそう」」」

「ふっ」


 三人が声を揃えたので、思わず笑ってしまった。

 ふと、佑樹が声を上げた。


「あ、てかクラリスの噂といえば…」

「ん?」

shineシャインの歌聞いたか?」

「「なにそれ?」」


 達也と海人が疑問符を浮かべ、それを見て佑樹が呆れた顔を見せた。

 shineシャインに関しては俺も少し知っている。


「たしか、クラリスのライバルとか言われてるんだよ。事務所は違うけど…6人グループ。元は7人だったんだけど…」

「そう!ダンスがマジで凄えの!」

「へえ、ルカとどっちが?」

「ルカはソロパフォーマンスだろ。あっちはフォーメーションとか、六人って人数を活かしたダンスが綺麗だし…クラリスと違って基本的にヘッドマイク」

「ほーん…」

「確かに、クラリスってハンドマイクだったな…」

「偶に曲芸みたいなことやるからなあの三人…」


 俺は噂を調べたついでに、shineシャインの六人と最近辞めたもう一人の画像を見せた。


「ほら、これ」


 覗き込んできた達也と海人。そして佑樹は一人一人指差していった。


「左からアリス、フィリア、ミカ、セリア、シャナ、ほんでリーダーの…リノ。後は、元々メンバーで、最近辞めちまったんだけど…」


 ふと、黒崎先生が教室に入って来た。

 そして何故か…その後ろを、見慣れない制服の女子生徒がついてきた。


「皆、おはよう。ちょっと大事な話あるから座って」

「えっ…」

「……あれ?」

「ねえ、あの子さ…」


 教卓の横に立った女子生徒、その顔には見覚えが。

 見覚えというか、ついさっき見ていた顔だ。


 漆黒の髪は腰まで伸びており、髪留めの一つも付けることなく真っ直ぐに下ろしている。

 日本人どころか常人離れした、アメジストの様な美しい紫紺の瞳。

 整った顔立ちは、このクラスならば夜空と並ぶか、それ以上に注目を集めるだろう。


「…取り敢えず、自己紹介して」

「ん……はい。霧崎きりさき紫苑しおんです。家庭の事情があって引っ越してきました。まだ制服が届いてないので少し不格好ですが、本日からよろしくお願いします」


 シオン、それは少し前にshineシャインを抜けた元センター。

 圧倒的な美貌と、抜群のダンススキルでファンを魅了した天才ダンサーだ。

 彼女が抜けてから、shineシャインはクラリスにファンを奪われたとまで言われている。


 彼女はゆっくりと教室を見回した。

 そして一瞬…俺と目があって、強く瞳を揺らした…様な気がした。


「……っ…!」

「…それじゃ、よろしく霧崎さん。皆、席替えもあるから…はいそっちから、くじ引いてって。霧崎さんもね。…霧崎さん?」

「…ん……はい」


 反応が遅れた美少女は、どこか嬉しそうにくじを手に取った。

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