第65話 恋愛経験

「あのさ」

「おん?なんだよ真」

「阿部と秋山さんが付き合い始めたんだって」

「「……はあ!?」」


 美月と色々あった翌日。

 平穏な昼休みに突如として落とされた通知爆弾を読み上げた。


 絶叫する達也と五十嵐、少し離れたところでビクッと体を震わせた真冬。


 俺達が居るのは理科実験室。


 もはやここで昼休みを過ごすのは当然となっていた。


「嘘だろ裏切ったのか…」

「いや、裏切るも何も自由でしょ」

「今日居ないの変だと思ったんだよ…」


 今の話題の通り、阿部は何やら秋山さんと昼休みを過ごす様なので…。


「…二人は彼女作らないの?」

「放課後も土日もほぼ空いてないんだよ」

「ゆーて部活で忙しいし?」

「…まあ…そうか、確かにテスト期間終わったらすぐ大会だもんね、欲しがる暇もないか」

「そ、それよりお前はどうなんだよ真!」

「そうだぞ、なにげに聞いてきたけどお前どうなんだよ!」

「……どうって?何かの発展でも期待してんの?」

「お前神里先輩とか栗山さんとか色々あっただろ!」

「夜空に関してはいい加減に福島とくっつくでしょ」


 最近の二人の様子を見ていれば嫌でもわかる。


「なら神里先輩はどうなんだよ!」

「中学の時にちょっと知り合いだったって気付いたから話してたっだけで、そこまで発展してない」

「ちょっと知り合いだからって話せるもんかよ……」

「あの人無愛想極まってるからね、話し辛いのは分かるよ」


 食べ終わった弁当片付けて横を見ると、頬杖付きながらこちらの話を聞いてる真冬と目があった。


「…真冬はそういうの興味ある?」

「今はない」

「…ま、そうか」


 福島のことが好きだった女子達はとうとう間に入るのが難しくなった夜空と福島の関係を、指くわえて見てる事しかできないからな。


「……にしても大会か…。俺も応援行こっかな…」

「お?何だよ、わざわざ観客として来る気か?」

「いや、チアガールに混ざ……『ガタッ!』…て冗談だよ!!流石に冗談だっての!五十嵐目が怖いって!」


 危ねえなぁ…迂闊なこと言うもんじゃねえ。


「…そういやさ、二人って恋愛経験あるの?真冬がないのは分かるけど」

「うるさい、言わなくていいわよ」

「達也はありそうだよね」

「お、そう見えるか?」

「動けるしそこそこ頭良いし高身長でイケメンだし…爽やかな性格してて皮肉がわからなくていい奴だもんな」


 五十嵐…なんか怨念こもってんな…。


「因みに五十嵐はあるの?」

「中学の時に彼女いた事はあるぞ」

「居たってことは…?」

「達也にとられた」

「成程そういう事か」


 納得して頷いた。そういう事もあるかもな、それでもまだ友達やれてるんだから、この二人の関係というのはとても良い物なんだな(適当)。


「いやいや、俺ちゃんと断ったから!」

「達也、そういう所良くないよ」

「はあ!?何で俺が責められてんだよ!」

「まあ、冗談は置いといて」

「「冗談じゃねえよ!」」

「達也は告白された、経験は多いだろ」

「多いけど一回も付き合ったたことはない」

「なんで?」

「……初恋引きずってるから」

「うわキモ」

「ちょっ、五十嵐思っても言わないであげなよ」

「お前らなあ…」


 五十嵐が達也の反応に小さく喉を鳴らして笑った。

 因みに俺は初恋引きずってる話を聞いても笑えない。黒崎先生の話とか色々あったから。


「因みに達也の初恋ってどんな人なの?」

「昔近くに住んでた年上のお姉さんだ」

「…なんで知ってんだよ五十嵐…」

「一回聞いたからな」

「言った事あったかよ…?」

「あるから知ってんだよ」

「…へえ…」

「しかも遊びに行ったらそのお姉さんが彼氏とヤッてる時に遭遇してトラウマに…」

「………」

「うおおぅ…思い出させんなよ…」

「ちょっ…五十嵐!俺は良いけど真冬と達也がなんか悶えてるから!」

「……達也はともかくなんで柊さんまで?」

「知らないけど、下ネタ苦手なんじゃない?」


 明らかにこっち見ないようにしてるし。なんか反応初々しいし。もしくは自分も初体験に嫌な思い出あるとか。無さそうだけど。


「…てかなんか、達也の反応が童貞だよな」

「辞めてあげなって…」

「…間宮はこういう話大丈夫なのか?」

「バカ過ぎてくだらない下ネタは割と好きだけど、こういうの普通。五十嵐は?」

「休日は同人誌読み漁ってるからな」

「あー…そういう事」


 そう言えば結構オタク気質だったな。そうでもなくても割りと健全な男子高校生って感じがする。


「達也は、トラウマのせいで下ネタ耐性ないからな」

「そうみたいだね、普段こういう話しないから初めて知ったよ」

「てかそもそも、間宮はそういう経験あるのか?」

「ん…どうだと思う?」

「うーわ面倒くさ」

「まあ女子と関わる機会が多いのは認めるけど」

「なんかうざいぞその言い方…」

「まあでも、偶に彼女作った方が良いのかな…とは思うんだよね」

「何だそれ?」

「…五十嵐はさ…女子に押し倒された経験ある?」

「ねえよ何言ってんだ、普通逆だろ」

「そう、普通逆なんだよ…いや、普通なんてあんのか?まあいいや。でもさ…俺見た目が逆だから」

「あー?…えっ?何お前押し倒された事あんの?」

「押し倒されただけじゃないぞ、色々と盛られたからな」

「えっ?なにそれ怖っ…」

「まあそういう事があるから、彼女作って身を固めるのも一つの手なのかなと」

「いや、そういう事で済ませんなよ!大分ヤバい事話だったぞ今の!」

「仕方ないでしょ、昔からのトラブル体質でもう慣れてるんだよ」


 何言ってんだこいつ?という目を向けられている。

 俺としてもこういう事に慣れてしまっているのは不本意だが、なってしまったものは仕方ない。


「まあそういう事もあるって話。彼女居たとこあるんなら参考までに話聞きたいなと」

「いや、取られた二人の経験聞いても意味ねえだろ、説得力ゼロだぞ」

「あ、確かにそうか…」

「確かにとか言うんじゃねえ…」


 悲痛な呟きは誰にも反応されなかった。

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