第57話 二日目
「シン、準備できた?」
「おっけーですよ…。寝不足意外は」
「それは、ごめん」
昨夜、俺と神里先輩は恋人……では無いが、互いの気持ちを確かめあった。
お互い、人を好きになるという感情には疎いものの、神里先輩にとって俺は「自分にとっては誰よりも優しい人」である。
となると…俺にとって神里先輩はどんな存在だろうか。
それはきっと、今後によって決まる。
だから別に今どうこう考える必要もないだろう。
それはそうと昨日は色々と問題が発生した。
神里先輩の気持ちを聞いたあと……俺達は同じベッドに入って寝た。
正確には、神里先輩が離してくれなかったのだが。
神里先輩は安心したように眠っていたが、俺としてはそんな状況で安心して寝れるわけもなく。
文字通り一睡もできずに現在である。
午前5時、まだ他の生徒は寝てる時間だがやることがある。
一応、瞼を閉じて横になっていたからそこまで疲れてはいないけど…。
「…いいですよ別に…。先輩はグッスリと眠れたみたいなので」
「……正直、毎日抱き枕にしたいと思ったくらい落ち着いて寝れた」
「それやると心労で死にますよ俺。ただでさえ今の関係が外にバレたらどうなるのか不安で仕方ないので」
「…秘密にしたい?」
「仲良い話についてですか?でしたら…可能なら」
「私は気にしないけど」
「あの、可能なら秘密にしたいです」
「だめ。他の子が私に向けるみたいに、私が他の子に嫉妬するから」
この先輩は人に嫉妬するタイプじゃないから多分そんな事にはならないだろうけど、念の為注意はしておくか…。
「…じゃあ、公表はしないけど秘密にもしないってことで…」
「…それが妥協点…?」
「ん……ギリギリまで辞めて欲しいです」
「…仕方ない、林間学校の間は普通の先輩後輩で。それ以降は『神里先輩』って呼び方はさせないから」
「…そうですか…」
絶対にユヅとは呼ばないけどね!
妥協点が決まった所で、俺達は二階の生徒会メンバーが集まる部屋に向かった。
「どうも、おはようございます」
「おはようございます…」
「「おはようお二人さん」」
「早いっすね〜」
「言っても二十分前ですけどね」
「じゅーぶん早いっしょ。理緒先輩まだ寝てるし」
「…あの人朝弱いのか。低血圧かな…」
「…一年二人は?」
「着替えてるっす、間宮は部屋行かない方が良いっすよ」
「いっそ覗いてきたら?」
「それもそうですね」
「「「は?」」」
「えっ、流石にやりませんよ」
二人の椿先輩以外がジロッと視線を向けてきた。
そして神里先輩がぼそっとぼやいた。
「…でも私の着替え見た」
「先輩が堂々と眼の前で脱ぎ始めたんでしょ…」
「えっ!?それは流石に、間宮のこと男として見てなさすぎじゃないっすかね」
「…気にしてたら二人部屋にしない」
「納得だけど…」
「ちょっと可哀想」
「間宮、どんまい」
「いや、別に良いですけど」
男として見られてないのではなく、俺に意識されたくて眼の前で急に着替えを始めたのだが…まあ、ここではそんな事言えない。
俺だけが知ってれば良いことである。俺が知る必要も無いんだけど。
それはそうと、意識させようとするなら、なにか別の方法があっただろう…と思わずにはいられなかったが。
「あ、間宮君おはよ〜。先輩もおはようございます」
「おはようございます。もう来てたんや」
「おはよ、桜井さんと烏間さん。二人にちょっと用事」
「はいはい?」
「なにかあったん?」
「今日の午後ほぼ自由時間なんだけど、撮影班の手伝いって頼んで良い?」
「いいよ、どうせやりたいことも無いし」
「そういう言い方すんなよ…。ま、それだけよろしく」
ガチャっと部屋に入ってくる川村先輩。
「あ、理緒先輩…」
まだ寝間着、寝癖でボサついた髪、眠そうに目を擦りながら洗面所に向かって行った。
「……ふらっふらじゃん…」
松坂先輩が思わずといった様子で呟いた。
…てか前見えてんのかよあれ?
誰も近寄ろうとしないので、仕方なく川村先輩のそばに寄った。
「…川村先輩、顔洗って、ほらこっち」
「…ん…」
ふらふらしてる先輩の手を取って洗面所に付き添う。
ついでにさっきカバンから取り出しておいたタオルを温かいお湯に沈める。
…この人、自分の容姿気にしないのかな…。普通洗顔料とか使うだろ、乾燥肌か?
「ほら顔拭い…先輩、雑…」
「……」
思わずため息を付きながら、川村先輩の髪を軽くまとめて蒸しタオルを丁寧に巻いてあげる。
「桜井さん、川村先輩の荷物にヘアブラシ入ってる?」
「えっ?えっとちょっと待って」
「椿先輩、この人普段からこうなんですか?」
「「こうだよ」」
「…マジかよ…。親何も言わねえのか…」
「一人暮らししてるらしいっすよ」
「……この人が?」
「「その人が」」
「やらせんなよ…」
「間宮君、あったよ。新品」
「……ずぼらだな…」
部屋においてあるドライヤーを借りて寝癖直して、長い髪を整える。
「間宮、慣れてる?」
神里先輩の疑問にドライヤーを止めて、先輩の髪をハーフアップに纏めながら答えた。
「慣れてますよ」
美月と凛月相手に散々やった経験があるし、なにより小さい頃は二人とも髪が長かった。
「えっ?ヘアゴム何処から…?」
「普通に持ってますよ、俺も偶に使うんで。…はい。こう見るとホント人形みたいだなこの人…。ほら、先輩着替えて…」
視線を上げると、鏡越しに川村先輩と目があった。なにやら目を見開いている。
「……おい女顔」
「なんですか?」
「……いや、なんでもない…」
どうやら寝ぼけてたところから目が覚めたらしい。
部屋に向かった先輩の足取りは普通だった。
先輩が部屋に入りぱたっとドアが閉まった瞬間、先輩達が集まってヒソヒソと話し始めた。
「「今の顔見た…!?」」
「真っ赤だったっす」
「アタシあんな理緒先輩知らないんですけど…」
「間宮君って美容師でも目指してるの…?」
桜井さんのそんな質問に首を振る。
「…慣れてたらできるでしょ」
「よおなんも抵抗無く触れるなあ…」
「男子高校生が何気なくやってたら『えっ?』ってなるっすよ」
「…それもそうか…」
確かに軽率な行動だったかも知れない。でも仕方ない、やってしまったから。
「あ、因みにさ」
「君は髪の長い女の子が好き?」
「それとも短い女の子が好き?」
椿先輩の質問連携、俺は大人しく答えた。
「長い方が好きですね」
一瞬ピクっと神里先輩が反応した。…そもそも長髪好きになったの君のせいですけどね。
「「へえ〜…」」
「でも短い方が楽っすよね色々と」
「俺もそう思いますよ。だからこそ長い髪を丁寧に手入れしてる女の子に魅力を感じるんじゃないですか」
「なるほどそういう感じっすか」
そんなことを話していると、川村先輩がゆっくりと出てきた。
…うん、さっきと違って身だしなみは大丈夫だな。
「…おはようございます、川村先輩」
「………おう…」
反応が薄い様に見えて照れてるのが丸わかり。
「…俺こんな川村先輩知らない…」
「「誰のせいだろうねぇ〜」」
「うるせぇぞ椿…。さっさと行くぞ…」
「「は〜い」」
「…じゃあ、行きますか……弁当作り」
「「憂鬱だなぁ…」」
「しゃーないっす」
「三年目だよこれ」
「三回もやってるよこれ」
「全員ですよね、大変やなあ…」
今から下の厨房に行って、朝食を済ませてから直ぐにお昼の用意をすることになる。
…参加者全員分も。
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