第53話 刺々

 生徒会の面々が作った想像以上に美味なカレーに舌鼓を打ちながら、視線はずっと神里先輩に向けられていた。


 なんか、無意識の内に見ちゃうんだよな。


 モテるのも納得。


 告白されまくるのも納得。


 夜空と違って男の気配が無い分ハードルは低い。

 当の本人が一切男に興味を示さない事だけに目を瞑れば。


 一体彼女の何にここまで惹かれるのだろうか。


 理由は案外簡単に分かった。

 俺の周りには似たような奴が居るから。


 例えば夜空の様な大和撫子的な容姿から醸し出ている周囲を圧倒するオーラ。


 例えば凛月の様に特別感のある容姿と万人受けしやすい性格。


 それらとはまた違った特別感。


 小さくて、見つけるのが少しだけ難しい。

 魅力に気付くのが難しい分、その花はとても美しい。

 だが、夜空以上に鋭い棘が幾千にも渡って針山の様に尖っている。


 例えるならば…


 凛月は誰もが発見できて、触れることができて、その香りに目を細める事を許される大輪の花。


 夜空は誰もが憧れ、崇拝し、その姿を見上げる…人によってはそれを叩き落とそうとする、高嶺の花。


 神里先輩は地に伸びて小さな花を咲かせている。その花は見たもの全てを魅了する圧倒的な魔性の魅力を持つ…が、近付こうとすればとにかくツタが絡まり、棘に襲われる野花。


 その花は身近にある分、触れようとする奴が多い。

 そして棘に阻まれる。

 美月や紗月さんが、これに近い魅力を持っているな。



 そんな結論に一人納得しながら、カレーを完食。


 …うん、美味かった。


 結構びっくりするレベルで美味かった。


「…あれ、早いね」

「美少女集団見ながらゆっくり食事するとか無理です。そんなに俺の精神は強靭じゃないので…」

「ハーレムだよ?」

「いや、ハーレムに興味はないです。ここ日本なんで」

「なら生徒会のメンバーなら誰に興味あるっすか?」


 いや、なんでそんな事を聞くんだよ?


「…取り敢えず福島との噂が絶えない双子は論外として…」

「「論外…!?」」

「普通に神里先輩と川村先輩ですかね」

「は?アタシは?」

「いや、生徒会なのに校則違反の先輩と仲良いとか噂されるのすら嫌だし…」

「しゃーないじゃん、元の赤毛でも校則違反って言われんだから!黒染めとかなんかやだ!」

「…それで何故あえて金髪なんですか…?」

「や、対抗心?」

「その対抗心で悪化してるし…」

「ゆーて成績良いし素行も良いからほぼ咎められてないけど」

「たち悪いなこの先輩…。生徒会って一応、全校生の見本になる事も大事ですよね」

「一応じゃねーし」


 体格の割に結構食べる川村理緒ロリ先輩が小言を挟んだ。


「なら金髪やめろよ」

「いっや“ロリ先輩”それは…」


 今のところ俺しか使ってなかったあだ名、松坂先輩がそれを使った瞬間、軽く人殺せそうな眼光で睨み付けた。


「殺すぞ松坂」


 ドスの効いた、怒りがよく見える声色と鋭い眼力で睨みつけられ、松坂先輩は思わずのけぞった。


「ひっ…!?な、なんで間宮は受け入れてもらえてんの!?」

「松坂先輩、人の事をコンプレックスで呼ぶのはちょっと…」

「アンタが始めたんでしょうが!!」

「いや、俺は敬意を込めてますから。それに一方的じゃなくてコンプレックスで呼び合う仲なんで」

「お前との仲なんざ数時間ねえだろ」

「先輩ほんと、その口調どうにかしたほうが良いですよ、本当にここ生徒会ですか?」 


 ラフすぎるよこの人たち。


 まあ、成績優秀でかつ仕事のできる人たちだから成り立ってるんだろうけど。


「間宮君なんでそんなに…」

「あたしそんなラフに話せんよ…?」


 君等は遠慮しないほうがいいよ、この人たちそんなに気にしないと思う。


 ふと、聞いて置かなければいけない事を思い出した。


「あ、そうだ椿先輩」

「「はいはい」」

「部屋割りって俺の部屋どうなってるんですか?」

「ん、なにが?」

「いや、どこ探しても俺の部屋がなかったので」

「「…えっ…?」」


 グループは縦割り班だが、部屋割りは流石に学年と性別で分けられている。


 だが事情があって生徒会は纏められている。今年は全員女子だから特に問題も無い。


 補佐の俺を除けば。



 ◆◆◆



 昼食を済ませ、生徒達が部屋づくりを終えて、全部のグループが一度外に集まった。


「よかった、一年生も馴染めてますね」

「君ほどじゃないよね」


 次に行う活動のオリエンテーションをしている最中、俺は生徒会メンバーに混じってレクリエーションの準備を手伝っていた。


「にしても、生徒会ってこんなことまでやるんですね」


 俺が何気なく言うと、昼の用意をサボったので真面目にやってる神里先輩が話してくれた。


「課外活動は基本的に生徒主動、でも林間学校は学校側が主動。私達がやるのは手伝いだけ」

「しょーじき、つまらないっすよね」

「これぐらいのが楽で良いっしょ」

「大自然でヒャッハーできるほど若くないのよ〜」

「華怜先輩、同級生がヒャッハーしてるんですけど…」

「まったくガキだなぁ〜」

「玲香先輩も同級生っすよね」

「お前ら黙々とやれようるせえなぁ…」

「「「「はーい」」」」


 …仲良いよな生徒会メンバー…。


 因みに一年生二人は先生達の雑用、俺は重い荷物があったら運んでいる。

 二、三年生はウォークラリーの後に、夕方から行うキャンプファイヤーの用意。


「あ、そうだ聞こうと思ってたんですけど」

「はいなにかな?」

「俺の部屋結局どうなりました?」


 玲香先輩にそう聞くと、玲香が視線を動かした。それに釣られて目を向ける。


「間宮は私が預かる」

「ん…どういうことです?」


 神里先輩がぼそっと呟いた。


 生徒会のメンバーは全員同じ部屋に集まっており、つまりは一部屋に八人。


 それなのに神里先輩に預けられるとはこれいかに…。


「間宮君は結月と二人部屋ね」

「……?俺の事殺す気ですか?それ全男子にリンチされてもおかしくないですよそれ、ねえ…それやばいって」

「仕方ないじゃん、流石に空き部屋一人で使わせられないって言うんだもん」

「それで何でよりによって神里先輩なんですか!?」

「不満?」

「神里先輩であることが不満というより、神里先輩であることで発生する二次被害が不安です」

「…寝込みを襲ったりしちゃだめだよ?」

「ロリータ先輩なら襲わずに済みますよ」

「女顔、私は夜見回り手伝うからダメだ。あとお前の監督は副会長だ」

「そうだったんですか…?」


 なにそれ知らなかった。

 て、おい!?

 神里先輩もなにそれって顔してるよ?


「…私のこと襲うの?」

「先輩はいばらいばら棘々トゲトゲなんで触れることすら難しいです」

「……?」


 触ったら怪我する奴だから。

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