第51話 林間学校

 南とは現地解散、その後俺は店が閉まるまで周辺で時間を潰した。


 しばらくして店から出て来た顔見知りに声をかける。


雛乃ひなの先輩、お久しぶりです」

「あっ…間宮君、だよね…?もしかして待ってたの?」

「はい、久しぶりに話したかったので」


 榊雛乃先輩。

 中学の時に一番世話になった先輩だった。


「私と居て良いの?さっき彼女と居たでしょ?」

「あれ友達ですよ」

「え〜…?あれが友達の距離感かな…?」

「まあ確かに距離感は違いますね…。まあ、でも友達です」

「…ま、そこまで言うなら良いけどね。こうして話すのは君の卒業式以来かな?」

「そうですね」


 それから俺は雛乃先輩と会話を弾ませながら駅前に行った。



 ◆◆◆



 6月も中旬に入る頃。


 体育祭の振替休日と土日を使った二泊三日の林間学校が始まった。


 因みに俺の班は生徒会。


 乗ってるバスの先頭の席に生徒会グループが固まっていた。


 …生徒会役員は一年生が二人。二、三年生が三人ずつ。

 縦割り班のグループとしては一人足りないので、俺が人数合わせとして入っている。

 そのついでに生徒会の手伝いもさせられる。


 一年生のメンバーは俺と桜井美琴さんと、一年四組の烏間からすま伊織いおりさん、本人曰く関西出身ではあるがエセ関西弁らしい。

 二年生は生徒会副会長でどこか掴めないミステリアスな印象の神里結月かみさとゆづき先輩。

 明るい印象で…〜っす…の中村架純なかむらかすみ先輩。

 明らかに校則違反の金髪ギャルな松坂優美まつざかゆみ先輩の三人。


 三年生は超美人な生徒会会長で最近福島との噂が絶えない椿玲香つばきれいか先輩。

 超美人な生徒会長の双子の妹で会長と瓜二つ、最近福島との噂が絶えない椿華怜つばきかれん先輩。

 高校3年生とは思えない低身長を誇る合法美少女ロリで口の悪い川村理緒かわむらりお先輩の三人だ。


 俺はそんな美人美少女が集う生徒会の人数合わせ&補佐を行う事になった。。


 俺は面子を見回して初めて気が付いた。


「…俺が人数合わせに選ばれたのって…福島の代わりですか?」


 美人な双子の先輩に聞くと…


「「あ、バレた?」」


 と綺麗にシンクロした返事が返ってきた。


「…流石に分かりますよ」

「いや〜福島君来ないって言うから、代わりに良さげな人紹介してって黒崎先生に聞いたら…」

「都合の良い人が居るって言うから、黒崎先生の紹介そのまま採用したら君が来たのよ」


 黒崎先生の紹介か…なら仕方ないか、世話になってる分こういう時は逆らえない。


「神里先輩、生徒会ってこれで全員?女子だけですか?」

「そう、全員女子。だから力仕事のできる人が良かった」

「俺も一応、力仕事はできますよ…?」

「なら誰でも良い」

「そっすか…」


 …相変わらず何考えてんのか分かんねえなこの人…。

 その横でウェーブのかかった金髪を揺らしながら松坂先輩が大袈裟に独り言を呟いた。


「あーあ、せっかくならアタシは噂の福島君と色々話したかったんだけどな〜…」

「噂の福島じゃなくてスミマセンね…」


 俺がそう呟くと、前の座席の川村先輩が反応した。


「ホントだよ。誰だ間宮って」

「さあ〜、誰っすかね〜?」


 やはり誰が相手でも語尾が…〜っす…な中村先輩が川村先輩の言葉を受け流した。


「間宮って一々可愛い反応するよね」

「間宮って先輩に可愛がられるよね」

「…椿先輩って双子にしても似てますよね」

「「そうかな?」」

「俺の知り合いにも双子居ますけど、何一つ似てませんからね」

「「はえ〜…」」

「……何かうぜえなこの先輩…」


 さっきから声揃えて反応してる椿先輩×2に何となくイラッとしながら


「間宮君…なんでそんなに先輩に馴染めるの…?」 


 戸惑い気味の桜井さんに、コミュニケーションの秘訣を教えてやる。


「…いい?桜井さん。体育会系じゃない限り、年上にはラフでフラットに接するのが大事。無駄に畏まると見下されるだけだからね」

「ちょっと〜、その言い方は悪いんじゃない?」

「いや、でも松坂先輩って俺の事あんまり好きじゃないですよね?」

「だってぽっと出だもん」

「ほらな、めっちゃ見下されてるだろ?」

「……にしては初見で仲良くなりすぎじゃない…?」


 桜井の困惑に、何故か中村先輩がフォローを入れてくれた。


「間宮はなんか話しやすいっすよ。こっちに遠慮しないし冗談通じるんで良い奴って分かりやすいっすね」

「あ、それは分かるわ。バカにはするけど間宮ってバカな感じしないもんね」

「バカにはされないきゃいけないんですね」


 一々言われたことに返していくと、前の席からとうとう睨まれた。


「おい…ちょっとだまれ“女顔”」

「なんですか“ロリ先輩”会話に混ざりたいならそう言ってくださいよ」

「おい、この生意気な女顔つまみ出せよ」

「口の悪いロリ先輩は機嫌悪いみたいですね、良いことでもありました?」

「お前、煽り返さなきゃ死ぬ病気にでもかかってんのか?」

「そっちこそ、言葉遣いどうにかしたほうが良いんじゃないですかね、せっかく可愛い顔してるんですから」


 かたっと前の座席が揺れると隣の桜井は思わずビクッと震えた。


「はあ…?」


 声だけで死人が出そうなレベルの威圧感。


「……えっ、川村先輩ってこんな人なの……?」

「…ツンデレ通り越してるな」

「誰がツンデレだ…?」

「「理緒は可愛いなあ」」

「黙れ」


 声を揃える椿先輩二人にドスの効いた声で言いながらガチ睨みをした。

 同級生に当たり強すぎだろ…。


「「は〜い」」


 楽しそうに反応する双子。

 隣でため息ををつく桜井さん。


「…先輩達癖強すぎ…なんでついていけんの…」

「だから面白いんでしょ。ね、烏間さん」

「…え、なんでこっちに話振るん…?」

「いや、ずっと黙ってるから…。クラス違うのは分かるけど、こういう時くらい話そうよ」

「…陽キャって凄いやなぁ…」

「ん、俺は陽の側じゃないよ?」


 どちらかと言うと、根っこは陰の側。


 陽のふりして表に立つのは得意だし、人と話すのも得意だし好きだけどこれは凛月を見て覚えた能力だからな。

 人の懐に踏み込むのには相手に近い話や思考を辿るのが一番やりやすいからそうしてるけど。


「…まあ冗談は置いておくとして…。椿先輩」

「「はい?」」

「…あ、スミマセン。玲香先輩」

「はいはい何かな?」

「えっと、自然の家でしたっけ。山道歩いてそこに向かうんですよね。先導をするって話ですけど…本当に俺が先頭で良いんですか?」

「うん、この生徒会運動得意な子ほぼ居ないから」

「……そういう意味ですか…」

「君確か、体育祭で凄くはしゃいでたでしょ?」

「確かにはしゃいでましたね」


 あの激戦を「はしゃいでた」で済ませるのはなんか福島に申し訳ないけど。


「体力は有りそうだなって。私達は一番うしろにつくから」

「本当に体力に自信無いんですね…」

「ガリ勉の集まりだからね」

「心外っす」

「アタシも心外だな〜」

「お前にだけは言われたくない」

「玲香よりはマシ」

「同じく」


 てことは…桜井さんはマシな方で、烏間さんは…分かんねえな。


「なんか不安になってきた…」

「ダイジョーブ、気楽にいこう!」

「…玲香先輩って案外雑な性格してますよね」

「玲香は仕事以外雑だ」

「あ、そうなんですね…」


 仕事はちゃんとやるんだ。


 …愉快だな生徒会。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る