第五章

第50話 冬に咲く彼女へ

「…どうした急に…?」

「別にどうもしてないよ、ただなんとなーく会いたいなって思っただけ」


 林間学校の話や席替えやいつものトラブルがあった今日の学校。

 突然、楠木南から…久々に話したいな〜…なんて連絡が来たので、放課後になってから俺はいつもの駅前に来ていた。


「…えっと…私のソロ曲聞いてくれた…?」

「ああ、聞いたけど…」

「……なら連絡してよ」

「えっ、ごめん」

「……フフッ、別にいいよ。真君はサラなんて見なくていいからね」


 むぎゅぅと首に抱き着いてくる。


 周囲から何かと視線を感じるが、南は気にする様子もない。


「…距離感近くないか…?」

「えー?そうかなぁ?ンフフ〜…」

「なんか上機嫌だな」

「真君と話せたからかなあ」

「ん?あぁ……え?」


 一旦納得しておくとしよう、聞き間違いではなさそうだし。


「ね、取り敢えず移動しよっか」

「…そうだな」


 流石に視線が気になったのか、南の提案で移動することになった。

 その道中、南はずっと腕に張り付いてきた。


 …久々に会った筈だし、絶対に距離感を間違えてるような気がする…。


 そもそも、そんなに仲が良いかと言われると中々答えに困るところだ。


「なあ南」

「なにかな?」

「…今これどこに向かってんの…?」

「え、どこがいい?」

「ノープランかよ…」

「いやいや、最初はラブホでも行こっかなとか思ってたけど…良く考えたらそんな仲でも無いなと改めたんだよ」

「それは良く考えなくても違うだろ…」

「冗談だよ、ちゃんと行くところは決めてる」

「……なんか冗談っぽくなかったような…?」


 …おおよそ高校生でアイドルやってる人が放ったとは思えないくらいに衝撃的な単語が飛び出た気がするけど…?


「はい、ここ」

「……猫カフェ…?」

「そ、最近できたの。友達にオススメされて、せっかくなら真君と行きたいな〜って思って」

「へえ…猫か」

「あれ、もしかして好きだった?」

「まあ…好きだな」

「じゃあ入ろう〜」


 なにやらハイテンション気味にお店に入っていく。

 まあ、別に猫カフェからそんなに警戒する必要もないだろう。

 流石にこの立地なら車が突っ込んでくる事もないだろうし。


 中に入ると、店員さんと話してる南を見つける。

 ふと、早速真っ白い体毛と宝石のような金目銀目のオッドアイが特徴的な猫が出迎えてくれた。

 …流石に人慣れしてるな。


 しゃがみ込んで優しく撫でてやると、俺の手に頬ずりしてきた。


「…珍しいですね、その子中々懐かないんですよ」

「へえ…」


 そう言われて顔を上げる。

 店員さんは綺麗な顔をした美人さん。


 俺はその人の顔に覚えがあった。

 それは相手も同じだった様で…。


「「あっ…」」

「…真君、席こっち…」

「え?あ、分かった」


 南に呼ばれてそっちに向かう。


 それにしても、本当に珍しい事もあるものだ。


 ふと、オッドアイの白猫は何故か俺のところについてきた。


「わっ、懐かれるの早っ…。この子かわいい〜。目の色綺麗…」

「写真は撮るなよ」

「それ真君のこと?それとも猫の方?」

「両方」

「え〜?真君は撮っても良いでしょ?」

「制服じゃなければ良かったけどな」


 クリームで描かれた可愛らしい猫の乗ったココアに口をつける。


「…ん……」

「…?」


 ヒョイっと、突然膝の上に白猫が乗って来た。


「……え…」

「………ん?」


 白猫に続いて、二匹ほど俺と同じ椅子に乗ってくる。


「………えっ…?」

「……ん???」


 少しすると、カフェの中にいるほぼ全ての猫が俺の周りに集結した。


「……おかしくない?」

「俺はマタタビだったのか…?」

「…すごい寄ってくるね」


 言いながら、向かい側から南も隣に座ってきた。

 そして猫たちに対抗するように肩に頭を乗っけてきた。


「なに対抗心燃やしてんだよ…」

「私も撫でて」

「はいはい…」


 他の猫たちと同じ様に頭を撫でると、嬉しそうに目を細めた。


 それから、ポツポツと本題を語り始めた。


「最近さ…」

「…うん」

「歌に注目されてきて、アイドルより歌手的な活動の方が増えてきたんだ」

「…ん」

「クラリス自体はすごく人気になってきたけど…それは、ほぼルカの功績。センターでダンスが凄いルカに対抗するって意味で私は人気になろうとしたよ。実際上手く行ったと思ってる」

「…そうだな」

「…でも、そのせいかな。レイが一歩下がってる様な感じがあるんだよ。遠慮とは少し違うんだけど…ああいうレイを見てるのは少し…不満」

「不満?」

「うん、不満。らしくないよ、あれは。冬ちゃんらしくない」

「……なるほど、それは不満だな」

「そうでしょ?」


 月宮ルカは“凛月らしさ”があり、南条サラは“南の理想のアイドルらしさ”がおおきく反映されてる。

 なら一体、冬咲レイは一体何者らしさがあるんだろうか。


「んー…俺が思うにサラが造花、ルカが野花。それなら冬咲レイってどんな子かな…生花かな」

「生花?」

「切り花とか、生け花って意味」

「…レイが?」

「生花は供花として使われたり、贈り物として使われるけど…それって結局、誰かの為の花なんだよ」

「うん」

「冬咲レイ、柊真冬って女の子は何かと周りを気にする、誰かの為に動こうとする。自分の夢のためにアイドルやってる癖に…南と凛月の関係を気にしたり、二人が人気になったら端役に徹したり」

「…確かに…」

「…結局、彼女の性格的に…表に出たいって本人が思わない限り難しいと思う」

「……ならさ、生花がメインに立つ瞬間ってどんな時かな?」

「ん、そうだな…自分からってよりは…誰かが、真冬の為に用意した舞台なら輝くんじゃないか?間接的とはいえ、それは誰かの為に該当するからな」

「そっか…」


 真剣に悩む南の事を見て、思わず微笑んだ。


「えっ、どうしたの?」

「ん…?いや、何でもないよ」

「……?」


 凛月の事はよく知ってる。真冬のことも、南のことも少しずつ分かってきた。


 知れば知るほど、強く感じる。

 話せば話すほど、いつも思う。


 …本当に良いグループだな、クラリスって。

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