第49話 トラブル体質の成れの果て

 〜side〜柊真冬



「…全員居るね、じゃあ今日は少し大事な連絡があって…」


 いや、全員はいない。

 私の隣の席が空いている。

 それに気付いた学級委員の朱音が小さく手を上げた。


「黒崎先生…あの、間宮君来てません」

「あ、彼はそろそろ」

「…すみません、遅れました。印刷機エラーして手間取りました」


 ホームルームが始まってから少し遅れて間宮真が教室に入って来た。

 手にはなにやらプリントを持っている。


 どうやら日直ついでに何かの手伝いをしていた様だ。


「…来たね、配ってもらっていい?」

「はい」

「週末の林間学校についての連絡。全学年が任意参加だけど…このクラスだと生徒会の二人は参加。野球部は居ないから、バスケ部は…」


 真君はプリントを配ったあと、黒板に林間学校の日程と活動内容を書いていった。

 その途中、資料を見て黒崎先生の言葉を遮った。


「…先生。東蓮寺と五十嵐は大会メンバー入ってるんで不参加です。それに柊と栗山、あと福島は任意行事は不参加ってありますけど…」

「そっか、まあ参加する人はそのプリント提出してくれれば良いから。今週中にお願いね」


 黒崎先生に続いて、どうしてか真君が説明を引き継いだ。


「日程は二泊三日、体育祭の振替休日がここに使われてて、不参加の人は三連休。クラス内で三人以上のグループを作っておいて、当日に縦割り班を作る」

「…縦割り班って何?」

「簡単な話、一班九人以上で三学年全員居るって状態のこと」

「へえ…」


 その後も何故か真君が林間学校の話を進めていった。私は参加しないから関係ないけど、真君の話を聞いて少し楽しそうだなと思ってしまった。


 なんか…無駄に説明が上手いし、想像力を掻き立てられる事ばかり言うし。


 私…その日クラリスで集まるから絶対に行けないけど。


「…大体こんなところ、質問ある?……無さそうだね、じゃこのままホームルーム始めるよ、取り敢えずこれ」


 真君は立方体の箱を教卓に置いた。

 黒板を綺麗に消してから、今度は図を書き始めた。


「はい、席替えするから。阿部から順番にくじ引いてって」



 ◆◆◆



 なんか凄い事になってる…。


 教室の真ん中に大翔、その周りを女子が囲むような形で席が並んでいた。


 どの方向見ても女子しか居ないの異常じゃないだろうか。


「…ふゆ、真冬!」

「んんっ!?な、なによ…?」


 突然隣の大翔が肩を掴んできた。


「大丈夫か?ぼーっとしてるぞ?」

「…ぼーっともするわよ。先生急に出てって自習なんて」

「何かあったんですかね…」


 自習時間、流石に他の教室の授業を妨げる程に騒ぐ人は居ない。だが平然と席を立ってる人は居る。

 真面目に自習してる人も居る。


 そんな中、真君は一番の後ろの廊下側。


 普段から話している五十嵐君や達也君といった男友達と固まっていた。


 机に腰掛ける阿部君や、五十嵐君らと何故かプロ野球の話で盛り上がっている。

 あの中に居ると案外普通の男の子だが、チラチラと見える横顔や笑顔はとても美人で、可愛いらしい。


「…ん…?」


 ふと、真君がこちらの視線に気づいた。

 だがすぐに視線を反らしてキョロキョロと周囲を見回した。


 突然どうしたんだろう?


「…おい、どうした間宮?」

「……いや、なんか……っ…!」

「おい!?それ!」


 言葉を続ける前に、少年は突然、筆入れを勢いよく投げつけた。


 ほぼ同時に、がじッという異音が教室の何処から聞こえて…すぐにカシャアンッ!と破砕音が響き渡った。


 しばらく呆然とする教室内、おそらく隣の教室に居たであろう先生が慌てて教室に入ってきた。


「おい!なんの音だ!」


 カツカツとわざとらしい足音を当てて男の先生がどこか苛立ちが見える表情で歩を進める。


 平然と真君が答えた。


「蛍光灯が落ちて来ました」

「はあ!?怪我人は!」

「居ないです。あ、桜井さん、そっちの窓開けて」

「えっ?なんで…?」

「確か蛍光灯って水銀使ってたよね、空気中に放り出されたかも知れないから、吸い込まないように換気」

「わ、わかった!」

「達也、ほうきとって」

「お、おう…」


 クラスメイトの殆どがかなり衝撃的な光景を目の当たりにしたはずたが、その当事者である真君は何故か平然としている。


 彼の投げた筆入れは落ちてきた蛍光灯を教室の前方、黒板側へと弾き飛ばした。

 そのお陰で…落ちた蛍光灯の真下の席に居た女子生徒は怪我をせずに済んだのだ。


 真君は蛍光灯の破片を片付け、ついでに筆入れを持ち主に投げ返した。


「…あ、五十嵐。勝手に筆入れ投げてごめん」

「い、いや…良いけど。お前、どういう反射神経してんだよ…?」

「ん、なんか…変な音聞こえたからな」

「え?聞こえたか…?」


 どう考えても、未来が見えてないと無理な判断だったと思う。

 彼の、少し前の反応からして本当に何か聞こえたのかも知れない。


花笠はながささんは怪我ない?」


 落ちた蛍光灯の真下の席に座っていた女子生徒、名前を花笠詩歩という…正直、影の薄い、暗い印象の少女。


 小柄で華奢、眼鏡。

 それ以外には良く知らない。真君が名前を呼ぶまで誰なのかも気付かなかった。


「えっ…あ…大丈夫……」

「なら良かった」


 真君は先生と並んで蛍光灯の外れた場所を見ていた。


「…経年劣化ですね」

「落下防止の留具ごと落ちたみたいだな」

「近いタイミングで点検とかしたほうが良いんじゃないですか?」

「そうだな、報告しておこう」

「ん…念の為、花笠さん席移動しない?」

「あ…はい…」


 真君は花笠さんの机を自分の席に後ろまで移動させた。

 …わざわざやってあげる必要も無いんじゃ…。


「あ…えと、あ…ありがとう…」

「どういたしまして」


 真君は自分の席に戻ると、少し退屈そうに欠伸をした。

 皆が自分の席に戻ると、静かになった教室内。


 隣に座る大翔がボソッと呟き、夜空もそれに続いた。


「ほぼ超能力だろあれ…」

「…トラブル体質の成れの果て」


 何となくあの二人、仲良くなった…?

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