第48話 心の相性

 トラブル続きだった夜空の誕生日。


 その日の夜の間に、一科目につき50問程を中学2年生までの学習範囲から引っ張り集めて、汐織の為の問題集を作成した。


 そして今日の朝、その問題集を汐織のスマホに送った。


 気の所為じゃなければドン引きされてたけど、まあやってる事がヤバいって自覚はあるから仕方ない。


 そして現在は昼過ぎ。

 日課になりつつある湊さんに渡される動画の編集をこなしてから、汐織と通話をしていた。


「…んー…思ったよりできてるな、六割なら充分」

『そうなん…ですか?』

「かなり難しいの作ったつもりなんだけどな」

『…難しかったですよ…』


 取り敢えず返ってきた答案を確認する。

 今回の科目は数学だけ。採点したところ50問の内、32問の正解。


 デジタルの問題集を送り、汐織はその問題を見てノートに答えを書く。

 その後に自己採点を行って確認作業、といった流れだ。


「取り敢えず未回答無しは偉い。それと、さっき言った事忘れるなよ?」

『勉強時間減らせ、ですよね。そんな事言われたの初めてです』

「シオは勉強に時間使いすぎなんだよ。正直、学年プラス1時間は止めた方が良いし、受験生だからって時間ばっかりかけたって意味はない。結局どんだけ時間使っても、一日で頭に入る量なんてたかが知れてるし、集中続かないだろ」

『…そういうものですか…』

「一日、どれだけ長くても三時間だな。最低でも1時間に一回は休憩はさみながら…」

『…あの…』

「…ん?」

『さっきから、打鍵音が凄いんですけど…』

「えっ、あ…うるさい?」

『うるさくは無いです。話しながらずっと途切れないのでびっくりしてるだけで…。何してるんですか?』

「…これ?君の問題集作ってる」

『…今ですか?』

「今だけど…」

『……この密度の問題を話しながら作ってる…?』

「そこらの問題集から、引用しながら…だけどな。それはともかく。取り敢えず一つ一つ解説してくよ」

『あ、はい』


 一度タイピングの手を止めて片側のモニターに視線を移す。




「…はい、これで一通り解説したな。基礎はほぼできてるしケアレスミスも特に無い、文章問題を取れるのもよし。ただ、俺が作った問題をほぼ取れてないことは問題かもな」

『…これ真先輩が作ってる部分なんですか…?』

「軽い引っ掛けとか、誘導が無い問題はそうだな。あと…図形も苦手なのか」

『…数学でひっかけ問題なんて出るんですか?』

「場合によるけど、算数レベルのひっかけとかは時々見かける。でもその“時々”で点数を取れるか取れないかってのは結構大きいし、何よりこういう問題は数理的な思考が求められるから練習として良い」

『…なるほど』

「数学で直感は信じない方が良いんだよな。どっかの二人も数学と英語は他の科目より点数低いらしいからな」

『…説得力が違いますね』

「ははっ…あとは…」


 それにしても、汐織は自身を卑下しているが…ハッキリ言って頭は悪くない。

 丁寧に説明すれば一回で分かるだけの理解力はあるし、記憶力も良い。


 なによりちゃんと話を聞いてくれる、分からなければ質問もしてくる。しっかりと理解しようとしてるのが感じ取れる。


 ただ勉強教えてるだけでこんなに好印象持てるって相当だな。


「…こんなところかな」

『…どこかの二人と違って、とても分かりやすかったです』

「ん…そうだろ?可愛い後輩の為だからな、分かりやすくもなるよ。明日は英語の問題を送る、因みに何が苦手だ?」

『リスニングが苦手です』

「…単語のスペルとか、文法は?」

『そっちは大丈夫です、自信あります。ほぼ暗記ですし…英語は結構、好きですから』

「それは良かった、俺も英語は得意な方なんだ」

『そうなんですか?』

「意外か?」

『意外…というか、昨日だけのイメージでは国語が好きそうだったので…。考え方が哲学的というか…』

「そうでもないだろ、国語が好きってのはその通りだけど。まあ国語というより、読む事と話す事が好きなんだけどな」

『確かに、そんな感じはします』

「リスニングに関しては…そうだな、今度良いところに連れてってやるよ」

『それは…あの人みたいな、デートのお誘いですか?』

「ん…いや、ちょっと違うかな。人に勉強を教えに行く機会があるから、そこに同伴させたいなと」

『…?』

「まあ、それは機会があれば、だな。それじゃ、今日はお疲れ様」

『こちらこそ、ありがとうございました』

「そう、一つだけ言っておく」

『…はい?』


 各々ちゃんとした理由があるのは分かっているが、取り敢えず…自己肯定感の低い姉妹は一度自己評価を改めさせた方が良い。


「シオは…君や、君の親が思うよりも賢い。今すぐに自信を持つのは難しいだろうけどな」

『…そう言ってくれるのは、真先輩だけですよ…?』

「今年中には、俺の意見を信じられる様になるから大丈夫」

『本当ですか…?』

「断言できるけど」

『…なら、信じます。真先輩の言葉を』

「ん、ただ信じるんじゃなくて…。考えて、なんで俺が断言できるのか、その根拠を探そうな」

『えっ…は、はい』

「人と話す時に言葉一つ一つの根拠を探す。その人の思考回路とか、考えのパターンってのが分かるから。それは色んな勉強とか、コミュニケーションに使える。できて損はないよ」

『…凄いですね、本当に』

「だから、君ならすぐできるって。あんまり栗山汐織を卑下しないように」

『はーい』


 軽い返事を聞いてから通話を切る。


 …多分初めてだな、こんなに明日話すのが楽しみなの。女の子と話すのってこんなに心安らぐ物だっけ?


 それにしても、汐織と話すのは楽しい。

 汐織から気を使われてる感じも無いし、俺も気を使う必要が無い。


 俺もしかして…相性が良いのかな、素直な女の子と。俺のことを理解しようとしてくれるのも、やっぱり点数高いんだよな。

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