第45話 慣れてる
「お人好しなんですね」
「親にそう育てられたからな」
「さっきも言ってましたね、誇らしそうに」
「誇るつもりはないよ。そのお人好しのせいで怪我することだってあるからな」
「そうですか」
結局デートはできなかったが、せっかくの夜空の誕生日ということで、四人でファミレスに来ていた。
注文を終えてドリンクを取りに行った二人と、隣の席に座る栗山汐織。
彼女も亜麻色の綺麗な髪をしているが夜空よりも少し長い。ポニーテールに纏められており、表情が柔らかいので夜空よりも活発な印象を受けた。
俺がじっと見ていると、少女は眉をひそめた。
「なんですか?」
「いや…。君も綺麗だな」
「口説いてるんですか?」
「事実を言ったまでだろ…。姉妹揃ってモテるんだろうな…と思っただけだ」
「…あの人達と一緒にしないで下さい。私は影が薄いので」
「ん…?」
俺が出会う美少女って大抵目立つんだけどな。
それはそうと、やっぱり姉のことを『あの人』と呼ぶんだな…。
「…お姉さんの事嫌いなのか?」
「嫌い…なんですかね、自分ではよく分かりません。あの、間宮さん…」
「あ、真で良いよ」
「…では、真さんにご兄弟は居ますか?」
「いや、一人っ子だよ。幼馴染…身近に姉妹は居たけど」
「…姉二人が優秀だと、比べられるんです」
「…一番上も優秀なのか?夜空が頭良いのは知ってるけど」
「幼少の頃から芸能界に居て、女優やりながら偏差値70超えの大学通うくらいには優秀です」
「才能あって努力もできる人か…」
「…才能もない、努力もできない私と比べないで欲しいです」
「勉強が苦手なのか?」
「頭を使うのも、体を動かすのも、人前に出るのも、人と話すのも苦手です」
姉二人が優秀で、自分だけできない。
少し既視感のある美月を知っているが、彼女も妹である凛月と比べられる事は多い。
まあ…そうなっても、時間が経てば凛月が異常なだけだと勝手に分かるのだが。
加えで美月は才能が無いわけでも努力が出来ないわけでも、まして比べられる事に凛月に対して劣等感を覚える事も無い。
一方でこの子は中学でも、今後高校に入ってもそういう事は多いんだろう。
「…俺と話すのは大丈夫なんだな」
「それは……はい。真さんは話しやすいです」
ふわりと笑み浮かべた。
窓からさす光に照らされる美少女というのは、目の保養に丁度良い。
ふとそこで、その窓の外から近づく異常と脅威に気が付いた。
「ん…?あ…ちょっ…!?」
「へ?何を!」
俺はすぐに眼の前の少女を抱き寄せて立ち上がり、その席から後退しつつ少し離れた。
ガシャアアアッ!!!!
ファミレスの、丁度俺達が座っていた席にスポーツタイプの車両が突っ込んできた。
飛び散るガラスと、耳をつんざく破裂音。
崩れる壁と、車両の半身が建物内に入って来てもまだ進もうもする車から距離を取る。
どうしてこう、ぶつかってくるタイプの車に縁があるんだろうな俺は?
悲しい事か幸いな事か、トラブルへの対応というのには慣れた物で、咄嗟の反応で怪我なく退避することができた。
周囲から響く悲鳴に混じるエンジン音、フロントの潰れた車は少ししてやっと止まった。
見た感じドライバーはエアバッグのお陰で無事。近くの席に人は居なかったから、怪我人は居ないだろう。
「危なかったな」
「よ、よく気付きましたね…」
「…慣れてるから」
「………」
中学の時事故にあったのと、その後に一度轢かれそうになった経験がある。不本意ながら、車の異常には何かと敏感になっている自覚がある。
少しして、車から降りたドライバーと店員が話していた。どうやらすぐに警察も呼んだみたいで、対応の早い人達だと感心する。
「…あの…」
「ん?」
「……いつまでくっついてるんですか…」
「言われるまでずっと」
「なら言いました、離してください」
少し顔を赤くしながら、恥ずかしそうに言った。
この子、一々反応が可愛いな。
夜空も普段からこれくらい表情豊かになれば可愛げがあるのにな。
…あいつ不意にくるから分かりにくいんだよ。
少し離れると、少女はペコッと頭を下げた。
「…ありがとうございました、おかげで助かりました」
夜空と瓜二つなせいで素直なのが違和感あるが、普通に良い子だな。
「どういたしまして。まあ、あのまま居たら俺も危なかっ…」
「…二人とも大丈夫だったか!」
慌てた様子で福島と夜空が走ってきた。
「走るなよ他の客も居るんだから」
「そういう問題じゃねえだろ!汐織、怪我は?」
「ありません」
「良かった…」
…ん?汐織って呼び捨てにしてんのか…。
あ、いや別におかしくはないのか、幼馴染の妹を呼び捨てにしてても。
考えてみれば、俺が渚のこと呼び捨てにしてるのと同じだ。
「…何があったの?」
「見ての通り」
「車が突っ込んできたの?」
「丁度、俺達の座ってたところにやっ…」
「避けたの…?」
「…慣れてるから」
なんで福島も夜空も俺が喋ってる最中に被せて話して来るのかな。
「………」
ふと、やっと来た数人の警察に目を向けると…なんと知ってる顔を見かけた。
「あれ、真?」
こちらに気付いて声をかけてきた、警察服を着たイケメン。名前を川崎拓真さんと言う。
天音さんの秘書をしている川崎亜紀さんの夫。
つまりは晶の父親で、警察官をやっている。
因みに湊さんとは古い友人らしく、付き合い自体はかなり長いそうだ。
俺も何度か話したことがあるし、手を煩わせた事も一回や二回じゃない。
「どうも、拓真さん」
「やあ、相変わらずのトラブル体質だね」
俺が普通に警察と話し始めたからか、福島達はギョッとしていた。
「…トラブル体質って、基本的に俺悪くないですよ?」
「そうだね。あ、怪我人は?」
「珍しく居ません」
「…珍しいね」
「珍しいですよね」
「うん、真が怪我しなかったのは珍しいね」
「そうですね」
「…否定しなよ」
「できないんで」
何かあるとすぐに怪我するからな。
俺は何も悪くないのに怪我すること本当に多いから、全く否定できない。
ふと、拓真さんが俺の顔を指さした。
「…それは?」
「これは三時間くらい前のやつです」
頬の絆創膏に触りながら、俺は作り笑いをした。
「結局怪我はしてるんだね…」
「まあ、普段通りですよ」
「そうかい…。じゃあ、僕は仕事に戻るよ」
「はい、お疲れ様です」
拓真さんはプラプラと手を振ってドライバーの元へ向かった。
踵を返して、福島達に向きなおる。
「…取り敢えず、店変えるか」
「お前、眼の前で事故あった直後でなんでそんなに平然としてんだよ…」
「…慣れてるから」
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