第35話 おかしな話

 放課後、なにやらハーレムつれて校庭に向かった福島大翔を発見した。

 部活に行く人と夜空を除く、クラスの女子全員が福島について行ったもよう。

 何が起こっているのか分からないが、夜空は何も言わずに俺の近くに来た。


「…一人はやる気出たよ」

「一体何をやってんのあいつらは?」

「練習。…朝言ったよ、やる気出せばいいって。だからアドバイスしてきた」

「何言ったんだよ…」

「魔法の呪文、真にも同じこと言おうと思って」


 嫌な予感しかしないんだけど、誰か助けてくれないか?ホントに呪文かも知れないから。


「…100メートルシャトルランで福島に勝ったら、私と一日デート。福島には真に勝ったらって言った」

「……あ…えっ?何それ…」

「因みに私、福島とデートとか絶対に嫌だから、勝ってよ?」

「……夜空、それ福島はやる気出るだろうけど、俺には拒否権のない脅しみたいなもんだろ」

「…そうだよ?」


 かわいい顔で…そうだよ?じゃねえよ!


 マジで真面目にやらなきゃいけなくなったじゃねえか。呪文とはよく言ったもんだなぁ。


 要するに、福島からの好感度と夜空からの好感度を天秤にかけさせられたという事だ。


 俺が勝ったら福島からのヘイトが上がって、夜空からの好感度も上がってついでに学校で話してても違和感がなくなると。

 そんで福島が勝ったら、福島が喜んで夜空が不快な思いをするだけ。


「いや、流石に好きな人とのデートだったら福島と言えどちゃんとしたプラン立てるだろ。割と楽しめるんじゃないのか?」

「そういう問題じゃない、これで福島に調子に乗られるのも困る」

「ならなんでそういう事言ったんだよ…」

「…真とのデート、前と違ってクラスメイト公認なら邪魔入らないかなって」

「…それは何?俺と遊びに行きたいの?」


 夜空は少し目をそらして、こくっと小さく頷いた。

 …何このクーデレ美少女?

 俺の知らない分類に居る美少女なんだけど。


「…はあぁ…わかったよ、福島に勝てば良いんだろ?」

「…調子付けさせてから、こう言うのもあれだけど…。福島がスポーツで人に負けてるの見たことないよ?」

「あの身体能力だもんな。まあ、でもいいよ…真面目に、正面から、正々堂々とやって勝てば文句も言われないだろ」


 平然と俺がそう言った事に対して、夜空は驚きを見せていた。

 そりゃ負けてる姿を見たことが無いと言ってるのに、俺は寧ろ“勝てないわけが無い”と言う装いを見せてる訳だから。


 正直、俺は別に勝てるとも思ってない。

 ただ、負ける気はない。

 不正はしない。今回は、全力で意地を見せるだけ。


「…じゃ、俺は帰る。夜空は本番までにデートプランでも立てておいたら?行きたい場所とかあるだろ」

「……凄い自信。秘策でもあるの?」

「ないよ、普通にやる」

「…それで勝てるの?」

「勝てる」


 軽く手を振って教室を出る。

 確かに廊下から校庭に目を向けると、確かにシャトルランの練習をしている福島と応援なのかサポートなのか分からない女子達。


 彼女達は福島に勝って欲しいなんてだろう、なんせ夜空とデートとか、絶対にふざけんなって話だからな。


 多分彼女達は俺に勝って欲しい。

 あわよくば俺と夜空がくっつけば、傷心した福島を慰めて、なし崩し的にゲットできる。


 福島にはこのままプレッシャーで潰れるなり、本番前に疲れ果てるなりしてくれれば良い。


 それがないなら、大人しく勝負するけど。



 ◆◆◆



「…てことがありましたね」

『お前の高校生活、充実し過ぎだな』

「青春してる奴が居ると巻き込まれるんですよ…」


 湊さんとボイスチャットで話しながら動画編集を進める。因みに今湊さんは北海道に居るらしい。マジで何で?


『そういや、真は彼女とかつくらないのか?』

「今のところないんじゃないですかね。欲しいな〜と漠然と考えたことはありますけど、本当に漠然と」

『ほーん…なんなら、その栗山って子は?』

「気に入られてる感じはありますけどね。多分、男関係はウンザリしてると思いますよ」

『お前の周りそういう奴しかいないのか…?』

「俺の周りって多分、三分の一は湊さんの関係者ですけど」

『そういう話で行くと、うちのは三人とも恋愛そのものに興味無さそうだからなあ…』

「無いでしょうね。湊さんと紗月さん見てると、理想が高くなりますからね」


 互いに一途で一生イチャイチャしてそうな夫婦だから。


『俺達は大分、出会いが特殊なんだけどな』

「そうなんですか?」

『凛さんの関連だからな』

「それ面倒事だったってことじゃないですか」

『マジでその通りだよ』


 聞こえてくる笑い声はなにやら楽しそうで上機嫌。

 湊さんがここまで機嫌がいいのも少し珍しい。


 不意に背中を軽く叩かれてイヤホンを外すと、黒崎先生がラフな格好で近くに来ていた。


「…夕飯できたよ」

「ん、分かりました」

『おう、じゃあ…今のやつは明日までにはよろしくな』

「今日中に送りますよ」

『了解。体動かすんなら、ちゃんと寝ろよ』

「分かってます。じゃあ、お疲れ様でした」


 借りている私室からリビングに戻る。


「…体育祭の方、大丈夫なの?」

「何がですか?」

「体の方」

「大丈夫ですよ、一応は明日の放課後に診察受けます。まあそれに、走るだけなんで」

「走るだけって言ってもかなりきついよ?」

「きついのは承知ですよ、心配しないで下さい」


 自分の体は自分が一番わかってる…とまで言うつもりはないが、どのラインが無理してるのかは分かる。


 今回は無理するのは本番だけ。それ以外で余計な体力を使うつもりはない。


 練習するにしても、やることなんて大体決まってる。

 体を慣らす時間もある。“俺自身”に問題は特にない。


 この勝負は「間宮真の意地と才能」VS「福島大翔の主人公力」という戦いだから。

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