第34話 やる気の出し方

 翌日、学校に入る前。

 チラチラと視線を感じながら教室に向かうと、やはりというべきかクラス全員にしばらく見つめられた。


 そして少しすると、教室に達也が入って来た。


「おーす、真。お前今日……おまっ…は?髪切った…?」

「そうなんだよ、そしたら朝から視線感じてさ。自分で切ったから失敗したのかと思って…かなり上手く行ったつもりなんだけど…」

「い、いや。そういう問題じゃねえだろ…!」


 予想通りの反応に思わず俺も素で笑ってしまった。


「ははっ、やっぱそう?じゃあ、顔かな…」

「そうだけどな?そうだけど取り敢えず、なんで急に髪切ったんだ?」

「走る時、前髪邪魔でしょ?」

「めっちゃその通りなんだけど!正論なんだけど!ならなんで今まで長かったんだよ!」

「この顔、目立つんだよ」

「分かってんならさっきのやり取り要らねえだろ!?」

「さっきから…叫びすぎじゃない?」

「誰のせいだと…」


 コイツ今日テンション高いな。相当気合入ってるんだなきっと。

 

 まあ俺のせいなんだけどね。


「取り敢えずこの不毛なやり取りやめよう、それでどう?」

「はあ?どうって?」

「いや、だから…似合ってる?」


 自然な笑みを意識してふっと口角を緩める。

 釣られて笑ってしまうやつじゃなく、一発で惚れさせるタイプの笑顔。


 呆然と見つめてくる達也に対して、視線をそらさず見つめ返す。


「………」

「…なんか言ってよ」

「……ちょっとトイレ行って来る」

「えっ?あ、いってらっしゃい」


 なんの感情もなく荷物をおいて廊下に出て行った瞬間、とんでもないダッシュで廊下を駆け抜けていった。


「…なによ今の?」


 入れ替わりで教室に入って来た柊真冬。


 隣の席に座って、俺のことを見るなり一言。


「…ゴールデンウィーク以来ね、その顔ちゃんと見たの」

「今月中じゃん」

「……やっぱりかわいい顔してるわよね」

「真冬には負けるよ」

「ばかじゃないの?」


 なんでそんな事言われなきゃいけないの?

 俺わりと、真面目に褒めたつもりなんだけど、その言い草は酷くない?

 何が悲しいって、ツンデレトーンじゃなくてガチトーンで言われたのが悲しい。


 ふと、真冬の後ろからひょっこりと夜空が顔出した。


「…真、ちょっとこっち見て」


 突然後ろから出てきた事と、夜空が俺を呼び捨てしたこと、合わせて二回ほど真冬がぎょっとした。


 見てと言われたので顔を向けたら、パシャパシャっと二回、シャッター音が聞こえた。

 こちらにスマホが向けられている。


「ちょっ…何撮ってんのよ!?」

「…写真、共有する?」

「いや要らな…! …くない。見せなさいよ」


 欲しいは欲しいのかよ。


「こんな感じ」

「…夜空あんた、意外に撮影上手いわね」

「写真は結構好きだし」

「…で、何で急に真君の写真なんて…」

「…可愛くない?」

「かわいいけど…」


 何を話してんのこの二人?なんで急に写真?


 あと、君達仲良かったの?

 …いやまあ冷静に考えてそうか。小学校からの付き合いだったな、これくらいの会話はできない訳が無いか。


「…因みにこれも真」

「えっ?嘘?これも…っていつ撮ったのよこんなの?」

「ゴールデンウィーク中に…。あ、これ福島には内緒にして」

「それは良いけど…」


 その写真もしかしなくても二ノ宮まことじゃね?ちょっと待てよ、お前マジでいつ撮ったんだそれ?


「いつの間に真君と呼び捨てし合う仲になったのよ…」

「いつの間にか」

「あっ、そう…」

「…真冬は、早く福島とくっつきなよ。私は真の事貰うから」

「っ…!?は、はあ!?」


 凄いな、めっちゃからかうじゃん夜空。案外仲いいんだなこの二人。

 これは知らなかった、ちょっと意外だったな。


 あと何気に、俺が夜空に貰われることになってるのはなんなの?


「…取り敢えずさ。二人とも後ろ、どけてあげなよ」


 俺がそう言うと、後ろからすぐに桜井さんが入って来た。

 スレンダーな体型。セミロングの赤茶髪をハーフアップに纏めた美人系。


「えっ、何?急に道が開いたんだけど」

「いや、桜井さんいっつも同じ時間ぴったりに来るから道開けなよって言っただけで」

「良く知ってるね、ところで君誰?」

「間宮真」

「…間宮君…。イメチェン?」

「3割正解」

「それはもう間違いでしょ、三角すらつかないって」


 意外にノリが良いな。

 ほかメンツと違って福島意外には興味を示さないタイプのようで、桜井はすぐに切り替えてみせた。


「あ、皆授業前には着替えておきなさいよ。1時間目から体育だから」

「ん…変わった?」

「そうなの、来てない人居たら教えてあげてね」

「分かった。ほら、二人も席に戻りなよ」

「アタシの席ここだし…」



 ◆◆◆



 体育の授業(体育祭の練習)が終わったあと、教室に戻りながら、やっと冷静さを取り戻した達也と話していた。


「…スウェーデンリレーが一番見てて面白いかったね」

「そうかぁ…?」

「ほら、三百メートルだけ走ることってあんまりないし、見る方も走る方も新鮮でしょ」

「お前、今日ほぼ練習してないけど大丈夫なのか?」

「仕方ないでしょやる気起きないんだから…」

「まあそうか。大翔ですらやる気起きてないもんな」


 練習段階で100メートルシャトルランの地獄っぷりを体感した。

 ちょっと走って時間を体感して分かった。


 分かっちゃいたけど…これヤバイ、めっちゃきつい。

 そりゃ二桁なんて無理だよ、35秒以内に1往復って切り返しがキツ過ぎる。5回目あたりから意地の張り合いになるだろこれ。


「あれでもよ、リレーより点数高いんだから…学年優勝にはかなり大事な種目だぞ」

「…優勝したい人居るかな?このクラスの運動部めっちゃ少ないよ?」

「ばか、だから優勝したら格好良いんだろ?それにお前ほぼ個人競技みたいなもんなんだし、それしか出ないんだから頑張れよ」


 これ頑張れって言うの割と鬼畜じゃないかな。


「…なに、やる気出ないって」


 いつの間にか、夜空が達也とは反対側の俺の隣に立っていた。

 そして、俺よりも達也の方が驚いていた。


「シャトルランがやる気出ないって話」

「…福島も似たこと言ってた。でも、結局はやらなきゃ行けないよ」

「そうなんだけどな…?」

「…なら、やる気出してあげようか?」

「…え…?」


 フッといたずらっぽい笑みを浮かべると、夜空は着替えのために空き教室へ向かった。

 なんでだろうな、すっげえ嫌な予感がする。


「…お前栗山さんと仲いいのかよ?」

「まあ、割と」


 少なくとも福島よりは仲いいよ。

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