第31話 悪目立ち

 ゴールデンウィークが終わり、すぐの中間テスト。


 その結果が返されて、学校掲示板や公式ホームページに点数の学年順位が張り出されていた。


 スマホや廊下で順位や点数を確認して盛り上がっている中、教室内では今日も平和にハーレムが繰り広げられていた。


 それを見ながら俺は隣の真冬と駄弁っていた。


「…中間テストでそんなに盛り上がるかな…」

「期末のテンションよねこれ、そもそも他の高校って中間の成績も張り出されるの?」

「さあ?知らない。でもここは期末のモチベに繋げるためとか」

「寧ろモチベーション下がるわよ…」

「あ、あと体育祭に向けてのテンション?」

「…忘れてた。そう言えばアレどうなるんだろうね」

「アレって?」

「……シャトルランの推薦メンバー」

「あー…まあ、陸上部の誰か…とか?」

「もしくは大翔あたり…」

「うん、だと思うけど。他の種目は今日のロングホームルームで決めるって言ってたし。それはそうと…」

「…?」

「真冬はあのハーレムに入らないの?」


 夜空に聞いた話では、真冬がクラリスのオーディションを受けたのは、小学生時代にアイドルで有名になる…と福島に対して豪語していたからだとか。


「なによそのハーレムって?」

「ほら、あれ…福島の為にアイドルになったとかって…」

「違うわよ。それに、私のお陰で有名になった訳じゃないし。クラリスはほぼルカの功績で、あたしはお溢れに預かっただけ」


 うわ、ここでも凛月かよ。ゴールデンウィーク中は一回しか顔合わせてないけど名前は良く聞くな。

 因みに、美月とは用事がない限り毎日会ってる。暇な時は大体一緒にいる。幼馴染みだからな。


「あと、アタシ別に大翔の事好きなわけじゃないから…」


 少し頬を赤らめて、そっぽ向いた。

 …あれ?これ完全に好きなやつの反応だよな。しかもそれ福島に聞こえてるんだけど。これ完全にラブコメ展開に行くやつじゃないか?


 あ、でも福島は見て見ぬふりしてる。

 真冬も気付かれたと思ってないらしい。


「………となると、逆はどうなんだ…?」

「…なに、なにか言った?」

「いや、なんでもないよ」


 この状況面白すぎるだろ。



 ◆◆◆



 昼休みのあと、ロングホームルームが始まる。


 教室に入って来た黒崎先生は各種目について軽く説明をしながら、黒板に種目を書いていく。


 何やらソワソワしている教室内のふしぎな空気。黒崎先生は途中、思い出したように振り向いた。


「あ、そう言えばこれ、シャトルランは教員からの推薦ね。一学年に付き二人」

「誰が出るんですか?」


 質問を飛ばしたのは学級委員長の蜜里朱音さん。

 黒崎先生は持ってきた資料を確認する。


「えっと、一年生は…福島大翔と、間宮真の二人」

「「…はっ?」」


 俺と福島は同時に声をあげて、俺は思わず立ち上がった。


 頬杖をついて話を聞き流してた俺にとっては誤算も誤算。


「福島君は私の推薦。スポーツテストの結果から選んだけど…何かある?」

「い、いや…俺は大丈夫です」

「間宮は……えっと、葛城先生の推薦」


 嘘だろ!?あのオヤジなんてことしてくれてんだよ!?


「て、ていうか…同じクラスから二人って大丈夫なんですか?あとうち陸上部とかも居ますけど…」

「その陸上部の顧問が推薦してるから、大丈夫」


 そういやあの人陸上部とかも顧問なんかやってたな…。


「いやなら直接葛城先生に言って。多分、頑なに変えないから」


 変えないなら言っても意味ねえじゃん!?


 大人しく座り直して、少し考え込む。

 これはどうしたものか。前に気になってこの高校の体育祭の動画を確認したことがあった。

 俺が見た限り100メートルシャトルランとかいう鬼畜競技は、最後にやるクラス対抗リレーの前座。


 その鬼畜っぷりに比例して、とにかく場が盛り上がる競技。

 去年の三年生が10往復目をギリギリで達成できなかった時の落胆と、その前の会場のボルテージの乱高下は見てて鳥肌が立った。


 ふと、何故か視線を感じて意識を教室内に戻した。


 なんか知らない内にクラスの九割くらいから視線を浴びていた。


 確かに推薦されたのが俺だということに疑問を覚える奴は居るだろう。俺はほぼ福島の影に隠れて自分の身体能力は人に見せてない。


 でも今はなんか違う、好奇の目が多い理由は何だ?


 教室の端からヒソヒソと聞こえてきた話し声が答え合わせをしてくれた。


「…前から思ってたけどさ、間宮って結構イケメン?」

「イケメンっていうか…美形?横顔綺麗すぎじゃない?」


 なんでそんな、顔バレ見たいな事になっているの?

 それは考え事をしていたせいで気付かなかっただよ。


 無意識に前髪をかきあげて、そのまま頭を抱えていた。

 いつもなら机に伏せるから顔が隠れるが、今回は少し衝撃が大きかったせいで仕草を意識してなかった。


 普通にしてると目立つのは小学生の頃から自覚があった。

 中学からはそういう時期だったから「女っぽい」と言われるのが嫌で前髪を伸ばして目元や表情を隠すようになった。

 鷹崎姉妹や晶みたいに小学生の頃の知り合いとは普通に接してたが。


 中学で知り合った奴らとはごく普通の学友として、これと言った騒ぎも無く生活ある程度平穏な学校生活ができてた。


 ただ今回はちょっとやらかしたかも知れない。

 高校でも地味男を変えるつもりは無かったが、こうなると悪目立ちするよりは振り切ったほうが良い。


 俺は正直、今の自分がどれくらい目立つのか分かってない。

 少なくともゴールデンウィーク中に夜空や福島兄妹と演劇を見に行ったときは、真面目に自分に合うお洒落を探してから行った。


 あの時は福島兄妹が一緒に居たから、同じ髪型は使えない。

 となると、これは切るべきか?

 いや、福島達がまた二ノ宮まことに会おうとした時に上手く行かない可能性がある。


 …このまま放置する訳にも行かないよな。

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