第25話 親睦会

「……分かりました。クロエのことは時々気にかけておきます。クロエ本人も、日本後はできるようになりたいらしいんで」

「いや〜…ダメ元だったんだけど、ここまで色々分かるとはね…。少年凄いねえ」

「どうも。『クロエ、また今度な』

『…また、会える?』

『君が願うなら』

『…じゃあ、また会いたい!』

『分かった、時間があったら会いに来る。それまで、日本語の勉強頑張れよ』

『うん!』


 しばらく話をして仲良くなったクロエの頭を撫でて、川崎さんの車に乗る。

 窓の外で手を振るクロエに手を振り替えす。


「…少年ってコミュ強だよね」

「人と仲良くなるのは得意ですよ。その分、仲良くなる相手は絞りますけど」

「あの子はお眼鏡にかなったの?」

「…クロエは自分の置かれた状況を理解してましたし、きっと酷い孤独感の中で耐えて来たんですよ。あの子には優しくします、安心して下さい」

「そっか。また会いに来るなら、私も来ようか?」

「いえ、普通にタクシー使いますよ」

「ならそのお金は私が持つよ」

「…じゃあ、お言葉に甘えますけど。それはそうと約束通り、お願いします」

「うん、日程決まったら連絡して」


 俺は駅前で下ろしてもらい、家に帰った。

 その道中で蜜里さんに連絡を入れたり、黒崎先生にクロエの話をしたりしてその日を過ごした。



 ◆◆◆



「よし、それじゃあ皆揃った事だし。少し話をさせてもらう。俺は福島大翔、今回は全員しっかりと集まってくれて本当に感謝してる。俺達は入学して一ヶ月…直近では中間テスト、その後には体育祭がある。その為に今後の級友の仲を深めたいと思ってる…だから今日は皆で、別け隔てなく、楽しもう。それじゃあ…乾杯!」

「「「「「乾杯〜!!」」」」」


 福島あいつ、随分と慣れてんな。

 本当に即興かよ?


「…真君、乾杯」


 貸し切りの『暁』というファミリーレストラン。俺は端っこの席でこっそりと一人になっていた。

 そこにひょこっと近づいてきたのは真冬だった。


「うん、乾杯」


 カランッ…とオレンジジュースの入ったグラスを軽く鳴らす。


 赤柴高校一年二組、このクラスは28人。蜜里さんと福島の呼びかけに応じてクラス全員参加という規模が実現した。


「…あ、真冬ってさ、福島と小学校から付き合いあるってホント?」

「まあ…一応」

「…ってことは…なるほど」


 真冬はハーレムメンバーの一人だったのか。

 ということはその内、クラリスのメンバーも福島を中心に展開される学園ハーレム系のラブコメに参加しそうだな。

 ちょっとそういうのは、傍から見ていたい。


「何考えてるのか分からないけど、大翔にはちゃんと本命居るから」

「ああ…栗山夜空さん?」

「…そう」


 栗山夜空は、福島大翔の幼馴染。

 亜麻色の髪はウェーブのかかったセミロング。

 凛月や美月はどちらかと言うと可愛い系。

 彼女は圧倒的な美人系で、口調や仕草もクールな印象を受ける。

 俺の知り会いに居る美少女達と並んでも、一切見劣りしないだろう。


 幼馴染、ということは俺からしたら凛月や美月と同じ立ち位置なのだろうけど…俺達とは決定的な違いがある。


 俺と凛月達は別の高校、福島と栗山は同じ高校。

 俺と凛月達は何だかんだ仲が良いが、福島と栗山はどことなく仲が悪い。


 というか…明らかに福島の想いが一方通行になっている。


 栗山がマトモに福島に取り合ってる姿を見た記憶が無い。


 ツンデレ系統かと思ったけど、そうでも無さそうだし。


 本当に、あの二人の雰囲気だけは良くわからないな…。


「…福島は栗山さんのこと好きなの?」

「自覚はないんじゃない?アタシは絶対に好きだと思うけど」

「…ん…なるほどね…」

「一つ思ったんだけど…」

「…ん、何?」

「真君から見て、夜空…じゃなくて、栗山さんってどう…?」


別に言い直さなくていいけどさ。

 

「どう…って言うのは?」

「だ、だから…その、凛月達と幼馴染のアンタから見て、栗山さんが可愛いのかどうか…」

「ああ、そういう事」


 今の彼女は普通にクラスの女子と話をして、笑みを浮かべるでもなく聞き役に徹している様な感じ。

 黒崎先生にも劣らない抜群のスタイルと、その容姿も相まって高校生離れした色気を纏っている。


「…なんというか…。あの二人とは方向性が違いすぎる」

「そんなのは分かってるわよ」

「まあ、言葉を選ばずに言うなら“男の欲情を掻き立てる”タイプの女の子だよね。端的に言うと、エロい雰囲気の女子」

「本当に言葉選ばずに言ったわね…」

「マジで…めっちゃ美人だよね。あれが幼馴染だと…まあ、どれだけモテようが他の子に好意持てないのも納得はいくよ。Theメインヒロインって感じ」

「大絶賛ね…客観的で他人事みたい」

「実際、他人事だからさ」

「ふーん…真君は栗山さんに興味ないわけ?」

「いや、あるよ。クラスメイトだし」

「そうじゃなくて、一人の女の子としてよ」


 真冬の言葉に思わず苦笑した。

 さっきから真冬の質問をさり気なく躱してるのに、なんで聞きたがるのかな。


「…ここで興味ある…とか言ったら、多分真冬は拗ねるでしょ?」

「…っ…拗ねない…わよ」

「そうかな…?どうせ『私の事推しとか言ってたくせに…』とか思うんじゃない?」

「お、思わない…!」

「なら言わせてもらうと…。栗山夜空に対しては、マジで興味あるよ」


 彼女はがある。

 それは凛月を睨む南とおなじ雰囲気。

 自殺を決行した雨宮と同じ雰囲気。


 見てきたから、よく分かる。


 彼女は何かを抱えてるタイプの美少女だ。


 何なのかはわからないが、とにかく闇を抱えてる。


 福島に関する物なのか、家族に関する物なのか、はたまた全く別の物なのかは分からない。


「…少なくとも、福島には話せない奴なんだろうな」


 何となく呟いて、俺は栗山の所に歩いて行った。

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