第24話 金の髪

「…名前からして、ハーフですか?」

「うん、今は施設にいる。二ノ宮クロエ14歳、父親は日本人、母親は不明だけど、髪や目、顔立ちからして多分だけど白人系統。彼女の生い立ちとしては…憶測の域を出ないけど、治安の悪い国から日本の治安の悪い街に来ちゃって、何やかんやあって私がしかたなく保護したって感じかな。私が目をかけてる児童養護施設に来たって経緯」

「…天音さんって本当に手広くやってますよね」

「…元々は、お姉ちゃんの手がかりが欲しくて身勝手にやってたことだけどね…。施設の支援は昔からだし」

「それが人の役に立ってるのなら、いいんじゃないですか?」

「あ、君がそういう事言ってくれるから調子に乗っちゃうんだよ?」


 調子に乗っちゃうのは俺のせいにしないで欲しい。あと一々言ってることがかわいいんだよ。


「…それで、その二ノ宮さんを特に気にしてる理由は?」

「その施設に、彼女と同じ言語を話せる人が居ないからだよ」

「…日本語を話せないんですか」

「そうそう。そこで白羽の矢が立ったのが少年なわけ。確か君のお母さん…間宮凛さんは通訳とか翻訳の仕事をやってたことがあったよね」

「ありましたね」

「それで、少年もその恩恵にあずかってるんじゃないかと思って」

「…はあ、なるほど。それで、何語の子ですか?」

「少なくとも英語ではないよ。私も英語は話せるつもりだけどよく分からなかったから」

「…んー…白人種のハーフ…か。なら…真っ先に思いつくのはイタリアとかアルゼンチンあたり…ですかね」

「今は何とも言えないよねぇ。とりあえず私は、語学に詳しい知り合いが少ないことを知って一つ成長したよ」

「…そうですか」


 残念ながら俺も詳しい訳じゃない。母さんが話せる範囲なら練習相手をやってた事があったからその程度なら話せる。


 それ以外は大体無理。


 少しの間、止まった車の中で待っていると、川崎さんがドアを開けた。


 促されて車を降りると、どうやら件の施設についた様だった。

 すぐにその施設から、関係者らしき人に連れられて恐る恐る出てきた少女。


 小柄で長い金髪。こちらを見ている碧眼は少し震えている。

 パッと見た限りでは日本人の血が混じっているとは思えない。

 整った容姿をしているが、どうもビクビクしていて話しかけられる雰囲気ではない。


「…彼女が二ノ宮クロエさん?」

「そう、この子」

「英語は駄目って言ったんですよね」

「うん…」


 俺は少ししゃがんで、視線の高さを合わせた。

 だめとは言われたが、とりあえず英語で話しかける。


『こんにちは』

「………」

『…何語なら話せる?』

「……」

『右手を上げて?』


 少女はピクッと反応して、ゆっくりと右手を上げた。

 ふむ…どうやら不思議なことに英語の聞き取りはできるようだ。

 ということは、発音が英語に近い言語とかかな。


 今度は右手を上げる、という言葉の発音が近いドイツ語で話しかけた。


『君の名前は?』

『っ…!…クロエ…』


 よし、ビンゴ。会話は成立した。

 なら色々聞いてみるか。


『俺の名前はシン。君はどこで生まれたの?』

『…ベルリン』


 ドイツの首都か。

 行ったことは無いけど、母さんの話を聞いた限りでは特に治安は悪くない筈だ。

 ただ、ドラッグの売買とかしてる場所はあるらしいけど…。


「えっと…少年?」


 ふと、後ろから天音さんが俺に声をかけてきた。


「なんですか?」

「…もしかして会話できてる?」

「一応。ベルリンの出身らしいですよ」

「……てことはドイツかぁ…。私は行ったことないし、流石に分からないなあ」

「俺も行ったことは無いですよ?母がドイツ語の勉強してる時に練習相手になったりはしてましたけど」

「……それで話せんの…」


 なにやらドン引き天音さん達は置いておき、クロエに声をかけ直す。


『クロエは日本に来てどのくらい経つ?』

『…三ヶ月…くらい』

「天音さん、二ノ宮を保護してどれくらいですか?」

「えっと…二ヶ月くらいかな」


 ということは、一か月はほぼ一人だったのだろうか?

 俺は少女の後ろの施設を指さした。


『ここに来る前は、どこに居た?』

『………』


 ふるふると首を横に振った。

 流石に分からないか。


「天音さん、彼女を拾ったのってどこですか?」

「千葉の成田市」

「…ってことは、空港周辺ですか?」

「どう見ても迷子の女の子だったんだよねぇ」

『…クロエ、君の両親は?』

『……今は、分からない』

『なら居なくなる前、最後にあったのは?』

『……


 少女の言葉を噛み砕くのに、少しだけ時間がかかった。


「…えっ…?」

「ん…?どうかした?」

「…天音さん、飛行機の中で親とはぐれる事ってありますかね?」

「えぇ?流石に無いんじゃ…。相当大きい飛行機の中で、乗りなれてない人ならあるかも知れないけど…」

『クロエ、飛行機には何回乗った事ある?』

『……一回だけ』

「はい…。乗り慣れてないですね。川崎さん、三ヶ月くらい前で成田空港の大型旅客機で些細でも良いから事故が起こったりしてませんか?」

「ええっと…少し待ってね」


 川崎さんは車に戻ってノートパソコンとスマホを開いた。天音さんの秘書をやってるだけあって、彼女の会社で働く人達は皆、国内情報や経済、世界情勢に精通している。


「……っ…!」

「…亜紀、どうかした?」

「…真君、これはビンゴ…だと思うわよ」

「なんですか?」

「三ヶ月前に、通り魔にあって外国人の女性が一人亡くなってる…」

「タイミング的にはドンピシャですか…」


 俺はもう一度会いたいクロエに向き直った。

 彼女は俺の会話が成り立つ事が分かって少し気分をよくしたのか、少しだけ表情が綻び始めていた。


『…クロエ、君は誰と飛行機に乗った?』

『お母さんと二人。お母さんはが綺麗だった』


 へえ…?母親は黒髪なのか。まあそうはいっても、父親が日本人であり…彼女自身は美しい金髪をしている以上は、母が髪を黒に染めてる可能性もある。


 それはともかく、日本に来たのは母親と二人。


 飛行機の機内ではぐれ、そのまま飛行機を降りた。

 母親を探して空港を出た…問題はその後か。


『クロエは飛行機を降りてからこの施設に来るまで、どうやって過ごした?』

『……分かんない』

『…分からない…?』

『…ずっと、

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