第三章

第23話 親睦会準備

「間宮君、来てくださってありがとうございます」


 彼女は蜜里朱音、このクラスの学級委員長で手芸部に所属している。

 成績は優秀、素行が良い彼女は何かと面倒を引き受けやすい。


 現在はゴールデンウィークだが、俺は彼女に高校に呼び出された。


 二人っきりの空き教室。


 蜜里さんに呼び出された理由はまだ聞いてない。


「…それで、俺は何で呼び出されたの?」

「少し手伝って欲しい事があるんです」

「というと?」

「ゴールデンウィーク中に、クラスメイトの皆と親睦会をやりたいんです。勿論、予定が合わない事が前提ですから…そこを詰めるお手伝いを」

「……なるほど」

「はい。別け隔てなく、交友関係の広い間宮君なら私が連絡つかない子の連絡先も持ってると思ったので」

「…ん、それだけじゃないでしょ?それなら福島にやってもらえば良いから」


 福島…というのは、福島大翔ふくしまたいがという、クラスの中心人物。

 とにかく女子にモテる性格の良いイケメンで、どこからか「ラブコメ主人公」なんてあだ名が飛び出た位には普段から美少女ハーレムを作ってる。


 俺も女の子との交友関係は何かと多いから人の事は言えないけど、アイツと違って惚れられた事はないから違うね。


 と、そんな事を話していると丁度、話の渦中に居る男が教室に入って来た。


「朱音、今来たよ…って、間宮?君も朱音に呼ばれたのか?」

「そうだよ」


 朱音…と呼び捨てにしていることから分かる通り、蜜里朱音も彼のハーレムの一人。

 いやまあ、実際にハーレムみたいなことをしてる訳では無いと思うし、そもそもこいつにその意識はないだろう。


 無自覚で鈍感で難聴系だとこの一ヶ月で思い知らされてるからな。


「一体何の用で呼ばれたんだ?」


 それから蜜里さんは、俺にした説明を改めて行った。


「なるほどな。だがそれなら俺と朱音だけでも大丈夫じゃないか?」

「…間宮君にやって欲しいことはお店のセッティングですよ」

「そうなのか、何かいい宛てでも?」

「そんな所、蜜里さんには前に少しだけ話した事があったからさ」


 因みに宛てというのは天音さんの事。


 彼女のコネクションならお店一つ貸し切りくらいできるだろう。

 以前に蜜里さんと話したのか、俺が天音さんの知り合いだと言う事。

 何故そんな話になったかと言うと…彼女の父親が働いている会社の親会社を天音さんが管轄しているから。

 その親会社に、斑鳩いかるがとか言う中々珍しい名前の社長さんが居るって話で少し盛り上がっていた。


 蜜里さんは将来的に企業するのが夢だと言っていたからそんな話になった。


「任せてもらっても良いよ…」

「ではそちらは予定が合い次第連絡を下さい。大翔君は、クラスの皆に予定の空いてる日を…」

「分かった、任せてくれ」



 ◆◆◆



「……って感じですね。どうにかできそうですか?」

「うん、できるよ。それにしても…少年が私を頼るのも久しぶりだからね…嬉しいな」

「俺の…というより、クラスメイトの頼みですけど」

「それでも、君がクラスメイトと仲良くしてる証拠でしょ?ならそれはそれで嬉しいんだよ」

「……天音さんの俺に対する好感度って異様に高いですよね」


 最近来れてなかった河川敷でどんよりした様子の天音さんを発見したので、話かけて事情を説明したらかんたんにオーケーしてくれた。


 この人俺に対して甘すぎるから、もう少し厳しくしてくれて良いんだけどな。

 その方が頼る時に罪悪感なく頼りやすい。


「あー…そうだ、少年。頼みを聞く代わりに一つ頼まれてくれないかな?」

「どうぞ、何でも言ってください」

「…何でも?」

「はい、何でも」


 堂々と頷くと、一瞬下心満載の表情が出てきたがすぐにそれをしまい込んだ。


「……ま、まあ…今回は…うん…」

「…何ですかその反応は?それで、何を頼みたいんですか?」

「あ、そうそう……ちょっと待ってね」


 天音さんは何やら電話を始めた。

 しばらく経つと、白い高級車が近くに止まった。


 俺はその車を運転している運転手であり、天音さんの秘書をしている川崎亜紀さんに話しかけた。


「ども川崎さん…お疲れ様です」

「どうも、久しぶり真君。最近うちの子と連絡取ってる?」

「いえ、あんまり…」

「偶には遊んであげてね、今の高校で上手く行ってないみたいだから…話聞いてあげて」


 晶のお母さんで、天音さんとの関係もあって俺は個人的な関わりがある。


 …にしてもそうか、晶は凛月達と同じ高校に行っている筈だ。何かあったらそっちに頼れると思うんどけど…。


「まあ…分かりました。機会があったら話してみますね」

「うふふ、宜しくね」

「……話済んだ?」

「もう少し長引かせられますけど…」

「長引かせなくて良いって。亜紀さん、クロエのことなんだけど…」

「…もしかして、彼女の事を真君に任せるつもりですか?」

「いいと思うけど、年齢も近いんだしさ」

「普通は…思春期の男の子に、年齢の近い女の子のお世話を任せる物では無いと思いますけれど…」


 何やら不穏な話し声が聞こえてくる。

 詳しい事情は分からないが、どうも面倒事の分類の匂いがする。


「…とりあえず、少年。車乗って」

「なんか分かりませんけど…お手柔らかに…」

「大丈夫、君なら」

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