第22話 黒崎先生

 帰ると、黒崎先生が夕飯の用意を済ませていた。


 先生は最近、どうも忙しない。

 忙しいのはその通りだろうけど、この時間に帰ってこれるんだから凄いけど。


 テーブルにはクリームパスタとコンソメスープが用意してあった。


「あ、そうだ真君。ゴールデンウィーク明け…5月の下旬に体育祭があるのは分かるよね」

「…はい、ありましたねそんな話…」


 因みに緑雲中高一貫校は文化祭と体育祭の両方とも二学期。十月と十一月にあった。

 俺一年の時しか参加してないけど。


「学年順位とクラス順位が決まったり、個人で特に体育祭を盛り上げたり記録を立てたりした人が表彰されたり。まあ色々あるんだけど…」

「…具体的に競技は?」

「代表的なのは…クラス対抗リレーとか借り物競争と徒競走。全学年選抜ではスウェーデンリレーと100メートルシャトルラン。あとは個人ではその記録とか…かな。他にも色々、合計で10種目くらいだったかな。記録に残らないやつとかは、学年ごとに応援のダンスパフォーマンスをやったりするけど…」

「…へぇ、走る競技ばっかりですね。にしても……なんか、おかしくないですか?」

「何かおかしかった?」

「スウェーデンリレーと100メートルシャトルランってなんですか…?」


 他の競技もだけど、本当にめちゃくちゃ走らせようとするなここの体力。

 全員参加する体育祭なのに苦手な人とか行事の盛り上がりとかガン無視じゃん。

 普通は綱引きとか玉入れとかやるんじゃないのだろうか。


「スウェーデンリレーは4人のリレー。一人目が100メートル、二人目は200メートル、三人目が300メートル、四人目が400メートル、合計千メートルのリレー」

「……なるほど、それは…まあ、面白そうですね。じゃあ…問題のシャトルランは…?」

「100メートルを35秒以内で何回往復できるかのシャトルラン」


 概要を説明されてからしばらく考える。

 100メートルを走るのに大体15秒かかると仮定して、往復するのに30秒。切り返しにどれくらいかかるんだろう?

 取り敢えずわかるのは…


「とんでもなく鬼畜シャトルランですね」

「発案から5年目らしいけど、いまだに二桁往復した人は居ないよ」

「馬鹿でしょ考えた人」

「校長が、プロアスリートの練習風景を見て感動したからできたんだってさ」

「……プロアスリートと高校生比べんなよ…」

「そもそも走るのが好きなんだろうけどね」

「だったら校長が走ってろよ…」

「参加するのは学年に付き二人、学年担任が集まっての推薦者が参加。かなりきつい競技だから、推薦されたら参加はその競技だけ」

「でしょうね…」


 それにしても、推薦者…ということは、この体育祭もしかして教員側もなにかノルマみたいなのがあるんだろうか。


「準備期間は生徒会と体育祭実行委員が基本的に立ち回ってくれるから、言われたことをやれば大丈夫」

「準備って基本的に部活不参加の人達でやるんですか?」

「大体そうかな。あとは文化系の部活の人とか。書道部が体育祭のテーマ書いたり、吹奏楽部と応援団が協力したり」

「へえ…思った以上に壮大…」

「文化祭はもっと大規模だよ?」

「そうなんですか…?」

「具体的な話は夏休み明けからだけどね」

「…じゃあ、とりあえずは体育祭ですか」

「その前に、中間テストね。順位張り出しあるんだから、頑張ってよ?」

「黒崎先生の顔に泥は塗れませんから、安心して下さい」

「自信があるのは良いことだけど…。まあ、君の場合は大丈夫か。真面目にさえやれば」


 まるで普段は真面目にやってないみたいな言い方をする。

 黒崎先生と関わるようになってからは、基本的に真面目にやらなきゃいけないことは全て真面目にやっている。


 自分がどうとかよりも、黒崎先生に迷惑がかからない様にしたいから。


 鷹崎姉妹や晶と別々の高校に入ったのは、自分的には大正解だと思っている。

 その一番の理由が、今の所は黒崎先生との関係。


 教師と生徒…とかじゃなくて、こうして黒崎先生の世話になっている時間。


 俺はなんとなく、間宮真と黒崎白龍という、二人の個人として関わっているこの時間が好きだ。


「…ごちそうさまでした」

「おそまつさま」

「明日の昼と夜は俺が作っていいですか?」

「寧ろ、いいの?」

「はい、是非」

「じゃあ。お願いしようかな」


 何気なく笑い合って1日が終わる。

 うん、悪くないな。

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