第19話 微笑み
とあるファミレスの個室。
何故か部外者を二人連れた状態で、5人だけのパーティーが始まった。
「えっと…それじゃあ!クラリスの一周年を祝って…カンパーイ!!」
「はい、乾杯」
「カンパーイ!」
「乾杯…?」
「えっ……乾杯?」
なんだこいつら?
テンションの差で風邪引きそうなんだけど。
美月と真冬は…何で疑問系なんだ?
あと、この一瞬ぐらいは声張れよ、その独り言みたいな呟きじゃなくて。
んで…何で凛月と楠木さんは気にせず進んでんの?
凛月はテンション高過ぎるし、楠木さんは普通にしすぎ…って、えっ…てか何で枝豆?
ビールでも飲むの?
そもそもいつ注文した?
…んー…?
こいつら自由過ぎないか?
んで、この状況に困惑してるのが何で俺だけなの?
…これさ、俺要らないよな?絶対に要らないよね?
ふと、すぐ横から真冬が肩を叩いてきた。
「…真君、どうかした?」
「これ…俺がおかしいのかな…」
「何がよ…?」
「…ゴメン、何でも無い。それはそうと、真冬。俺にはあの二人の関係が悪くなる光景が一切想像出来ないんだよね…」
「今日はそうかもね…」
不意に真冬が凛月に手を引かれて、何かを食べさせられた。女の子同士であーんしてるとか…悪くないな。
その間に美月が隣に寄って来た。
「髪、伸びたな」
サラッとうなじに触れると、くすぐったそうに少し肩を浮かせた。
「…そう?」
フードをとった美月の髪は腰の上まであった。
中学二年生くらいの時はショートだったんだけど、ロングヘアもとても似合っている。
「長い方が好き?」
「まあそうだな、せっかく綺麗な髪してるんだし」
「凛月は短いよ」
「運動するタイプだからな」
「ちょっと、二人だけで話してないでこっち来てよ!」
「ん、どうかした?」
「写真撮ろうよ!」
「…分かった、俺が撮るよ」
流石に、写真取るのにあの中に混ざる勇気は無いな。
いや、だってさ…ね?
女の子4人の中に入る気は起きないよ。
「じゃあ私のスマホ使って」
「分かった」
楠木さんからスマホを受け取ると、4人が並んで笑顔を浮かべる。
真冬のぎこち無い笑顔と美月の殆ど口角が上がってない笑顔。いや笑顔って言えるのかよこれは…?
凛月と楠木さんはアイドルスマイルですけどね…。
「…真冬、もうちょいニコニコ出来ない?」
「何か真君に笑いかけてるみたいで恥ずかしいから無理」
「何それ?俺にも笑いかけてよ。美月はせめて口角上げような」
「………」
おい、なんか言えって。
しゃーないな。
ここはちょっとした裏ワザと行こうかな。
俺は軽く前髪を整えてから二人の名前を呼ぶ。
「真冬、美月」
「何よ?」
「…何?」
二人に向かって優しく、自然に、ニコッと笑いかける。
すると真冬だけでなく、凛月と楠木さんも自然で柔らかい笑みを浮かべた。
美月だけは、相変わらず笑顔にはならなかったけど…少しキョトンとした可愛らしい表情は頂いた。
「はい、頂き」
パシャッというシャッター音によって、少女達は我に返った。
「えっ?あっ…何よ…今の…」
真冬は唖然とし、美月は少しだけ目を開いて驚いている。
楠木さんは頬を赤らめて、凛月は恥ずかしそうに写真を見ていた。
「ちょっと、今の顔…反則じゃない…?」
「絶対私よりも可愛かったよ〜…」
「間宮君…そんな技持ってたんだね…ズルいよその営業スマイル…」
「何がズルいんだよ。めっちゃ良い写真撮れたよ?」
俺も母親の顔が良いからな。「自然な笑みは釣られるんだ、雰囲気良くしたいときはこれが一番だな」とのことで、湊さん直伝の技。
しっかりと遺伝は自覚している。
前髪上げたりすると完全に顔が女子になるから、あんまりやりたくないんけど。
個人的にはカワイイよりカッコイイって言われる顔が良かった。
まあ、褒められる顔なだけ良いんだろうけど。
ないものねだりは置いておき、写真に群がる四人に目を向ける。
「写真は良いけど…してやられた感が……」
「ねえねえ真、さっきのもう一回見せてよ!」
「嫌だね。安売りはしないんだよ」
「何よそれアイドルじゃないんだから…」
「いや、アイドルならガンガン笑顔作ってよ」
「あ、そうだ、SNS用に三人だけでも撮っておこうよ」
「分かった。真冬〜今度はちゃんと笑ってよ?」
「はいはい…」
2時間程、食事や話に盛り上がりながら楽しく過ごす事ができた。
正直…これだけで見たらかなり仲良しな3人だとは思うんだけど…。
時々、楠木さんが凛月へ送る視線が気になった。
明らかに目が笑ってなかったり、話を聞いてる時に表情が薄かったり。
確かに…楠木さんが凛月をよく思って無い部分はある様に感じた。
これは、ちょっと闇が深そうだ…。
けど、案外簡単な問題にも見えるんだよな。
「ねえ、5人のライングループ作ろうよ!」
不意に凛月そんな事を言い出した。
「アタシは賛成だけど…」
「…良いよ」
えっ…本気で言ってるのか、これ?絶対に使わなそうだけど。
誰かにバレたら俺はどうなるんだろう、なんて想像するまでもなく絶対に刺される気がする。
ただの友達、とは言い切れない気がする。主に達也辺りにバレるのは怖すぎる。
「真君は……嫌だった?」
「そうじゃなくて、女子四人の中に入るのは流石に遠慮するだろ…?」
「誰も気にしないよ。ね」
凛月の問いかけに、他の三人はそれぞれ頷いた。
「真君も女の子みたいなもんでしょ?」
「さっきの笑顔見ちゃうとね…」
「…どっちでも」
「ほら、皆こう言ってるんだしさ」
ほら、じゃなくてさ。ほぼ性別否定されただけなんだけど。
おかしいな、普通にしてたら男だよな俺。
そもそも女の子に間違えられるのが嫌で「俺」って一人称使ってるのに。
そんなこんなはあったものの、結局グループは作った。
それで初めて知ったのだが、クラリスのリーダーは真冬がやっているらしい。
今日仕切ってたのは100%凛月だったんだけど。
因みにお会計は美月が済ませていた。
曰く、姉妹のお金の管理は全て美月がしているんだとか。珍しくお姉ちゃんやってる。
「どうする?二次会でも行く?」
「私カラオケ行きたい!」
「普段から歌いまくってる癖に何を言ってるんだよ…」
「そうでも無いよ?最近は殆どダンスレッスンだもん」
何気なく凛月が言った一言。
その一瞬だけ、楠木さんが凛月を睨んだ、その瞬間を俺は見逃さなかった。
「…そうなの?」
「まあ、そうね。喉を酷使するなって言いつけがあるから…カラオケは今回、お預けね」
「えぇー…!」
「じゃあ、身体動かそっか?」
楠木さんがそう提案してくれた。
「良いんじゃないかな?」
「えっ…でも真は…」
一瞬狼狽えた凛月の頭を撫でながら、俺は凛月の言葉を遮った。
「ご飯の後だし、そこまで激しく動いたりはしないよな」
「そうね。せっかくだし行くわよ」
「……運動か…」
「あれ、みっつーって運動苦手だっけ?」
「美月は中学でバスケ部だったからイケるだろ」
俺がニヤニヤしながらそう言うと、珍しく美月にジト目で睨みつけられた。
残念ながら美月は凄んでも小動物感があるせいで可愛いだけなんだな。
リスに威嚇されてるみたい。
「良し、じゃあ行こう!」
元気に歩き出した凛月と楠木さん。
トボトボ後を追う美月。
真冬は俺の側に来て小声で話し始めた。
「…真君、運動駄目なの?」
「んー…何が?」
「とぼけないでよ」
「…まあ、ちょっと身体を痛めた事があってさ」
「ふうん…今は大丈夫なの?」
「生活には支障無し。激しい運動は、一応無理しない範囲なら…とか。ほらあれ、全力投球は10球まで…みたいなやつ」
「…何があったのかって聞いても大丈夫…?」
「簡単な話、ちょっとした理由で身体壊してたんだよ。そのタイミングで大型の車とぶつかっただけ」
「…えっ……」
交通事故だけだったら…右腕に関しては後遺症が残る事は無かった可能性が高い。
ただ、その以前にから腕の骨にヒビ、膝に炎症等が有った状態だった為に…以降、恐らくは一生“スポーツに熱中すること”は無理であろう身体になった。
そうは言っても身体能力は平均よりも有る。そもそもの能力が高いから。
「交通事故って…アンタがそこまで注意力無い様には見えないけど…?」
「俺だって失敗する時はあるよ。まあ事故に関しては、後悔せずに済んだから良い」
「…?」
子供を庇って車と衝突したなんて、そこまで教える必要も無いだろう。
あの子供「はやと」と言う名前の少年だったらしいが、彼は無傷だったそうだ。
それなら、守ったかいがあるというもの。
「ほら、置いて行かれるよ?」
「あっ…ちょっと待ってよ!」
凛月達を走って追う真冬の後ろ姿は、年相応の少女だろう。
俺の気のせいじゃ無ければだけど、彼女もまた、何かを抱えている。
詳しく聞くつもりは無いし、話したいと思ってくれる事があったらその時に聞けば良い。
今回は…楠木さんの事に集中するつもりだが…その前に、本人から直接聞かないと…な。
凛月の…何を不満に思っているのか…。
俺に解決できる事なら良いんだけどな。
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