第18話 ゴールデンウィーク、シルバーカラー

 ゴールデンウィークは元々、映画宣伝用の造語…だったらしい。

 休日祝日が連続した週の映画が、売れに売れた事でそんな宣伝用語を使ったんだとか…。


 同じく秋頃にシルバーウィークと言う言葉を使ったらしいが、こちらは世間一般的に定着することは無かった。


「…だってさ」

「へぇ…」

「あれ、興味ない…?」

「アタシ昨日のライブで疲れてるんだけど…」

「呼び出したのは真冬じゃ……」


 電車の中、小声で真冬と話していた。


 昨日はクラリスのオンラインライブを大いに楽しんだので、以降のスケジュールを確認した。

 するとまさかの、ゴールデンウィークはちゃんとお休み。


 そして今から冬咲レイ…ではなくて、真冬が向かっているのは、タイミング悪くてやってなかった…と言う理由で行われるデビュー一周年祝いの集まり。


 本当は3人だけでやりたかったらしい…けど、そこに俺と美月がお邪魔する事になってしまった。


 本当に申し訳無い…けど、俺のせいじゃない。


 電車を降りて、駅を出ると…俺にとっては馴染み深い街に降り立った。


「待ち合わせって何時だっけ…」

「11時。あと10分位あるわ」

「何で電車の時間に合わせなかったかな…」

「お店の予約時間に合わせたのよ」

「あ、そう…」


 適当に時間を潰そうと、スマホを取り出そうとポケットに手を伸ばす。

 腰辺りまでおろした手を、真冬に掴まれた。


「…なに、どうかした?」

「今、何しようとしたの…?」

「美月に…今いる場所を聞こうとした…けど…?」

「ふーん…」


 何か不満そうだな、二人でいる時にスマホ触んなよとか、そんな感じか?

 適当に嘘を言ったのは俺の方だが、何故そんな…何とも言えない表情をするのか。


 そんな俺の疑問は真後ろから突然聞こえた…

「レイ、来たよ」と言う優しい声に上書きされていった。


「南、人前でそう呼ばないで…」

「あっ、ゴメンね冬ちゃん」

「…それもどうにかならないの…?」

「駄目かな?冬ちゃんってカワイイと思うけど…?」


 うーん…成程?


 これが素なのかは知らないけど…楠木さんって、落ち着いた雰囲気だな。


 楠木くすのきみなみさん…か。


 当然ながら、実際に会うのは初めてだ。

 画面越しでならば何度も見たことあるけど…。


 あえて言うなら…男性の理想像詰め込みました…みたいな感じだろうか。


 分かりやすく、優しい系の口調。

 黒髪ロングストレートにふんわりとした服装だが、スタイルは良いだろうと容易に想像がつく。

 隣にいる比較対象が基本的に不機嫌な真冬な事もあってか、場のテンションに合わせられるのも好印象だった。


「…それで、そっちの方は彼氏かな?」

「もしそうだったとして、連れてくる訳が無いでしょ!」

「あはは…だよね」

「えっと…俺は間宮真。残念ながら、真冬の彼氏では無いよ」

「私は楠木南です。この場に居るなら知ってると思うけど…南条サラって名前でアイドルやってます」


 楠木さんは小さく頭を下げて、丁寧な挨拶をしてくれた。


「ご丁寧にどうも。でもあんまり人に言わない方が良いんじゃないかな?」

「冬ちゃんと普通に話してたから、大体知ってるのかなって。実際、驚いたりはして無かったよね」

「その通りだけど…まあ良いか。そうそう、昨日のライブ見てたよ」

「ありがとう!あっ…因みに推しは誰かな?やっぱり…ルカ?」

「残念ながら不正解。正解は冬咲レイだ」

「…はっ?」

「おっ、だってさ〜羨ましいぞーこのこの」


 俺の真冬をからかう様な返答に、ノリノリで合わせて来た楠木さんは、ニヤニヤしながら真冬を小突いた。


「ちょっ…アンタ何言ってんのよ!」

「…ん、さあ?」

「良いなぁ…私も知り合いに「推しです!」なんて言われてみたいねぇ…」

「何かアンタ達息ぴったりね…」


 言われてみるとそうかも知れない。

 雰囲気は違えど、相手に合わせるのが得意だからか、楠木さんとは話しやすい。


「そうかも。間宮君付き合ってみる?」

「ハハッ…嬉しいお誘いだけど、今回は遠慮しとくよ。てか、事務所的に恋愛ってオッケーなの?」

「駄目って言われた事は無いかな…冬ちゃんは分かる?」

「知らないわよ」

「そっか…」


 ふむ…。

 今の所…人に嫉妬するイメージは湧かないな。

 まあ、まだ会って数分しか経ってない。

 周囲のテンションや場の雰囲気に合わせるのは得意に見えるし、ノリもいい。


 やっぱり今のところ、話しやすいという印象が大きいな。


「…凛月遅いね……」

「寝坊か何かでしょ」

「…今、午後よ?」

「美月は午後でも寝坊するよ?」

「間宮君ってみっつーとも知り合いなの?」

「そうだね。凛月と美月は幼馴染みだよ。そうそう、今の会話で察したとは思うけど…その美月も来るからさ」

「全然良いよ。そう言えば、私がみっつーと知り合いな事には驚かないんだね?」

「大体は知ってるからね…っとほら、二人が来たぞ」


 見えてきた駆け足の銀髪美少女二人に軽く手を振ってやる。

 一人は近くまで来ると歩き始めて、もう一人は寧ろ速くなった。


「真君っ!久しぶりー!!」


 と言って、凛月は思いっ切り飛びつき、抱き着いてきた。

 流石に受け止める以外の選択肢が無いので、優しく後ろに衝撃を流しながら抱き止めた。


 凛月も美月も、流石に銀髪という目立つ髪や容姿を隠している様だ。

 凛月はバケットハット、美月はパーカーのフードをかぶって、できるだけ銀髪を隠している。


「久しぶりだな凛月、元気そうで何より。美月も、変わりないみたいだな」

「…ん…。久々」

「ちょっ…おい凛月、あんまりはしゃぐなよ。カーディガン吹っ飛ぶって」


 腕の中でわちゃわちゃと楽しそうに抱き着いてくる凛月、その後ろで美月が呆れた様子で凛月の腕を引いた。


「あっ、大丈夫だよ〜…。ってかそう!聞いたよ真君、真冬ちゃんと友達なんだって?」

「それは後でか。全員揃ったから、移動しよう」

「それもそうね、流石に目立つわよね……特にそこの姉妹が」

「分かった、それじゃあ着いて来て!」


 俺が促すと、凛月は真冬と楠木さんの手を取って歩き始めた。

 二人とも特に拒む様子は無い。

 美月は真冬と自己紹介をしながら店まで向かっていた。


 …うん、何とも贅沢な眺めだ。


 今をときめくトップアイドルにグループのセンターやってる人の双子の姉を加えて男ひとりって…。


 出来れば何事も無く、穏便に一日が終わる事を祈ろうか。


「…凛月騒ぐなって」

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