閑話 能力測定
それは少し時間を遡って、2時間目の3時間目ときの事。
高校一年生らしくスポーツテストをやっていた。
「41メートル!」
「うぉっ!達也凄え!」
「おっ…やるな。なら俺も…!」
ハンドボール投げで40メートル以上投げられたのは東蓮寺達也ともう一人、福島大翔というクラスの中心に居るイケメンだけだった。
因みに俺は左で投げて23メートル。
聞き手は右だが、事情があって右腕でボールを投げられないので仕方なく左で投げた。
それでも10点満点中5点なら普通でしょう。
他の男子がハンドボール投げをやってる間、俺は50メートル走をやってる女子を眺めていた。
いや、俺だけじゃない。
七割くらいはそっち見てたと思う。
「凄え、めっちゃ揺れて…」
「やめときなよ、あっちに聞こえるから」
クラスでもとくに巨乳と言われている栗山さんが走っていたとき、思わず測定でバディ組んでるクラスメイトの言葉を遮った。
思ってしまうのも口に出してしまうのも仕方ないだろう、だがそれは言わない方が身のためだ。
それに対して他のクラスメイト達も何気なく話に混ざってきた。
「…蜜里さん可愛いよな…」
「あー…分かるわ。クラスの女子の顔面偏差値上げまくってる」
「…元々高いよね、ウチのクラスは…」
「柊さんもよくね?胸でかいし…」
「スタイルかなり良いよな」
「…君達さ、もう少し走ってる感想言ってあげなよ…」
「おぉ、柊さん足速えな」
「7秒前半か?」
「やっぱり揺れ…」
「やめときなって」
「おーい、何話してんだ?」
ツッコミ役に徹していた俺の周りに5人ほど集まっていた男子は、達也の登場によってすぐさま解散になった。
達也は決して嫌われてなど居ないが、性格が良いのでこの会話に混ざるには難しいだろう。
高身長で性格がよくイケメンでほどよくモテる男に何となくイラッとしたからって解散したわけでは、断じて無い。
彼らの名誉のために、それは否定しておこう。
「あれ、何か話してたろ?」
「…別に。ただ柊は足速いよねって話」
「へー…あ、そういや真は今の所どうだ?」
「今の所…?平均より上…くらいじゃないかな」
室内での測定では…
握力は右が31、左が44キロ。
反復横跳びは50回。
上体起こし35回。
20メートルシャトルランが131回。
長座体前屈が71センチメートル。
校庭での測定では今のところ…
立ち幅とびが221センチメートル。
ハンドボール投げが23メートル。
…といった感じだった。
あとは50メートル走と1500メートル持久走。
「…得意不得意がまばらすぎじゃねお前…」
「あー…俺、去年の7月くらいまで右腕と左足骨折したんだよ。右腕は粉砕骨折で、まだ骨歪んでるくらいで整体通ってるし」
「……にしては体力あるな…」
「まあ…そりゃ、一応運動部やってたから」
「おん?でも部活入らなかったよな」
「担当医に運動部はやめとけって言われたのと、元々そこまで熱心にやってたわけじゃないのとで、高校では多分…今後も入らないかな」
「勿体無いな、割と身体能力高いのに…」
と、達也と話していると先生から声がかかった。
「…お前等、次は持久走だ。ちゃっちゃと移動しろ〜」
「「はい」」
という訳でやってきたのは高校から少しだけはなれた場所にあるスポーツ広場。
馬鹿でかいグラウンドを使わせていただく。
「あ、一応言っておくと…」
ふと、始まる前に保健体育の葛城優弥先生が口を開いた。
「陸上部の奴ら、一番乗り取られたら練習メニューキツくなるからな〜」
クラスメイトのほんの一部に、緊張が走った。
その後、先生の合図で男子達が一斉に走り始めた…。
それから少しして、俺は自分が走ってる時にチラチラと後ろを見ていた。
俺の後ろは6人、一つ後ろに居るのは陸上部の阿部君。
必至な形相、口パクで「ペース落とせ!ペース落とせ!」と懇願してくるので、ペースは変えず、さっさと終わらせる事にした。
「…3分48秒11…。福島、お前陸上やれ。長距離が得意なんだな?」
「嫌です」
「何でだ!一年生でこのタイムはめっちゃ速いんだぞ!そこらの大会で優勝狙えるレベルだ、今後頑張れば…!」
「…いや、手動測定ですから、宛にならないですよ」
「誤差の範囲だ!お前なら全国記録も狙えるぞ!全力で努力すれば世界だって…」
「……いや、やらないですって」
クラスの究極イケメン君、主人公こと福島大翔が熱烈な陸上部へのお誘いを受けている間、俺は自分のタイムに目を向けた。
4分ジャスト、ペース配分は完璧だな。
生憎と、もしも部活入るんだとしたらバスケ部なんだ。
それにしても福島…マジで凄いなアイツ。
このまま行けば全科目満点いけるぞ。
あ、俺も陸上部は興味ないです、走るの好きじゃないんで。
すみませんね、葛城先生。
「はぁっ…はぁっ…はぁ〜…おい福島…お前、なんで、息切れしてない、んだよ…」
「…ごめん阿部君、俺もう20秒くらい待たされてるから…」
「福島、それトドメに…」
「…ぐはあっ!」
「……くそっ…なんでウチのエースより速いのが部活入ってないんだよ…」
俺は運動センスは普通…より上くらい。
単純な身体能力だったら、そこらの同級生よりも高い自信はある。
…まあ、俺の場合は中学の時に俺より晶が凄かったから注目されなかったけど。
今回もありがたい事に、福島大翔というそり立つ崖があるおかげで俺が目立ちすぎることはない。
「あ、阿部。一年生は練習メニューハードになるからな。お前、来年は絶対に福島の…せめて間宮のタイムは抜かせよ」
「……できる気がしません」
「抜かせよ?」
「……ひぃ……は、はい」
あーあ、パワハラで訴えられるんじゃね?
だとしたら福島のせいになるのか?
え?俺?関係ないっしょ、関わらないで、勘弁して。
「よし、少し休憩したらこのまま50メートル走も測るからな!」
「…よっしゃ真。俺な、短距離は得意なんだ」
「達也、なんでそれを俺に言うの?」
「勿論タイムで勝負だ」
福島とやってよ。
俺じゃなくて、ライバルはあっちだよ?
「…勝負…んー…」
「そうだな…負けた方は放課後にアイス奢りで」
「乗った」
よし、アイス奢り貰ったな。
今回は全力疾走してやるよ。
◆◆◆
「…5秒96…?大翔、お前マジで……嘘だろこれ?」
「あ、6秒切った?なら学年記録…か。まあ手動測定だし、誤差じゃないか?」
俺は6秒21…まあ、達也には勝った。あいつ6秒73だからな。
達也と福島が何やらやり取りしているところに、ひょこっと乱入させて貰った。
「ねえ福島、達也がさっき「俺にタイムで勝ったらアイス奢ってやるぜぇ!」って言ってたから…福島も放課後、サーティワン行かない?」
「えっ、行く」
「おまっ…俺はそんな事は…真の分はともかく…」
「えっ、でも俺と福島どっちも達也より速かったけど…。ね、福島」
「そうだよ」
「…何乗っかってんだよ大翔…」
そんなことを話していると、ゆらっと葛城先生が俺達の前に立った。
「…福島、間宮…お前達、陸上…」
「「やりませんよ?」」
「何でだよ!絶対やった方がいいって!」
「興味ないです」
「走るの嫌いなんで…」
「走るの嫌いな奴の走りじゃねえだろ今の!」
「いや、俺はアイスかかってたんで」
「俺もアイスかかってたから…」
いや、福島はアイスかかってなかっただろ。
「アイスの欲望で6秒切るな!」
「欲望と6秒ってシャレですか…あははっ。あれ、葛城先生笑い取れませんよ?どうしてくれるんです?」
「真、先生をおちょくんのはやめとけ」
「うおぉぉ…!なんでウチのエースより速いのが部活入ってないんだよ…」
さっきも聞いたなそのセリフ。
項垂れる陸上部と、その顧問である葛城先生。
煽ったりはしたが、俺はそんな不憫な彼らを労って肩にポンッと手を置いてやった。
それはそうと、ホッピングシャワーって初めて食べたよ。
普通に美味かった。
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