第17話 関係性

「ねえ…柊さん」

「…何よ?」

「ホントに大丈夫?」


 1校時目の授業。数学の教科書を忘れたらしい柊と、机を合わせて授業に参加。


 2校時目の授業、これは体育。体力測定なので準備物は無し。

 3校時目も同様。


 そして現在の4校時目にて…少し前に新設された歴史総合と言う科目。

 教科書は持って来たが資料集を忘れた柊と机を合わせて授業に参加。


「…これ、アタシは悪く無いと思うわよ…?」

「いや…科目云々の話はしっかりされてたでしょ…」

「何よ…歴史総合と日本史探求と世界史探求って…日本史ABと世界史ABの方がまだ分かるわよ」

「他にも情報とか公共とか出てくるんだよ?まあ、良いけど…取り敢えず教科書は学校に置いておけば…?」

「家でどうするのよ?」

「いくらでも勉強方法はあるよ。あ、でも…そもそも家で勉強してる時間とかあるの?」

「家ではして無い。レッスン前とか終わりとかに…グループの優秀な子に教わってるから…」

「あ、凛月居るもんね」

「そうそう………えっ…?」


 ……あっ…やべ…。


 と思った瞬間、先生から指名を受けた。


「間宮!黒船来航は何年だ?」

「えぇっと…1853年です…」

「……正解だが…授業はちゃんと聞けよ」

「…はい、スミマセン」


 謝ってから座るが…その間ずっと先生から不満の視線が気になった。

 …ってちょっと待て!

 今、黒船来航なんか全く関係無いじゃん!

 授業はちゃんとやってよ!

 …はい、スミマセン俺のせいですね。


「…間宮君、昼休み…開いてるわよね?」

「……はい…」


 別に凛月との関係を秘密にする理由は無いが、個人情報をあまり公表して無い三人組アイドルの内、二人と個人的な繋がりがあるのは…。

 うん、あまり開示すべき情報では無い。


 …本音を言うと…柊真冬との関係はもう少し個人的な物にしたかった。

 俺と柊の関係の間に凛月を挟みたくなかった…と言う勝手な気持ちがあったから凛月との関係は言っていなかった。



 ◆◆◆



「…ここなら誰も居ない…よね」

「誰も昼休みの理科実験室で弁当食ってる奴が居るとは思わねぇよ…」


 そもそも何でこの部屋空いてんだよ…?


「科学室と理科室って何が違うんだろう…」

「どうでも良いわよそんな事。それより…間宮君、アンタ何でルカの本名知ってるのよ?」

「気の所為じゃなけりゃ、間宮君って呼ばれたの初めてかな…」

「もっとどうでも良いし、さっきもそう呼んだわよ」

「そうだっけ…?まあ、凛月とは幼馴染み。実家が隣で…家族ぐるみの付き合いがあるんだよ。まあ最近は一ヶ月位、連絡取ってないけど」


 因みに美月とは結構連絡し合っているので、生存確認は取れてるはず。

 美月と凛月は同じの高校に行った。

 どうやら美月もクラスメイトに、俺と同様にクラリスのメンバーが居るらしい。


「幼馴染…?何かそんな話を…聞いた事がある気はするけど…」

「なんなら、スカウトされてた所見てたよ」

「凛月ってスカウトだったんだ…!」

「知らなかったの…?」

「アタシともう一人もオーディションだし、凛月もそうだと思ってた…」


 つまり…柊もそのもう一人も、アイドルを目指してた…と。これまた意外な一面を知った。


「…聞きたい事は十分聞いた?」

「まだ色々聞きたいけど…それより…ちょっとお願いがあるんだけど…」

「待った…。クラリスの関連じゃ無いよね…?」

「ここまで話してウチのグループの話じゃない訳が無いでしょ…何言ってるのよ?」

「俺は一人のファンのままが良いんだけど……」

「今…ちょっとルカとサラが険悪…と言うか、サラが一方的にルカの事妬んでる様な感じで…」

「ちょっ…無視しないでよ。全く…えっと南条サラ、楠木くすのきみなみさんだっけ?」

「ちょっと…何でそっちも知ってるのよ?まさか…」

「あ、知り合いでは無いよ?」

「じゃあ何で知ってるのよ…?」


 そう…美月経由で知った話だ。

 俺と美月は、クラリスの3人の本名と高校を知っている。

 俺も美月も、その情報を外に出す事はしてない…と言うか、その話をネットに上げるまでの行動が面倒臭いと思ってる。


 まあ、美月との話のネタってだけ。

 これも…言う必要は…いや、今回はあるか。


「凛月に双子のお姉さんが居るのは知ってる?」

「知ってるわよ…会った事は無いけど。そっか、幼馴染だからその人とも知り合いなのよね」

「そう言う事。それで、美月って言うんだけど、その美月と凛月は同じ高校に行ってる。美月はクラスメイトに南条サラこと楠木さんが居るって状態」

「それで知ったって事?どんな確率してるのよ…」

「さあ…?まあ…そう言う事だから」

「それネットに上げたりは…」

「そんなことしないよ…面倒臭い」


 それに、凛月と美月は同じ高校、そこに南条サラも居る。多分同じ高校の生徒たちだったら大抵の場合は知ってるだろう。


 公表してない、というだけで、彼女達を知る人物は決して少なくない筈だ。


「面倒って……まあ…とりあえず信じるけど…なら尚更、仲介して欲しいのよ」


 …これは美月にも連絡するべきかなぁ…。

 男一人が…その中に入るのは…かなりきつい、面倒事だよな。


斡旋あっせんってこと?」

「人聞き悪いわね…斡旋って交渉とかで使うのよ?」

「じゃあ媒介…?いや、仲立ちか?」

「仲介で良いでしょ…言葉の引き出し何個あるのよ?」

「ちゃんと理解できる辺り、柊さんって結構頭良いよね」

「ならポンポンと言葉が出るアンタは天才かしら?」

「そんな訳ないよ。天才ってのは凛月みたいな奴を言うんだよ…。…って言っても、俺には凛月に嫉妬する心理が理解出来無いけどね」

「…アタシは少し羨ましいと思うわよ。流石に一回見ただけで振り付け完璧に覚えるのは意味分かんないけどね」


 あ、ちょっと撤回する。

 自分が頑張って覚えようとしてる振り付けを、隣の奴は見ただけで完璧とか…。

 そりゃあ…ねたそねみも出て来るよ。


「歌も上手いもんな…」

「あれで勉強も出来るんだもん…才能ってホント、怖いわよね…」

「まあ…同意するよ」


 とか…どうでもいい会話もあったが、結局…仲介役を任される事になってしまった。


 昼休みが終わる頃にやっと弁当を食べ終わった俺達は、急いで教室に戻っていた。


「…アンタが変な話ばっかりするから遅れそうじゃない…」

「柊さん、今回に関しては君も変わらないよ?」

「ねえ……今更だけどさ…」

「ん?」

「その「柊」って呼び方何とかならない…?」

「名前呼びで良いなら真冬まふゆって呼ぶけど…?」

「っ…まあ…良いわよ…ちょっと恥ずかしいけど、その内慣れるでしょ。アタシも真君って呼ぶから」

「……こう言う会話って何か恥ずかしいよね…」

「…そうね…」


 俺と真冬は授業には普通に間に合ったが…二人で並んで教室に入ったからか…クラスメイト達からは好奇の目にさらされる事になった。


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