第16話 冬に咲く君
翌朝。教室にはいるとすぐに、高身長の男子が手を上げて挨拶してきた。
「おっす、真」
「ん…おはよう達也」
彼は
高校に来て初めての友達と言える存在で、身長が190センチ程あるので並んで歩く時には見上げる事になる。
そこそこ顔は良く体格にも恵まれているスポーツマンだが、生粋のアイドルオタク。
今の推しはクラリスの月宮ルカ…公表されてはいないが、本名は鷹崎凛月。
友達の推しが幼馴染みってどうなの…?
とか思ったけど意外と普通、アイドルってすごいな。
「昨日のライブ配信見たか…!?」
「新曲最高〜…って言う安直な感想は無しで」
「おま…エスパーか?」
「大体分かるって。それにしても、よく隣に本人が居るのに堂々と話せるよね…」
俺は隣を見ながら小さな声で言った。
そう、この教室。
なんなら俺の隣の席には…クラリスのメンバーが一人居る。
そうは言っても先生方を含めなければ、ほとんどの生徒はこの事に気付いていない。
個人的には少し見れば分かると思ったのだが…達也曰く「あ〜…多分な、月宮ルカが注目され過ぎてんだよ。正直トリオアイドルでここまで人気に差が出るのも珍しいぜ」…とのこと。
さて、その本人こと…
それがキッカケで知ったのだがクラリスの3人はみんな、同い年の美少女だった。
さて改めて、柊真冬は出席番号の都合上俺の隣の席に居るツリ目と茶髪が印象的な美少女。
常に不機嫌な顔をしているイメージが強い。
だがしかし、話してみると案外普通の女の子。
けれど普段の印象を考えると…少なくとも、笑顔で歌って踊ってるアイドルの姿は想像出来ないだろう。
「…別に良いけど。あんまり大きい声で本人が居るとか言わないでよ?」
「それは分かってるよ。ね、達也気を付けなよ?」
「何で俺なんだよ?言い出したの俺じゃねぇぞ?」
「人と話す機会多いでしょ」
「まあ部活やってるし、そうか」
そう言う意味じゃない。
友達が俺より多いだろって意味で言ったんだけどな…。
性格の良いコイツには皮肉なんて伝わらなかったらしい。
教室に黒崎先生が入って来ると、丁度チャイムが鳴る。
何故かこの瞬間だけはクラス全員が静まり返る。
「…皆、おはよう」
「「おはよう御座います!」」
男子達は声を揃えて、女子生徒は歩み寄りながら挨拶している。
達也もいつの間にか黒崎先生の側に行っていた。
「…先生とそんなに話す事あるかな…?」
「知らない。それより…悪いんだけど、一時間目の数学、教科書見せてもらえない?」
「…大丈夫だけど、一応先生に言った?」
「言ったわよ。机くっつけて良いから見せてもらえって言われたの」
「オッケー分かった……もしかして昨日のせいとか?」
「別にそう言う訳じゃない…って言うか、忘れ物くらい誰だってするでしょ?」
「まあそうだね。それでも俺としては、学校終わりの夕方に即スタジオ入りして、ライブ配信して、翌朝また学校って言うスケジュールの方が意味分からないけどね」
「…どっちにも支障が出なければ問題無いし…アンタがそこまで気にする必要は無いわよ」
「ま、柊さんの言う通りではあるけど。体調には気を付けなよ?」
「昨日居眠りしてたアンタに言われたく無い」
反論できなくなった俺を横目に、勝ち誇ったように微笑む柊。
アイドルとしてステージに立つ時は、当然メイクを決めてライブに挑むだろうが…彼女もやはり素の美しさを評価されてあの場に立っているのだろうか。
どちらにせよ、普段から美少女を見ていた割には柊の微笑む表情に少しだけ見惚れてしまった自分に向かって「見慣れてるだろお前!」と言ってやりたくなった。
俺個人として…柊真冬と言う少女の事は美人でまあまあ仲の良い友達…だ。
……冬咲レイは…まあ、しいて言うならば推し…だけど…。
これは本人どころか達也にも言った事は無いが…柊のいる側で冬咲レイへの良さを語るのはハッキリ言って恥ずかしい。
…いや、これは…仕方無いじゃん?
住んでいる場所の都合上、グッズを買ったりはしてないが…デビューからずっと冬咲レイを推している。
顔、声、仕草等など…俺の周りには居なかったタイプ。
まあ…簡単に言えば一目惚れな訳で、俺としては結構充実している。
クラリスのデビューは昨年の二月上旬。
つまり、県立高校受験の前期選抜入試等と同じ時期のタイミングな訳だが…デビューした3人もまた、年齢的には翌年受験生…という時期だった。
どういう措置をとったのかは知らない。
今週末からは5月に入ると言うこの時期には絶大な人気を獲得。
直近のゴールデンウィーク初日には音楽番組の生放送に出る。
まだデビューして一年と二ヶ月のアイドル…。不安定な思春期の少女達がどうなっていくのか…俺は一人のファンとして見守っていく予定だ。
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