第二章 

第15話 モノクロの初恋

 俺はとある事故によって、全治一年程の大怪我を負った。


 事故当時はいつ命を落としてもおかしくない状態が続き、かなり危険な状況だったそうだ。

 通院は1年以上続いたが、幸いと言うべきか入院自体は半年程度。


 そんな状態なので学校にはすぐに復帰、とは行かなかった。

 退院後も自宅療養と言う形で半年以上に渡って登校が出来なかった。


 そんな理由もあって、高校の検討中に隣の家の大黒柱、湊さんに相談した。

 そこで紹介されたのが黒崎白龍先生だった。


 その後、黒崎先生は時々家に来て勉強を教えてくれていた。

 その繋がりもあって、黒崎先生が居るここ赤柴高校を受験した。


 俺は元々中高一貫校である緑雲学園という場所に居たし、凛月達はそのまま繰り上がりで高校生になっている。


 そして受験に合格した後、黒崎先生に言われた話は「間宮さんに、君の事を任せるって言われたんだけど…。どこまで話聞いてる?」という意味不明の内容だった。

 その後詳しい話を聞いた結果が…現在に至る。




 黒崎先生…3LDKに一人暮らしって…。

 土地の都合上、仕方無かったらしいですよ。


 鼻歌交じりにキッチンに立つ黒崎先生の背をぼーっと眺める。


 母さんや湊さんと話した結果、俺は黒崎先生の家に置いてもらう事になったのだった。


 母さんはこういう時に考える事が、本当に突拍子も無いんだよな…。

 そして何で黒崎先生は受け入れたんだよ?

 でもって湊さんの知り合いはどうしてこうも容姿が良いんだろう?


 疑問が絶える事は無いが、取り敢えず黒崎先生の料理は美味い。

 何となく知った味。理由を聞いてみたら、湊さんに教えて貰った料理らしい。


「…それにしても…」

「はい?」

「君は間宮さんに似てないね…。顔も、性格も」

「そうですね…。小さい頃は母さんよりも湊さん達と居た時間の方が長いですから、性格はまあ…似ませんよ」

「間宮さんは…自由人だし仕事人間だもんね。にしても、小さい頃から湊と一緒かぁ…。それはそれで良くマトモに育ったもんだね…あっ、でも紗月が居るし大丈夫か…」

「…黒崎先生にとっては湊さんはマトモじゃないんですか…?」

「まあ…そうだね。うーん…ちゃんと湊と話したのは高校入った頃だったかな。あ、因みに湊って私の初恋なんだけどね」


 初恋の相手をマトモじゃないとか言っちゃうんだね…。

 …って…待てよ…?


「初恋って…湊さんには従姉弟いとこだって聞きましたよ?」

「そうだよ。この話は湊も紗月も知ってる」


 えぇ……マジで…?


「まあ、一年も経たない内に玉砕して、未だに引き摺ってるんだけどね……」


 もしかしてめっちゃ重い話されるのかな…。

 ご飯食べてる真っ最中ですけど…?


「5歳位かな…母親の実家で出会って、すぐに好きになった。あの頃の湊は全く気づいて無かったな。しばらくは全く連絡もとれてなかったけど、高校で再会して、その時にはもう、湊の隣には紗月が居たんだけどね…」

「…うわぁ…辛っ…」


 想像するだけで嫌だ。初恋の人にやっと再会できたと思ったら恋人居ました…とか。


「アハハッ…そんな反応する?初恋を30年も引きずってる私も大概だと思うけどね」


 一途と言えば聞こえは良いが、歪んでるとも言える。


「湊ってさ…他人には言わないけど、結構特殊な育ち方しててね。子供達の事、しっかり育てられるのかなって…そう思ってただけ。久々に湊と話しても、意外と変わってなかったけどね」

「…紗月さんとも、その話したんですか…?」

「うん、結構よく話すよ。昔話だしさ」

「…元々は恋敵じゃ…?」

「その前に親友。だから余計に辛かった…って言うのはあるかもね」


 あー…うん、結構ドロドロだったんですね。

 あ、いや…?

 ドロドロだったのは黒崎先生の心境だけで、湊さんと紗月さんは純愛系統だったのか…。


 …身を引く恋ってあるもんなんだな…。


 黒崎先生の昔話を少し聞けて…なんとなくだが、黒崎先生の優しさの根本を垣間見た気がした…。

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