第13話 雨と晴れ

 雨宮と二人で教室に入ってきた時は、やはりと言うべきかとことん注目を浴びた。


 そして昼休み。

 図書室にて、朝と同様に視線を感じる。

 できるだけ気にしない様に、ただし怪しい視線には気を付けつつ行動する事を心掛けていた。


「……そういや、昨日…屋上の鍵はどうしたんだ?」

「他の鍵を返す振りして、職員室に返したよ」

「意外と肝は据わってるんだな…」

「それは…間宮君のお陰…かな」

「…どういたしまして…なのか?」


 俺の返答に優しく微笑む雨宮。その背後から睨む視線を感じた。

 図書室の外、ドア越しの視線は雨宮を捉えてはいなかった。


 間違い無く俺を見てる。

 俺はすぐに視線をそらしてため息を吐いた。


「間宮君、どうかした?」

「いいや。雨宮もちゃんと笑えるんだなって思ってさ」

「え…あっ……うん。確かに今まで笑顔になんて、なれなかったかも…」

「まあ、多少は心の支えになれてる様で良かったよ」

「…うん。間宮君が居なかったら…どうなってたか分らないから…」


 それはそうかも知れないけど、だとしても心を開くのが早過ぎではないだろうか。

 普通の考えを持っていれば、自殺したいなんて考えを持つ事は無かっただろう。

 追い込まれていたせいか、拠り所になると思った場所に全身を預けてしまっている。

 相手が美少女慣れしてる俺だから良かったものの、他の人ならどうなっていた事か。いやまぁ…恋仲にでもなってればもっと楽に解決に近づく事が出来たるかも知れない。


 打算的に恋人になるのは嫌だけど。


「そうだ、間宮君。部活終わったら一緒に帰りたいんだけど…」

「んー…悪いけど、そっちは先客が居るんだ。ごめんな」

「…そっ…か…」


 こればっかりは仕方が無い。だから、そんなしょんぼりした顔を見せないでほしい。


 …と言った感じで、昼休みは雨宮とゆったりとした時間を過ごした。

 だからまた、放課後。うわ…怠っ…。


 すぐ側にいる雨宮に気付かれない様に、再度小さくため息を吐く。


 窓の外では雨が振り始めていた。



 ◆◆◆



「……真、帰らないの?」


 ジャージの上に着ていたビブスを片付け、皆が帰る準備をしてる中。

 荷物を持たずに体育館を出ようとした俺に、美月が声をかけてきた。


「…ちょっと用事があってな」

「真〜?今日は遅くならないでね?」

「…何かあったっけ…?」

「凛さんのお誕生日!」


 えぇ…母さんの誕生日って…。そう言えばそうだけど、完全に忘れてた。


「大丈夫、そんなに時間はかからないから」

「本当かなぁ…」

「ん…凛月、帰ろ」

「あっ…みつ待って!」


 いつも通り仲の良い鷹崎姉妹を見送って、俺は図書室へ向かった。


 そこでは、雨宮と英先輩が向き合っていた。


 果たしてどんな会話をしているのか。

 想像もしたく無いのでさっさと仲裁に入る事にした。


「雨宮、帰るぞ」

「えっ…間宮君…何で…?」

「はあ!?アンタ先客が居るとかって…」


 あー…まあ、やっぱり。

 見てたのは英先輩だったのか。


 はぐらかしておいて正解だったな。


「英先輩、尾行は良く無いですよ?」

「なっ!…アンタ、何でこんな女の肩を持つのよ?」

「そりゃあ…頼まれたからです」

「頼まれた?時雨が人に頼める訳無いでしょ?」

「状況を良く知ってますね…。その通りです、雨宮じゃなく…榊先生に頼まれました」

「はあ?」

「クラスに虐められてる子が居るらしいから探して助けてやれ…と」

「………」


 ビクッと体を震わせた。


 何故バレたのか…と言ったところかな。


「学校のホームページに、生徒でも書き込みが出来る掲示板がありましてね。そこに書いてあったそうですよ?“先輩のお仲間さん”が書いたんじゃないですかね?」

「…アイツかっ…」


 あれ、すっげー適当な事言ったんだけど…。英先輩にはどうやら心当たりがある様だった。


「間宮だっけ?アンタには関係無いし、アンタ一人が介入した所で何も変わらないわよ」

「そうですかね。あ、そうそう今この場には…俺達3人しか居ませんよ?」

「…それが何よ?」

「ここで英先輩がどうなろうと、目撃者は居ないって事です」


 何が起ころうと、俺も雨宮も知らないと言えば目撃者は居ない。


 そう考えると、笑えて来る。 

 流石に周到に用意しないあたり、中学生だと感じる。


「アンタ…何する気!?」

「間宮君…?」


 幼馴染みの父親がこの手の考えを巡らせるのが得意な人なので、俺も自然と似たような考え方をする様に育ったのかも知れない。


「やってみれば、分かりますよ」


 今の俺は、凶悪そうな笑みを浮かべている事だろう。

 必至な形相をした英先輩に向かって手を伸ばそうとした…。


 その瞬間、英先輩は全力で走り出して俺の横を通り過ぎ、図書室を出て行ってしまった。


「あ…えっ、そんなに怖かった…?」


 思わず雨宮に問いかけると、雨宮はポカンとした表情で俺を見ていた。


「えっと……雨宮?」

「間宮君…さっきの、冗談だよね…?」

「ああ…目撃者どうこうの話?」

「…うん」

「まあ、何かするつもりは無かったよ。とことん脅すつもりではあったけどな」

「…そ、そうなんだ…」


 取り敢えず、印象付ける事は出来た。

 これでしばらくは俺が側にいれば問題は無いだろう。


「そうだ、今後…学校でもそれ以外でも似たような事があったら、俺に言えよ。多分先生より俺のほうが早いから」

「うん!その…ありがとう」


 雨宮からの感謝…そして、とびっきりの笑顔を頂いた。


 その後、雨宮とは校門で別れた。


「おっ…雨止んだな」


 予報にも無かったし…にわか雨かな。


 今日の雨のみたいに、さっさと雨宮の心も晴れてくれると…俺も楽なんだけどなぁ…。

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