第12話 笑顔の理由

 翌朝のことだった。

 どうも…先生に言ってどうにかなる物でも無さそうと感じた。


 登校前、理由も無くテレビを付けると…中々に既視感のある報道が流れていた。


 14歳の女子中学生が自殺した…と言う報道。

 一歩間違えば、雨宮もこうなってたのかと考えるとゾッとする話だ。

 そのせいか、かなり複雑な感情の朝を過ごす事になった。


 自殺前に母にメールを残したそうだが、それはいじめを告発するような内容だったとか。

 それを受けたにも関わらず、学校側は「いじめは無かった」と結論付けた。


 いじめ防止基本方針がどうとかの世の中で、こんな物を見てしまっては先生に報告する気が失せてしまうのは仕方無い気がする。


「……いつも以上に学校が憂鬱になるな…」


 取り敢えず学校終わったら病院か。

 保険証どこに仕舞ったっけ。


「……行ってきます」


 誰も居ない玄関で呟き、家を出ると同じタイミングで隣の家のドアが開く。


「美月、おはよう」

「ん…おはよ」


 生徒会委員の凛月と違って、ゆっくり登校する美月と遭遇した。

 いつもは俺の方が早いんだけど…美月は時間にばらつきがあるから何とも言えない。


「寝不足か?」

「凛月に勉強教えてもらってた…」

「テスト期間だもんな…」

「真は大丈夫なの?」

「いや、微妙…」


 あんまり家で勉強しないし…。

 直近では考える事が多過ぎて、テスト勉強とかやってらんない。


「…凛月は夏休みに入ったら、レッスンが始まるんだって…」

「課題と部活もあるのにな…」

「お父さんは凛月なら楽勝だろ…って笑ってたけど」

「ニヤついてたの間違いだろ」


 あの人は大体そう言う時にニヤニヤしてるイメージがある。

 けど…そうか、凛月はやる事見つけて充実してるんだな。


 やっぱり…そんな感じで充実してないと学生なんてやってられない。

 忙しい方が、自分の行動を肯定出来るだろうし。


 悩んでる時間が「短い=悩みが少ない=忙しいと悩みが少ない」…とはならないか?

 ストレス溜まる事に変わりはないか、充実してるのと忙しいのは違うな。


「美月はどうするんだ?」

「…何を?」

「夏休みだよ、予定入ってたりはしないのか?」

「…部活以外は…今の所無い」

「……何となく知ってた…」

「真は何かあるの…?」

「………面倒な日が増えるか、何もないか…」


 雨宮の心境からして、絶対にいじめの話を広められないからな。

 先生達やPTAが絡んでくる面倒事に巻き込まれるのも御免だし…じっくりと解決させるしか無い。


「…憂鬱だな…」

「朝からネガティブ発言は感心しないなぁ、真?」

「ああ、晶…おはよう」

「やあ、おはよう鷹崎さん」

「おはよ…」


 …なんか、あれ?そんなだったっけお前?


「あっ…ねえ真、君の事を探してる人を見つけたんだけど…」

「…ん、誰だよ?」

「さぁ?すっごいかわいい子だったけど?」


 ……あのさぁ…俺の知り合いってね、大抵が顔が良いからそう言われてもね。

 なんて、いつもならそう返すけど、今回は心当たりがあった。


「分かった、そっち行くから…美月、後でな」

「……うん」

「で、どこ?」

「校門で待ってれば遭遇するんじゃないかな?」


 …それもそうか。


 と言う訳で校門近くで待っていると、昨日とは打って変わって…長い黒髪をポニーテールを揺らして走って来た。


「間宮君!」


 おーおー…目立つ、それはとても目立つよ。

 いやまあ、当然か。

 知ってる制服を着た見知らぬ美少女が、知った顔の手を取って美しい笑顔を見せたのだから。


 まあ、クラスメイトであれば皆さんご存知、地味で目立たない雨宮あめみや時雨しぐれさんだけど。


「…雨宮、髪型変えたんだな」

「うん…心を入れ替えようと思って、どうかな?」

「ああ、似合ってる。カワイイと思うよ」

「へっ…?かわ…」


 あれ?反応が鈍い。

 湊さんはこういう時、素直に伝えるのが一番良いって言ってたんだけどな。


「…ありがとう…」

「…ん…?」

「その…行こ?」


 あ…えっ、一緒に教室行くの…?

 それだともっと目立つんだけど…。

 まあ…多少は心に余裕が出て来たんだろう。

 ここで俺が拒むのは良く無いか。


「ああ、行こうか」


 今回は雨宮の笑顔に免じてこの際、視線は気にせずに一日を過ごそうか。


「……やっぱ気にはなるな…」

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