第11話 楽になる道筋
自殺志願者の考えなんて分からないし、知りたくも無いが、これは誰が言っていたか。
「【自殺】は天国に行きたい訳では無い。今ある地獄から抜け出したいんだ」…だったかな。
生憎と俺にはその考えの真意は分からない。
だが言葉の表面的な理解、納得は出来る。
俺に手を貸してくれた雨宮の手首には、いくつもの傷跡が見えた。
リストカットは言ってしまえば、ストレスの発散らしい。
人によっては、これだけでかなり気分が楽になるんだとか。
自傷をできずにストレスが溜まったまま居ると自律神経が乱れて、他色々な精神性の病にかかる事が多いそうな。
ここまで来ると俺には全く理解の及ばない世界だ。
実際、リストカットには自殺という意図が交じるケースはかなり少ないらしい。
彼女がどんな意図だったのかは、あまり興味が無い。
…うん、嘘。シンプルに聞きたくない。
さて、現在…俺は雨宮の自宅に来ていた。
本来であれば真っ先に警察か先生に報告するべきなんだろうけど、流石にあのまま先生の元に連れて行って話を始める様な事をして、雨宮の感情を
それで自宅まで同行ってもの変な話だけど。
雨宮の家は学校から程近いアパートだった。
父親と二人暮らしで男手一つで育てられたんだとか。
女手一つで育てられた俺と、ある意味では似ているかもしれない。
まあ俺は周りの環境がめちゃくちゃに良い場所で生活していたが。
母親は雨宮が産まれて直ぐに事故死、雨宮が成長して母親に似ていくに連れて父親からの暴力があったらしい。
今でこそ仕事に集中しているらしいが、顔を合わせるのが怖いと言っていた。
劣悪な環境で育って来た中で…いじめが発生したのか。そりゃ精神的にきついわけだ。
「……それで、結局…誰?」
雨宮は俺の腕に包帯を巻きながら答えてくれた。
「…先輩…」
「はぁ…先輩って…?」
「
聞き覚えのある名前だった。
確か…
「生徒会の副会長…だよな」
「うん…私の
うわぁ、嫌な関係。
年下の従姉弟相手にいじめかよ。
…ってか、クラス内じゃなくて…クラスに受けてる奴がいるってだけの話だったのか。
となると掲示場に書いた奴は、詳しく事情を知ってる訳じゃなくて、「いじめを受けてる人が居る」って事しか知らなかったのか。
なんだろうな、凄い違和感を覚えてしまった。
中学校は楽に生活したかったんだけど…こうなると少し考えることが多くなる。
「はい、多分…これで大丈夫。痛みが続くようだったら…ううん、そうじゃ無くても病院で診てもらて…」
「まあ…そうだな。それより、英先輩に何をされてたんだ?」
それから聞いた内容を軽くまとめると…英先輩からなる三年生の一部からの自慰行為の強要や猥褻画像の拡散の脅し等と言った内容だった。
正直、ここまで酷いとは思わなかった。
中学生と言えど女子って怖い……。
俺ならリンチされた方がマシだわ…いや、やっぱりそれも嫌だな。
具体的に何をされたのか、それ以上は聞く気になれなかった。
それでも、雨宮が感じていた辛さはなんとなく分かった。
そして話をしていて気付いたのは、話している最中に起こった雨宮の様子の急変だった。
恐らくは…心的外傷後ストレス障害とか?なんだったかな、PTSDとかってやつだろうか。
なんかの本で読んだ記憶がある。
そうじゃなくても、酷いストレスはたしかにあった。
現状それが続いてるんだろう。
◆◆◆
その後家に帰ると、珍しく母が出迎えてくれた。
「ただいま…」
「おかえり、遅かったね?寄り道してた?」
「まあ…うん」
「……それ、どうしたの?」
包帯の巻かれた腕や擦れた制服を見て眉をひそめる。
「ちょっとしくじった…。痛みが続くようだったら病院行けってさ」
「そう…。その時は言ってね」
キッチンに戻って行った母さんを見送ってから自室へ向かう。
ベッドに倒れ込んで、大きくため息を吐いた。
「……疲れたぁ…」
二度といじめ関連の話は聞きたくない。
だが、まだ解決してないので苦労は続く。
あ、いや…しばらくは雨宮のメンタルケアか。
何故に俺がこんな事をせねばならんのか…。
「結局…掲示場の書き込みは誰だ…」
コッチも必要があれば探さなきゃ行けないだろう。
…あ、そういや…もうすぐ期末テストか…。
「あのクソ教師め…この時期にこんな大事送り付けてきやがって…自分でやれっての!」
まあ……俺に言わなかったら、人が一人死んでるわけで。
榊先生の采配はパーフェクトではあったんだけど……結果論なんだよな、これも。
「あ〜…クソッ面倒くせぇなぁ!」
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