第9話 受かった

 あれからゴールデンウィークが過ぎ、一ヶ月ほどが経った頃。


 黒峰中の二人とはあれ以降会ってないし、多分今後会う事もないんじゃないかな?


 そんなある日、部活おわりの休日。

 何の前触れも無く、凛月が突然俺を自身の寝室へ入れた。一体何の話なのか。


 そう思って話を聞こうとしたのだが、その前に凛月は興奮気味に顔を近づけて来た。


「受かった…」

「は…?何が?」

「私…アイドルに向いてるって…!」

「えっ…ああ…だろうね」


 受かったって…面接ね?興奮しすぎて言葉が全然足りてないぞ。


 スカウトと言っても今回の場合は「オーディション受けない?」と言うお誘いを受けてだよな?

 いつの間にそこまで進んでたのか。


「面接って…一次審査…?」

「最終審査だよ?」

「…あっ、オーディションに受かったって話?」

「えっ?オーディションじゃないよ?」


 ……そうなの?

 てか、思ったより全然進んでた。……一ヶ月って早くないか?どうなんだろう…。

 後で調べてみるかな。


「んで、湊さん達には言ったのか?」

「まだ…だけど…」  

「……優先順位を間違えてるだろ」

「えっ?あ…そうかも、言ってくる!」


 パタパタと走って行く凛月…と、入れ違いになるように美月が部屋に入って来た。


「…何してるの?」

「…ん…。美月、お前も来い」


 美月の返答を待たずに手を引いて、凛月を追う。

 いきなり手を握るのは不味かったかとも思ったが…特に気にしている様子は無かった。

 コイツ本当に女子中学生か?男子のこと意識しようぜ?


「あら、どうしました…?」

「お…?揃って…何の様だ?」

「お父さん、私アイドル向いてるって!」


 湊さんと紗月さんはリビングで寛いでいた。

 どうやら二人でPCを覗いてる様だけど…珍しい…。


「オーディション?」

「凛月のアイドルオーディションですよ」

「ああ………えっ…受かったの?」

「うん?オーディションじゃなくて、スカウトだよ?」


 なんか話噛み合ってないぞ…?


 俺は一旦間に入って、状況を説明し直した。


「凄いな……本当に俺の子かよ?」

「お父さんもお母さんも目立つの苦手なタイプだもんね…」


 確かに、そう聞くと凛月は二人や美月とは全く別のタイプだ。

 万人受けしやすい、明るい性格の凛月にはピッタリだとは思うけどな。


「ま、俺には頑張れ…としか言えないな…なるべくサポートはするよ………真が」

「俺ですか!?」


 突然、俺に話を振って来た。

 てか…何か飛び火した!?

 いや、飛び火って言い方は悪いか…。


「何だ…?サポートしてやれよ?主に精神面で」

「凛月はメンタル強いと思いますけど…?」

「慣れない環境じゃ、どうなるか分かりませんから…そういうのは私達より、歳が近い方が察知しやすいですからね」


 経験談の様に紗月さんがそう語った。

 確かに…放任主義に近い湊さん達よりは俺の方が、異変には気付きやすいかも知れないけど…。


「あー…でも、本気で困ったら言えよ?手伝える事はやるからな」

「うん!」

「分かってるとは思うけど…俺も紗月も、その辺の業界にはさほど詳しく無いからな…」

「俺も同じなんですが…?」

「だから、精神面って言ったろ?」


 言ってたわ。

 何でニヤニヤしてんのかな…。


 そんなこんなで…急に「受かった」と言われても何の事かと思ってたら、面接に受かったという話だった。


 アイドルがどうこう…って話だったんだな。

 そうそう、思い出した。

 あの事務所…確かにアイドル候補を募集していた。

 何となく見覚えのある様に感じていた理由、俺が見たのはそれだったらしい。




 そして…この翌日。

 俺は普段と違って…放課後、部活が終わってからも少し学校に残っていた。

 …と言っても…担任の榊先生の用事を済まていただけ。

 あの人は何で俺に頼るんだろう。


 もう少し人脈を広げて欲しいところが、もしかすると俺が九条に仕事を押し付けるのと同じ心理なのも知れない。

 ただ…面倒臭いだけ…とは思いたくない物だが、今回は流石に見逃せるものでもなかった。


 ……うちのクラスでイジメが発覚した…らしい。


 ……面倒くせぇ…。

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