第4話 造られた花
夜、俺は母さんと夕食を食べながら凛月のスカウトについて話していた。
「凛月ちゃんがスカウトねぇ…あの子は向いてると思うけどね…芸能人」
「いや、その前に言おうとしてた紗月さんのアドバイスが……って言うのは何?」
「えっとねぇ、紗月ちゃんにそういうアドバイスは無理じゃないかなぁ…って」
「そうなの…?」
目立つの得意そうな印象がある。主に外見からくるイメージだが。
「基本的に外に出ない子だからスカウトの経験は無いだろうし、多分芸能人に興味無いし。アドバイスをするなら湊君じゃないかな?望美ちゃんと仲良いみたいだから」
「のぞみ…って?」
「鬼桜希望。知らない?」
10代から活躍してるトップ女優じゃん…最近もテレビでよく見かけるよ、その人。本名は鬼桜望美、芸名は鬼桜希望。読みはのぞみで同じなんだけどね。
「……湊さんの交友関係どうなってんの?」
「何か…テレビのお仕事のお手伝いとかした事ある見たいだし、今も偶に手伝いに行ってる見たいだし…」
成程、仕事とかそう言う関係か。
あの人テレビ撮影に使う機材も扱えるのかよ…つーか普段どんな仕事してんのかも知らないし、職業もよくわからない。
それはそうと…
「……どんなアドバイスしてんだろ…」
◆◆◆
〜side〜鷹崎美月
「スカウト?」
どうやら、妹の凛月が芸能事務所からスカウトされたようだ。
どうして真っ先に私に相談するんだろう。
確かに、凛月ならテレビに出ても違和感は無さそうだけど。うーん…私は………向かない…。
「う、うん…どうしよう…」
「…良いんじゃない?」
「な、なんでそんなに投げやりなのぉ…?」
「私に分かる事じゃない……。お父さんに聞いたら?」
「うぅ〜……」
何を恥ずかしがってるのだろうか。
よく分からないけど、私は半ば無理矢理お父さんの所へ連れて行った。
「んー…?どうした、二人して神妙な顔して…?」
「え…えっと…」
「凛月がアイドルの事務所にスカウトされた」
「ゲホッ…ゲホッ…」
「…ケホッ…あっぶな…」
私がそう言うと、キッチンに居たお母さんがむせって咳き込み、お父さんもミルクティーを吹き出しそうになった。
「そんなに驚く事?」
「…いや…けほっ…。今…似たような話をしててな」
「似たような話?」
「ああ、凛月はそう言うの向いてそうだなって話だよ」
何でそんな事を話していたんだろう?向いてそうなのは否定はしないけど。
「それで…どうするんだ?面接…受けたいのか?」
今の話を聞いてか、恥ずかしがってた理由なのかは分からないけど、凛月はゆっくりと頷いた。
「そう…だけど、どうすれば良いかな?」
「んー?そうだな…じゃあ、一つ例え話。凛月ってどんな花が一番綺麗だと思う?」
お父さんは何の脈絡も無くそんな質問をした。
「へ…?花?えっと……」
「おー…悩んでるな。因みに、美月は?」
「私は……造花…かな」
パッと頭に思い浮かんだ花を言ったけど、よく考えると駄目かな?
そんな私の思いとは裏腹に、お父さんはニヤリと笑った。
「流石に俺の娘だな。お父さんと全く同じだよ」
「えぇ!?なんで…?」
「親子ですね…」
凛月だけでなく、流石にお母さんも驚いていた。
お父さんも真っ先に造花を思い浮かべるんだ。
捻くれ者はお父さん譲りなのかな?
「何で造花…そもそも造花ってこの話で花の扱いなの?」
「当然。造られた花って言う位だからな。因みに、美月は何で造花なんだ?」
「…造花は人が手で作ってる…から。綺麗な物を作ろうとして作ってるんだから…綺麗な物でしょ?人で言えばメイクと同じ」
お父さんは満足そうに頷いた。
「その通りだな。俺が言いたいのは芸能人も同じって事だ」
「何もかも違うよ!?」
「同じだよ。お前は造花じゃなく、普通の花らしくあれば良い…ま、もし受けたいならの話だけど」
私は納得出来たけど、凛月は納得の行かない様子で部屋に戻って行った。
「美月は分かったか?」
「うん」
「じゃ、説明出来るかな?」
「周りなんて気にせず自分らしく居ろ…って事」
「大正解。双子でも一応お姉ちゃんなんだし、偶には支えてやれよ」
「…ん…」
造花というのは、人が美しいと思って作る物だ。
人に見られてるからこそ価値がある。
だが、見られなくなった途端、埃を被ってその価値を無くす。
造られた美しさは、美しいと思われてこそ。
普通の花は…“花”としてそこに居るだけだ。
周りの人間が勝手に美意識を持つだけであり、本人にその意思は無い。
だが、それが魅力でもある。
凛月はそうあれば良い。
それが周囲の人々を最も魅了するから。
美しくある事を意識してしまったら、そこに凛月らしさが無くなる。
「凛月は自然と周りを魅力しますからね」
「んー…?紗月は人のこと言えるのかよ?」
「あの子と違って、私には“棘”がありますから、少し違います」
「ふっ…ははっ、確かにその通りだな」
妹が悩んで居ようと、私の両親は相変わらず仲が良いみたいだ。
お父さんの特製のミルクティーをこっそりと一口貰う。
「…甘っ…」
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