第9話 シガレット
五本目のシガレットを消し
口唇に一杯の珈琲の冷めたい
◆思い描いた景色
煙草を吸う女性は好きでない。
そう彼女に伝えてから、随分と会っていない。
彼女は東京で働くようになってから、煙草を吸う様になった。
誰の影響か知らないが、僕の姿は見えていないのだろう。おしゃれな街も店も知らない、興味のない、僕に退屈しているようだ。
僕も又、彼女のことが分からなくなった。
飼っている猫の話にも、最近読んだ小説の話にも乗ってこない。
二人の物理的な距離は、残酷に心を引き離した様だ。
時間通りに待ち合わせの店へ着いた時、彼女は四本目の煙草を吸っていた。随分と待たせたようだ。
待たせたねと軽く挨拶をする。
苛ついたような仕草で煙草を揉み消し、もう、別れましょうと、挨拶もなしに切り出した。
五本目の煙草に火を着ける。
そんな彼女の姿を見て、自然消滅も出来たのに律儀だなと、的外れなことを考えていた。
分かったといって、ホットコーヒーを注文する。
彼女は用件は済んだとばかりに火を着けたばかりの煙草を揉み消し、既に注文してあったコーヒーに、ひと口だけ口を付ける。
そして、さよならとひと言残して、足早に去って行った。まるで一緒にいるところを、誰にも見られたくないかのように。
テーブルには、冷めきった苦いコーヒーだけが残っていた。
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