第11話
ソファーに戻って三人はテーブルを囲んだ。
一人掛けのソファーには女が。木製で堅そうな小さいスツールに黒沼が。そして眠っていた三人掛けソファーを國臣がひとりでぜいたくに座る。広いスペースがあるのにひとりで占領するのは申し訳なく、小さく縮こまって座る國臣に、女は愉快そうににやついている。
「緊張してるね、まずは自己紹介でもしようか。私は元研究所のドクター、
葛城が場を仕切ってくれて助かった。クマに光のない目。見た目は暗いが、根暗なわけではなく流暢に冗談を入れて話す。それに慣れているようで、黒沼は膝に肘をついて前のめりの姿勢で黙ったまま國臣を見る。視線に怯えながらも、國臣は「兎川國臣です」と名乗った。
「それで。君が探してる子の話を聞かせてよ。地下じゃ全ての通信が出来ないオフラインだし、地上についての情報源がなくてね。警察も監視局も見つけられない人ってどんな人?」
「俺と同じぐらいの歳の女の子で、木島ことりって言うんですけど、連絡はつかなくて。でもここにくる直前に彼女らしき人影を見つけて追いかけてたんですけど、結局追いつけず……」
「探してる理由は? チップから探せばよくない?」
「火災の、犯人かもって。チップは認識できなかったみたいです」
他にも國臣が知る情報を話した。
火災の現場からでた遺体、カメラが捕らえた怪しい人影。社会が國臣たちを犯人に仕立てようとしていること。
ただ、星宮と約束の通りにカメラ映像が一部破損していたことは言わずにおいた。
「そんなのガキのお前さんが調べるこたぁねぇだろ。監視局にでもやらせとけ」
「どうやらそうもいかないみたいで……映像記録で犯人が見つからないから、野次馬しに行った俺たちが犯人ということにしてしまえばいい、そうなっているらしいです」
「職務怠慢か。ずいぶんと監視局は適当だな。それでどれだけの冤罪を生み出しているんだか知ったこっちゃねぇ。まあ、今の社会じゃあスコアが全てだ。お前さんのスコアが低ければ犯人にされても仕方ねぇってこった」
苦虫をかみつぶしたような顔で國臣は黙る。國臣のスコアは一瞬で変わることができる。簡単に低くも高くもできてしまう。だからといってやってもいない罪を被るのは納得できない。
「じゃあ自分の無実を証明すべく、事件に関わっていそうな子を探してるってこと? 無実なんか他の場所にいたってことを示せばいいじゃん。カメラに映らないことは不可能なんだし」
葛城の話はもっともだ。だが、それは出来ない。なんせ、事件が起きた時間帯の行動記録が破損してしまっているから。そのことは伏せて話しているために痛いところを突かれると何も返せない。
黙り込んでしまうと黒沼が呆れた声を出す。
「出来ないんだろ。いくらカメラが歩いていてもこのパノプティコンは完璧じゃない。ここみたいな記録を改ざんした穴はあるし、例外も生まれるもんだ」
「なるほどー。じゃあ、今までの情報を踏まえて。黒沼刑事の現段階での推理をどーぞ」
葛城は軽い口調で振る。それでさらにため息をついて頭を搔く。少しばかり考えた様子だったが、黒沼は真剣な眼差しで國臣を見つめながら言う。
「まず、探し人が見つからないということは何かしらチップに異常があると疑われるが、それ以外……先生の得意分野みたいに得意体質持ちの場合や、そもそもチップがないやつもいる。公共交通機関利用記録がなければ、近くにいるだろうな。それでも地上にいなければ地下に逃げ込むしかない。思い当たることはないか?」
「何も……先輩から聞いた話には……あ」
「なんだ?」
「先輩が何か連絡をくれたんですけど、スマホを落としてきてしまって……」
落ちたときに紛失したスマートフォンを思い出した。連絡手段をなくし、伝えるべきことがあったのであろうことは何だったのだろう。今となってはわからない。
「どこに落とした」
「多分、落ちてくるときに……」
「第九口か……まずいな」
黒沼だけじゃない、葛城までもが眉間にしわを寄せる。
何か悪いことがあるのかと、おろおろと二人を交互に見る國臣へ説明が加えられる。
「
いつしか黒沼は鋭い眼差しで國臣を射抜く。
「たとえセキュリティがかけられてあったとしても、奴らは解除できる術がある。奴らに拾われたら最後すべて盗られるて返ってこないと思え」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます