第11話 戦闘前の緊張感
「さて、いよいよ予知の時間になるわけだが、覚悟のほどはどうかな?」
場所は、屋敷の外で、先程、俺が幻想鳥獣がやってくると予知した場所である。
リリスの問いかけに、ユキが答える。
「覚悟なんて、大げさな。たかだか幻想鳥獣十匹でしょ。」
「まあ、その幻想鳥獣十匹ごときに、君は、手傷を負う予知なのだがね。」
リリスはそう言って、ユキの方を見た。
「ユキ、君が魔法使いとして、類い稀な能力を有していることは疑いようもない。ただ、この前のことと良い、油断をしていては足下もすくわれかねない。」
「…はいはい、分ったわよ。」
ユキは渋々と言った様子で納得を示す。リリスの言葉に否定できる部分がなかったのだろう。
リリスも、わざわざこの話を深掘りしすぎるようなことはしなかった。
その会話を最後に、俺たちの間は沈黙に包まれた。そろそろ、幻想鳥獣がやってくる時間だ。二人とも戦闘態勢に入り、気を引き締めているのだろう。
空気は冷たいのに、知らず額に汗をかいていた。ふと、自分の拳が握りこまれていることに気づく。どうやら想像以上に緊張していたらしい。
ユキは幻想鳥獣のことを雑魚のように言っているが、俺からすると、見た目は異形のそれで、生態も獰猛。何より、この脇腹に三日間寝込むほどの傷を負わせたのは、他でもない、幻想鳥獣なのである。
自分の手のひらを意識的に、何度か開いては閉じてを繰り返して、額の汗を拭った。
「怖いかい?」
俺のそんな様子を見ていたのか、リリスが声をかけてきた。
「…正直、結構怖い。ある意味、俺のトラウマの相手だからな。」
「それも、そうだな。でも君は安心していて良いよ。私もユキもこう見えて、結構強いんだ。」
少しだけ、緊張が解けたような気がした。リリスの言葉の内容のおかげでもあるが、何より、こちらを安心させるために、気遣ってくれたという事実に、救われたのだ。
「…ありがとう、リリス。お前、やっぱり優しいやつだよ。」
「そう直接言われると照れるな。でも、礼を言われるのは心地よい気分だ。もっと言ってくれても構わないよ。」
リリスは軽口で応じた。リリスなりの照れ隠しなのかもしれなかった。
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