第10話 作戦開始前の穏やかな時間

「一通り作業は終わらせてきたよ。それにしても外は冷え込むね。次に外に出るときはもう一枚羽織っていこうかな。」


 リリスは寒そうに体を擦りながら、そう言った。


「冷たいじゃないか、ユキ。私のために紅茶を用意しておいてくれても良かったのに。」


「リリスは、少しでも冷めてると文句言うでしょ。準備くらい自分でしなさい。」


 そう言われて、リリスはキッチンの方に歩いて行った。


「ユキってリリスに対する扱い、結構雑だよな。仮にも、屋敷の主だろ?」


「リリスはあれで良いのよ。カケルも、リリスを甘やかさない方が良いわよ。すぐに調子に乗るんだから。」


 何となく、すぐに調子に乗るリリスは簡単にイメージできた。


「リリスが調子に乗ると本当に面倒なんだから。ただでさえ長い話が、倍以上に長くなるから。」


 なるほど、だから俺がリリスの屋敷を褒めたときに、会話に割って入ったのだと納得する。あのまま、放置していたら、おそらく延々と喋り続けていたのだろう。


 そんな風にリリスの話を続けていると、リリスが紅茶を片手にリビングへと戻ってきた。


「どうやら、私の名前が聞こえてきたようだが、ユキが私の偉業でも説明してくれていたのかな。だとしたら、ユキもようやく私の喜ぶことが理解できるようになったと褒め称えたいところなのだが…。」


「その顔を見るに、どうやらそんな事は無いみたいだね。」


「リリス、あんたの話が長いってことを話していたの。」


「心外だな…。もしかして君も私の話が長いと思っているのかい。だとしたら、結構傷つくのだが…。」


 リリスは肩を大きく落とす仕草をしながら、こちらを見つめてきた。


「いや、俺は気にしてないよ…。」


 とりあえずフォローを入れておく。傷つく云々を、どれだけ本気で言っているのかは分らないが、もし、ここでリリスに落ち込まれたら面倒ごとになる予感がした。


「そうか、そうだとも。やっぱり、ユキがせっかちなだけじゃないか。」


 リリスは嬉しそうに、首を大きく上下させていた。表情からは読み取れないが、リリスの言動から何となく感情が分るようになってきた。


 ユキは、そんなリリスを面倒くさそうに見つめ、それを見たリリスがまた軽口をたたく、傍から見ていると、まるで本当の姉妹のように見えた。


 そんな穏やかな時間が続き、ついに幻想鳥獣が現れる時間の三十分前になった。

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