第8話 はじめての外出
しばらくして、ユキとリリスが連れ立って部屋に入ってきた。
「未来予知とはにわかに信じられない話が出てきたものだね。…あー、勘違いしないでくれ、あくまで一般論で、君を疑ってかかってるという訳じゃないんだ。」
「それで、ユキとリリスは俺にどうして欲しいんだ?」
「端的に言うと、君には私とユキと一緒にこの屋敷から出て、どこから幻想鳥獣がやってくるのかを教えてもらいたい。もし、本当にやってきたのなら、君のその力は本当だ。新たな魔法使いの誕生になるかもしれない。」
「…分った。言われたとおりにするよ。」
ここに来て、はじめての外出である。まさかこんな形で外に出ることになるとは思ってもみなかったが、いい加減この部屋にも飽きてきた所だったのでちょうど良かった。
「ちなみに、私は君のことをほとんど全面的に信じているよ。言っていなかったが、私には、人が嘘をついてるかどうか分る特技があるんだ。是非その未来予知の力を全面的に役立ててくれ。」
思わぬリリスの特技を聞かされて、ぎょっとなる。…今までのリリスとの会話で嘘をついていなかっただろうかと、少しだけ不安になる。
「まあ、そう構えないでくれよ。些細な嘘に目くじらを立てるほど、心が狭い人間であるつもりはないよ。」
「リリス、話が長い。方針が決まったならさっさと行動しましょう。」
「ユキはいつも、物事を焦りすぎるきらいがあると思うのだが、今回はユキに同意だ。時間も限られていることだし、行動に移ろうか。」
そう言って、ユキとリリスと俺とで外に出た。まさか、この扉をくぐるのに、一週間以上もかかるとは思ってもいなかったが。
屋敷の廊下は、異常なほど長く、それでいて無機質だった。屋敷の持ち主であるリリスが、そう言った性質の人物なのだろう。何も飾り付けられていない、長い長い廊下を歩く続けると、大きな階段が現れた。吹き抜けになっているようで、ここからでも、一階の様子が見えた。どうやら、階段を下った先は、すぐに玄関口があるようだということが分る。
そのまま、これまた長い階段を降りていき、リリスが玄関の扉を開けて外に出るのに続いた。
久しぶりの外は空気が冷えていて、とても静かだった。周りを見渡してみると、あたりは森ばかりで、他には何もない。そんな静寂に満ちた凍えた世界の中にこの屋敷は建っていた。
外から見る屋敷は想像以上に大きかった。こんな大きな屋敷に二人しか住んでいないということが信じられないほどだった。
俺が屋敷に見とれていると、リリスが自慢げに声をかけてきた。
「豪華な屋敷だろう。私の自慢の一つでもあるんだ。」
そんな事を言うのなら、少しは得意そうな顔でもすれば良いのに、依然無表情だった。その代わりに腰に手を当てて、大きく胸を張っている。
「すごいな。もしかしなくても、リリスって相当金持ちなのか?」
「その通りだとも。自分で言うのも恥ずかしいが、私は希代の魔道具製作者なのだよ。世に広く出回っている魔道具の中には、私のものも少なくない。」
どうやら、リリスもまたこの世界の偉人のようだ。というか、この世界の偉人が身近すぎて、あまりありがたみを感じづらいのだが。
「それで、カケルはどこから幻想鳥獣が攻めてくるか分るの?」
俺とリリスが屋敷を前に関係ない話をしているのを見かねたのかユキが声をかけてきた。
周りを見渡せば似たり寄ったりの森で、普通なら正確な場所など分りようもないのだろうが、不思議と脳が、どこに行けば良いのかを理解していた。
自分の力ながら、意味が分らなすぎて不気味である・
俺は、リリスとユキを連れて、屋敷の裏手の方まで回ると、立ち止まった。
「ここが、幻想鳥獣とやらが攻めてくる場所だと思う。」
「なるほど、君の話だと時間は後、二時間後くらいだったかな?」
「ああ、そのはずだ。」
「さて、それじゃあ私は魔道具の罠をこの当たりに張り巡らせておくよ。時間もあることだし、ユキたちは屋敷に戻って、温かい飲み物でも飲んでると良い、体が冷えているだろうからね。」
そう言って、リリスはテキパキと支度をはじめた。何やらクリスタルのようなものを、妙にたくさんのポケットがついた服から取り出し、あちこちに配置していた。
それを見ていると、ユキが屋敷の方に歩きながら言った。
「リリスもああ言っていたことだし、屋敷に戻りましょう。」
「そうだな。」
立ち去る前に、リリスにお礼を告げて、ユキの後をついていった。リリスは気にすることはないと言った風に軽く手をあげて応じてくれた。
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