第7話 屋敷が襲われる未来予知
「それで、まだ他にも何か聞いておきたい事ってある?無いなら、私は帰るけど。」
「最後に一つだけ良いか?」
「私が答えられる範囲ならね。」
「この世界って、何か時間を潰せる、娯楽みたいなものって無いのか?正直、やることなさすぎて気が滅入るんだが。」
実際、後どのくらいの間この部屋から出してもらえないのか分らないが、今日の朝起きてから、ここに至るまでの数時間ですら、気が滅入ってきていた。これが、後一週間以上も続くとしたら、体の怪我は治っても、心に癒えない傷を負ってしまいそうだ。
「娯楽ねー。…読書とかはどう?リリスが本好きでね、この屋敷には大図書館まであるんだけど。」
娯楽に関しては、何かもの珍しいものがあるわけではないようだ。しかし、読書は嫌いではないし、何もしていないよりかは、遙かにましな時間の使い方のように思えた。
「じゃあ、その読書がしたいんだが、本は持ってきてもらえるのか?それとも俺が誰かに付き添ってもらって、取りに行った方が良いのか?」
「私が、リリスに面白い本を見繕って、届けるように伝えておくわ。」
「それはありがたいけど、何か、何から何まで悪いな。」
「気にしないで。あなたはこの屋敷の客人みたいなものなんだから。」
そう言うと、ユキは軽く手を振って、部屋から出て行った。そして、また一人になり何もすることのない時間が生まれた。先程より、暖炉がついていて部屋が暖かい分、少しだけ状況は良かったが。
それから一週間ほどの時間が流れた。その間、俺はリリスが持ってきてくれた本を読み、朝と昼と夜に、ユキやリリスが持ってきてくれた食事をとり、少しだけ彼女たちと話をするという生活を送っていた。
傷もほとんど癒えており、体を動かすと、痛みが走るようなことはなくなった。リリス曰く、後一週間は絶対安静との事だったが、動く分には何ら問題が無い。
それでも、まだ俺はこの部屋から出してはもらえなかった。
そんな退屈ではあるが、安寧の日々を送っていたある日の事だった。いつものように、ユキが食事を運んできてくれて、少し話をしている最中に異変は起こった。
急に目が痛んだ。…その瞬間、脳内に、この屋敷が十匹もの異形の生物に襲われ、ユキとリリスが協力をして撃退するが、ユキが怪我をしてしまうという映像が流れ込んできた。
そして同時に理解する。この映像は、今から三時間後の出来事だということを。
…これは、ユキを初めて見た時に起こった現象と同じものだ。なぜか、急に起こる未来が情報として脳内に流れ込んでくる。
…目が痛む。俺は思わず、痛む片方の目を押さえた。そんな俺の様子を見ていたユキは、驚愕に満ちた顔をしていた。
「カケル、今のは、どういうこと?…いや、その目はどういうことなの、説明して。」
「…は?目がどうしたって?それより伝えなきゃいけないことがあるんだが。」
「もしかして、自分で気づいてないの?今、カケルの目の色が急に真っ赤に染まったのよ。…今はもう治ってるみたいだけど。」
目の色が変わった?心当たりがあるとすれば、それはこの未来予知以外に存在しない。どういう原理かは分らないが、未来予知を行っている間は目の色が赤に変わり、痛みが発生するらしい。
「それも含めて、説明するから聞いてもらえるか?」
ユキは真剣な表情で頷いた。
「これは冗談でも何でもないんだが、今俺は未来が見えた。おそらくその副作用で目が真っ赤に染まったんだと思う。そして、その見えた未来って言うのが、異形の生物…ユキたちが幻想鳥獣と呼んでるものが十匹で、この屋敷を三時間後に襲いに来るというものなんだ。そこで、ユキは怪我を負う。これが、今俺に起こった出来事の全てだ。」
「…正直言って、簡単には信じられない。もし、それが本当なら、カケルは魔法使いの域に到達していることになるわ。でも、私はそんな魔法使いがいるなんて聞いたことがない。この世界で確認されている五人の魔法使いの顔は広く知られているもの。」
当然だが簡単には信じてもらえない。自分で言っておいて何だが、あまりに荒唐無稽な話だと思う。ただ、ユキは未来予知自体は否定しなかった。どちらかというと、そんな力を俺が持っているはずがないと疑っているようだ。
「信じるか信じないかは、三時間後に起こる出来事を見て決めてくれ。…いいか、このままいくとユキは怪我をするんだから、十分に対策をしてくれ。」
俺の真剣な様子に納得してもらえたのか、あるいは、確認するだけならと思ってもらえたのかは分らないが、ユキは俺の提案を受け入れてくれた。
「少し待ってて。リリスを呼んでくるわ。」
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