第6話 魔道具の使い方講座

「…まだ何か用事でもあるわけ?」


「ああ、時間とらせて悪いんだけど、この部屋の、あの器具の使い方教えてくれない?あれ、部屋を暖めるやつだろ?」


「なるほど、暖炉が起動してないなんて道理で寒いわけね。…っていうか、魔道具の使い方知らないって、カケルって本当にどこからやってきたのよ。」


 呆れたようにため息をついて、ユキは暖炉の前まで歩いて行く。俺も、それについて行って、使い方を教わることにする。


 後、地味に暖炉の呼び方は、そのまま暖炉なのかと一人で勝手に納得していた。


「ほら、ここに紐があるでしょ。これにマナを流し込むだけよ。」


「マナってどうやって流し込むの?というか、そもそもマナって何?」


 また知らない単語が増えた。マナ。ユキの言い方的にこの世界では常識なのだろう。


 実際、そう言った俺をユキは信じられないものでも見るような目で見つめてきた。


「マナすら知らないって…。むしろどうやってこれまで生きてきたのよ。山の奥深くで修行でもしてたの?」


「してない。まあ、端的に言えば記憶喪失みたいなもんだ。」


 実際、この世界での記憶は、つい数日前からスタートするので記憶喪失という表現もあながち間違いというわけでもない。


 ユキは、それに対して若干同情的な目を向けて、説明をはじめた。


「マナっていうのは、全ての人が持ってる潜在的な生命エネルギーのようなものなの。人は、そのマナを魔道具に送り込むことで、擬似的に簡単な魔法の効果を得られるのよ。ただ、そのマナも個人差があって、元々持ってるマナの総量が多い人もいれば少ない人もいる。それだけじゃなく、マナを外に送り出す力も、効率的に多くのマナを体外に送り出せる人もいれば、ほとんど外に送り出せなかったり、効率がとても悪い人も居るの。」


 分りやすくマナについて説明をしてくれた。なんだかんだ言ってもリリスと同様に根が優しい人である。


「それで、私たち魔法使いっていうのは、そのマナの総量も、マナを外に送り出す力も、常人より遙かに優れていて、超常現象を起こすにまで至ることのできた人たちのことなの。」


 なるほど、ふんわりとだがこの世界のパワーバランスが何となく分った気がする。要するに、マナの力というのがこの世界の中心にあるのだろう。そして、単純に、マナを扱う力が大きければ大きいほどできることが増え、大きな力を持つようになるということだ。


 その最たる例が、世界中の人間の憧れの的になり、世界中から重宝されてる魔法使いというわけだ。


「それで、どうやってマナを送り込むんだ?」


「簡単よ、この暖炉についてる紐を手に取って、体の内側からマナを送り込むイメージをするだけ。」


 ユキが紐を手に取って、実際にやって見せてくれる。


 すると、暖炉に火が灯った。それこそ、まさに魔法のように。


「ほら、簡単でしょ。消すときも同じように、紐を手に取って、マナを送り込むだけ。」


 そう言って、今度は暖炉に灯った火を消して見せた。さっきまでごうごうと燃えさかっていた火が嘘のように消えている。


 こういうのを実際に見せられると、この世界の魔法や魔道具の話が嘘ではなかったんだなと実感させられる。


「次は、カケルがやってみなさいよ。まあ、よっぽどできると思うけど。マナを外に送り込めない人なんて、数万人に一人とかだし。」


 そう言われると、妙に緊張する。というか、説明が随分感覚的なものだった。おそらくこの世界では、言葉で説明することができないほど感覚的に理解できるものなのだろうが…。


 ユキから手渡された紐を握って、目をつむる。とにかく、紐を握っている手に意識を集中させる。体内の力をその手に送り込むようなイメージを頭の中で持ち続ける。


 そうすると、少しの時間が経って、目の前の暖炉は火を灯してくれた。はじめて自分の手で魔法に触れることができた高揚感と、自分の中にも、マナが存在していて、それを送り出すことができて良かったという安堵感に包まれる。この世界に来た事情が事情なだけに、俺にはこの世界の常識が通用せず、マナが存在しないということも最悪覚悟していた。


「マナの事を知らないなんて言うから、まさか魔道具も使えなのかと思ったけど、使えるようで安心したわ。」


 どうやら、この世界では、こんな風に生活必需品にまで魔道具が、浸透しているらしい。確かに、もし魔道具が使えなかったら、随分と苦労させられるだろう。

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