第4話 兄弟喧嘩
放課後になると、俺はすぐに家に帰宅した。
最近は毎日のように波澄から誘われていたが、今日の朝の姉さんのことを見て気遣ってくれたのか、今日は誘われなかったので、すぐに帰宅することができた。
とはいえ、姉さんが機嫌を悪くしてから、大体七、八時間は経っている。
そろそろ機嫌は直っているだろう。
「ただいま」
玄関に入った俺は、いつも通りそう言った。
いつもならすぐに「おかえり〜!」と飛び込んで来る姉さんの姿が見えるはず────だったが、今日はそれが無かった。
「あれ……?姉さん?」
俺は呼びかけてみるも、特に応答は無い。
……もしかしたら、まだ姉さんは家に帰っていないのかもしれない。
いつもより早く帰ってきたし、俺が知らないだけで最近の姉さんはこの時間に買い物に出掛けている可能性だってある。
「と思ったけど、靴がある」
どういうことだろうと思いながらも、俺は靴を脱いでリビングに入る。
すると、ソファで座って俺に背を向けている姉さんの姿があった。
「なんだ、姉さんもう家に帰ってたんだ、てっきり買い出しとか行ってるのかと思ってた……ソファに座って何してるの?」
俺がそう聞いてみるも、姉さんはその質問に答える気は無いのか全く話の繋がりがないことを言い出した。
「今日は早かったんだね、今日は女の子の友達と遊んで来なかったの?」
────姉さん、完全に根に持ってるな。
あの時は一時的な感情だと思っていたが……そうではなかったらしい。
「姉さんがどうして怒ってるのかわからないけど、背中向けて話すのやめて、向き合って話さない?」
俺がそう言うと、姉さんは一瞬迷った様子だったが、ゆっくりと俺の方を向いてくれた。
「私、別に怒ってないよ?」
「そんなに頬膨らませて言われても全く説得力無いよ」
「────だってだって!本当ならもっと放課後は紡と過ごしたいのに、紡が友達と遊ぶって言うからそれも大事かなって思ってたけど、その相手が女の子っていうことを今まで私に隠してたんだよ!?怒るよ!怒る怒る!」
「そこがわからないんだ、どうして友達が女の子だと問題に?」
「そこだけじゃないよ!紡がわかってないのは!紡は全部わかってないの!紡のお姉ちゃんになんて生まれなかったら良かった!」
その言葉を聞いた瞬間、俺の何かにヒビが入ったようにショックを受けた。
今まで姉さんと言い合いになることはあっても、そんなことを言われることはなかったからだ。
「そんなこと言わないでよ、姉さん……俺は、姉さんが姉さんで良かったって思ってる、どうして姉さんがそんなことを言うまで怒ってるのか俺には全然わからないけど、でも……俺たちの一番大事な絆を、口喧嘩一つで無くしたくないよ……」
心からの言葉としてそう伝えると、姉さんは目を見開いて、慌てたように言った。
「ち、違うよ!?紡のことが嫌いになったからあんなこと言ったわけじゃないの、むしろ、お姉ちゃんは紡が大好きだからあんなこと言っちゃっただけで……ご、ごめんね!今のはお姉ちゃんが悪かったね!お姉ちゃんも、紡が弟で幸せだと思ってるよ!」
「姉さん、良かった……」
普段優しい姉さんからあんな言葉を言わせるほどに嫌われてしまったのかと思ったが、今姉さんに伝えられた言葉や感情を受けると、俺がいかに姉さんに愛されているのかが伝わってきた。
そして、姉さんは優しい表情で続けた。
「私が紡のこと嫌いになるわけないよ!私はいつまでも、紡のことが大好きだよ……約束」
「姉さん……ありがとう」
姉さんからの優しさと愛情を感じて、話も一段落────と思ったが、姉さんは「でも」と頬を膨らませて言う。
「私に一言くらい、女の子の友達ができたってこと伝えてくれても良かったと思うよ?そんなに隠すことでもないのに言ってくれなかった方が驚いちゃうよ」
「それは……ごめん、隠すことじゃないからこそ別に言わなくてもいいことかなって思って、わざわざ言ってなかった」
「……彼女、とかは居ないよね?」
「い、居ない居ない、絶対居ない」
俺は首を大きく横に振って否定した。
すると、姉さんは頬を膨らませるのをやめて笑顔で言った。
「そっか……じゃあ私、ご飯作ってくるね!」
「ありがとう姉さん」
「うん!……そうだ、今度ちゃんと紡のお友達紹介してね?波澄……すみれちゃん?だったよね?」
俺が波澄のことを紹介した後、すぐに怒った様子になっていたが、それでもきっちり名前は覚えていたらしい。
「うん、今度紹介するよ」
「ありがと!」
姉さんは俺に笑顔を見せると、キッチンの方に歩いて行った。
「色々あったけど、姉さんと仲直りできて良かった」
そうして、俺と姉さんの珍しい兄弟喧嘩は幕を閉じた。
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