第3話 友達の正体
「紡?今日の昼食はお味噌汁入ってるけど、保温だからちゃんと冷まして食べないと舌火傷しちゃうから気をつけてね?」
登校時、姉さんがそう言って心配そうに俺のことを見てきた。
高校生にもなってこんなことを言われないといけないのか、と普通なら鬱陶しく感じてしまうのかもしれないが、俺は姉さんが心から心配してくれていることをよく知っているためそんなことは思わない。
「わかってるよ、ありがとう姉さん」
「うん」
こんな会話が、いつもの俺たちの日常だ。
姉さんと一緒に学校に登校するのは週に三回ほどの頻度だが、やはり一人で登校するよりも姉さんと一緒に登校する方が楽しい。
通学路を歩いていると、近所の登校時に軽く挨拶をする程度のお姉さんから声をかけられた。
「今日もラブラブね〜!」
「あはは、俺たち兄弟ですから」
そんな短い会話。
そして────姉さんの頬は溶けそうなほどに緩んでいた。
「姉さん、いつも言ってるけどあのお姉さんだって本気で言ってるわけじゃないと思うから、そんなに本気に受け取らなくても……」
「わかってるよ〜!でも、傍から見たら、私たちってラブラブに見えるんだね〜!顔も紡は優しそうでかっこいい顔してるけど、私は全然紡と似てないから、もしかしたらカップルみたいに見えちゃってるのかな!?それならもっと紡と顔似てたらな〜って思ってたことも浮かばれるね〜照れちゃうね〜」
「俺たちは確かに顔は全然違うけど、姉さんはちゃんと優しそうで綺麗な顔してると思うよ」
「そ、そうかな!?紡にそう言ってもらえるなら嬉し────そんなこと、同級生の女の子に言ってないよね?」
「言って────」
ない、と言おうとしたところで、俺は先日のことを思い出す。
波澄に独特な制服の着こなし方を似合っているかと聞かれた時、俺は似合ってると答えた。
……でも、あれはどちらかといえば波澄本人ではなく、波澄のファッションのことを褒めた感じだった、よな?
少なくとも、今みたいに気兼ねなく褒められるのは血の繋がっている姉さんだけしかいない。
それだけは断言できる。
「言ってない」
「何今の間!」
「なんでもないよ」
「本当?」
「本当」
「紡が言うなら本当なんだね!」
姉さんは疑いを知らない笑顔で言った。
そんな会話をしていると、そろそろ学校に近づいてきて、俺たちと同じ学校の制服を着た生徒も少しずつ見えてきた……ん?
「あの格好は……」
俺たちの対角線上から、明るい茶髪にオシャレなピアス、制服のブレザーを腰に巻いていてミニスカートという奇抜な制服の着方をした女子生徒が歩いてきた────波澄だ。
「あれ、繋義じゃん」
近づいてきたところで波澄も俺に気づいたらしく、俺の名前を呼んだ。
姉さんはぽかんとしている。
「あぁ、姉さん、こちら俺と同じクラスの友達、波澄すみれ」
「どうも……繋義のお姉さん、初めて見たけどめっちゃ美人────」
波澄が何か言おうとしたところで、姉さんは俺の両肩を掴むと、ジェットコースターを錯覚させるほどに俺のことを揺らした。
「友達って女の子だったの!?え!?いつも友達と遊んでたって言って帰ってきてた時、遊んでたのってもしかしてこの女の子!?男の子じゃないの!?」
「お、落ち着いて姉さん、見ての通り波澄は女の子だ」
「落ち着けないよ!なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」
「べ、別に友達の性別なんて男女どっちでも良くない……?」
「良くないの!紡のこと信じてたのに〜っ!!」
そう叫びながら、姉さんは学校方面へと一人で走り出してしまった。
すると、波澄が申し訳無さそうに言った。
「……なんか、ごめん」
「は、波澄は何も悪くない、姉さんも別に悪いわけじゃない……じゃあ、俺が悪いのか?」
「繋義は悪くないよ、私が保証してあげる」
「波澄のお墨付きなら、安心だな」
「うん」
そんな会話をした後、波澄は身につけているオシャレなピアスを右手で弄りながら言った。
「せっかくだしさ……一緒に登校しようよ」
「え?あぁ、そのつもりだった」
「っ……!なら、良いんだけど……行こ」
俺と波澄は、適当な雑談をしながら一緒に学校に向かった。
姉さん……放課後になったら機嫌直してくれてると良いんだけど。
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