兄弟と友達編

第2話 私の可愛い弟

 学校に登校すると、姉さんとは学年が違うので校舎に入ってすぐに離れた……姉さんは離れる直前まで離れることを嫌そうにしていたが、学年の壁があるのでその点はどうしようもない。

 俺はいつも通り、自分のクラスの自分の席に着席した。


「おはよ、繋義」


 俺が登校すると、決まって毎日話しかけてくる女子生徒が居る。

 名前は波澄はすみすみれ、明るい茶髪を左側だけに寄せ、右耳にオシャレなピアスをつけていて、制服のブレザーを腰に巻いている上に、まだ季節的には春なのにスカートを夏用にしているからかスカートもかなり短い。

 そんな学校の中で最大限のファッションを尽くそうとする波澄は、そのファッション力通り本人も綺麗な容姿をしていて────


「そんなに私のこと見てどうしたの、欲求不満?」

「欲求……!?違う、相変わらず学校の中なのに校則ギリギリのすごいファッションしてるなって思っただけ」


 この通り、バッサリとした性格をしている。


「そんなことね、似合ってる?」


 俺が一人波澄について色々と思っていると、突然そんなことを投げかけられた。

 似合ってるかどうかと聞かれれば、何も迷うことはない。

 ……だが、思うことが一つあったのでそれだけは伝えておくことにした。


「似合ってる、ただ……」

「ただ?」

「そんな格好で夜中はあまり出歩かない方が良い」

「……別に、私普段夜中出歩かないし」

「一応言っただけなんだ、ごめん」

「ううん……心配してくれて、ありがと」


 波澄は俺から顔を逸らしたが、声音からもどんな顔をしているのかは想像が付くけど、俺はあえてその顔を覗き込むような無粋な真似はしなかった。

 ────そして放課後、最近は波澄に放課後誘われるようになり、今日も誘われたので、今日はカフェで一緒に課題を終わらせてから家に帰った。


「ただいま」

「おかえり〜!」


 家に帰ると、姉さんが相変わらずの速さで玄関まで出迎えにきてくれた。

 料理中だったのか、姉さんはエプロンを着ている。


「今日も遅かったけど、何かあった?」

「あぁ、今日は友達とカフェで勉強してたんだ」

「勉強!?勉強なら私教えてあげられたのにどうして私に言ってくれないの!?」


 姉さんは頼られなかったことにショックを受けているのか、露骨に肩を落とした……そんな姉さんの誤解を解くために、俺は言う。


「わからないところがあったわけじゃなくて、単純に一緒に課題をするっていうのが目的だったんだ……わからないところがあったら、すぐ姉さんのこと頼るから」

「そっか……うん!わからないところがあったら、なんでもお姉ちゃんに言ってね!私まだお料理してるから、今日は先お風呂入ってて!」

「わかった、ありがとう姉さん」


 姉さんは俺に微笑みかけると、すぐに料理をしに戻って行った……最近、姉さんは自分が姉であることにとてもこだわろうとするようになった。

 弟離れができていないから、という理由だけなら良いけど、もっと別の……何か、自分に言い聞かせているような────


「……邪推は良くないな」


 俺はせっかくの姉さんの優しさを、危うく邪推して変な方向に行ってしまいそうになったため、姉さんに言われた通りお風呂に入って身も心もリラックスしてくることにした。


「疲れが取れる……」


 お風呂に浸かりながら、俺はそう呟いた。

 今日は先に課題を済ませたこともあって、疲労感がいつもよりあったから先にお風呂に入ったのは正解だったな。


「お風呂、か」


 姉さんとは中学校に上がるまでの間ずっと一緒にお風呂に入っていたが、中学生になると姉さんと一緒にお風呂に入るのをやめた。

 もし、今姉さんと一緒にお風呂に入ったら────そんなことを考えようとした次の瞬間、俺はお風呂に張っている水に自分の顔を落とし、すぐに顔を上げて呼吸を整えながら一人呟く。


「何を考えてるんだ俺は……」


 この後さらに変な考えが浮かばないように、俺はすぐにお風呂から上がった。


「お風呂お疲れ様〜!もうご飯できてるからね!」


 ドライヤーを持ってリビングに来ると、姉さんはもうエプロンを脱いでいて私服になっていた。


「ありがとう、髪乾かしたらすぐに食べるよ」


 俺は早速ドライヤーで髪を乾かすべく、ソファに座ってドライヤーのスイッチを入れ────ようとした時、俺の手からドライヤーが無くなった。


「え?」

「私が髪の毛乾かしてあげる!」


 困惑した俺だったが、その後ろにはいつの間にか姉さんが立っていて、さらにその手には無くなったはずのドライヤーが握られていた。

 そして姉さんはスイッチを入れて、俺の髪の毛を乾かし始める。


「姉さん!?自分で乾かせるから!」

「良いの良いの!紡はいつまで経っても私の可愛い弟……いつまでも、私の弟、だからね」


 ドライヤーの音で最後の方は聞き取れなかったが、姉さんの表情がどこか暗かったので、俺はそれ以上は何も言わずに姉さんに髪を乾かしてもらうことにした……そして、髪が乾き終えると。


「ありがとう、姉さん」

「ううん、私がしたかっただけだから……無理やり髪乾かしたりしてごめんね」

「気にしてないよ、俺たちは兄弟なんだから」

「……うん」


 今日も姉さんの作ってくれた美味しいご飯を、姉さんと一緒に楽しく食べた。

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