第10話【視点別】私が守る
「ふぅ…ようやく寝てくれた」
すやすや寝ていて可愛い…
どうしてこんなに可愛い人を私は同じ学校にいたのに1年も気づかなかったのだろう。
私の家に来てからも尚くんは私にひっついて離れなかった。
常に何か怯える様子。掴んでる手もプルプル震えていた。
夕食は二人で食べて、いざ寝ようということになったら
「今日は隣にいて欲しい…」
と言われてしまった。
昨日、いきなり距離を詰めすぎたことを反省し、やることもあったので尚くんの部屋に入るのはやめておこうと思ったのに
そんなことを言われたら断れるはずがなかった。
使用人にも誰にも、これを見せたくないので私の部屋で寝ることにした。
寝る直前まで少し精神が不安定なように見えた。
抱きしめて背中をトントンしていたら落ち着いて寝てくれた。
ここまで尚くんを恐怖に陥れたやつを許すはずがない。
私は黒のスーツに着替える。
最近は仕事が立て込んでて辛い。
でも…
「尚くんがいてくれたらいくらでも頑張れる」
そのためにもアイツらには地獄を見てもらわないと。
「おい、行くぞ」
「は」
数人の部下を連れていく。
「ターゲット2名1人は夕方頃、総理別邸より確保。もう1人はその前に既に確保済みです」
「分かった。」
部下が車を出す。
しばらく走ると海の近くにある倉庫に着いた。
倉庫内に入ると2つの椅子に括り付けられている人物に目が行く。
今すぐにでも手が出そうになったがこらえる。
部下が口につけていた縄を外すと
「おいお前!これはどういうことだ!」
「そうよ!早く私達を解放しなさい!」
調べたところこの人らは経済に関する最近官僚になった公務員と有名なファションデザイナーらしい。
「言っておきますがあなた達に拒否権はありません。尚くんの産み親ではあるので一応敬語で話していますが…発言次第ではいつも通りでやらさせてもらいます」
「何を言ってるんだ!早くここから出せ!
どうせあの出来損ないに何か吹き込まれたんだろ!」
今すぐにでも銃でこいつの頭を打ち抜きたいと思ったが尚くんの悲しむ姿は見たくないのでやめておく。
尚くんの身辺について色々調べたが中々目に入れられないものだった。
中学時代まではごくごく一般の家庭だったみたいだ。この頃から既に親は叱責をしていたが、私の尚くんは期待に応えるために一生懸命頑張って結果を残していた。
でも…
世間でもよくある話で尚くんは高校受験で失敗したらしい。とは言っても私達が通ってる高校も結構な進学校。
それでもこのクソ○郎達は許さなかったみたいで私が助けるまでの間、あの状態が続いていた。
「自分達がやってる事が虐待だと分かってるんですか?」
「は?虐待?飯も食わせてあげてるだろ。そこのどこが虐待なんだ」
「そうよ。もしかして学校で習ってないのかしら?」
黙れ。そんな言葉が出そうになった。
「ならこれは?」
部下がこいつらを縛っている縄を外す。
「やっと分かったか小娘が。私は帰らせて貰う。総理との会食中なんだ」
「何を言ってるんですか?帰すとは言ってませんが?」
「うるさい!ともかく私は帰る。美恵子帰るぞ、ぐはぁ!」
尚くんの親に手出しはあまりしたくなかったがどうしても帰ろうとするので蹴り飛ばした。
「お、お前!こんなこと許されると思っているのか!警察に通報するぞ!」
「生憎、こっち殺し屋なんでそういうのには疎いんですよ」
「殺し屋…」
このおじさん殺し屋と聞いて腰抜かすんだ…
今更と思ったが
「ほら、土下座」
「は?」
「だから土下座させることは虐待じゃないんでしょ?ならお前がしても私は何も罪に問われないんですよね?」
「そ、そんなわけ…ぐはぁ!」
私は靴をこいつの頭に乗せる。
「どうですか?まさか自分がする方になっていたとは思いませんでしたよね?」
「許してくれ…」
「情けない。これを尚くんは何十回と耐えてきたのですよ」
「もうやめてくれ…!」
毎回ターゲットは自分の身しか考えてないようなやつばかり。
でも尚くんの親ではあるので殺しはしない。
尚くんもそんなことを望んでいない。
寝る前背中をトントンしていた時、
「ねぇ尚くん。親に復讐したいとか思わないの?」
私だったら即刻、復讐する。
「あまり思わないかな。また前のような生活を送りたい」
こんな純粋で無垢な気持ちをこいつら無下にしていた。
「連れて行け」
「お、おい!やめろ!」
「私たちをどこに連れていくの!」
蟹工船に乗せるという手ももちろんあった。
でも尚くんのことを考えると
「お前らは自分のした事を猛反省しろ」
尚くんの言う前のような形にはもう戻れないかもしれない。
でも尚くんの夢はできる限り叶えてあげたい。
そのためなら殺しでも何でもする。
部下があいつらを連れて行った後倉庫を出て海を眺める。
「一ヶ月前の私じゃあ考えられないな…」
こんなにも1人の人のために動くなんて。
「さて帰ろう。帰ったら尚くんを抱きしめて…ふふ、楽しみ〜」
今までの事を忘れるくらい尚くんを甘やかす。しばらくの目標が決まっていた。
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