第8話 アメリアさんには迷惑をかけたくない

《後半、少し辛い表現をしている場面があります。ご了承くださいm(_ _)m》



数学の時間、

「であるからして…」

先生が喋りながら解いていく。


僕はこの長い数式を見るのが苦手だから、この時間は苦でしかない。

「ではここを…黒須間」

「は、はい!」

「これの答えは?」

「えっと…」

分かんない。


「はぁ〜1年生でも出来るぞ」

「す、すみません…」

劣等感、みんなは出来て僕はできない

《何で出来ない》

「…!」

嫌なことを思い出してしまった。


「では隣の東雲。答えは?」

「tan²θ+2です」

「じゃあこれは?前に出て解いてみろ。結構難しいぞ?」

数学の先生は意地悪で有名だ。アメリアさん大丈夫かな…?

心配になるが


「…。正解だ」


「すげぇー」

「アメリアさん頭いいんだな」

「生徒会長もやってるから当たり前だろ。後運動神経もいいらしいぞ」

「完璧じゃん」

完璧。その言葉は確かに似合う。


戻り際、アメリアさんが先生に何か耳うちしている。

すると先生はピン!と背筋を伸ばしていた。


「気にしないで。先生にはきつく言っておいたから」

何を言ったの…先生怖がってるよ…。

でもちょっと嬉しかった。

「ありがとうアメリアさん」


「…!。うん」

顔を真っ赤にしてたけどどうしたのかな?

熱?ではなさそうだけど…

まぁ大丈夫だろう。


7限目も終わり、帰る時間。


「流石にここではまずいって」

「大丈夫よ」

「でも…」

ここ校門の前だし。めちゃくちゃ見られてるし。


「歩いても帰れるから」

「ダメ。一緒に帰ります」

「せめてちょっと離れたところにしようよ」

「分かった…」

車はちょっと離れた歩道橋の所に停めてくれた。


「これからはここにしてね」

「かしこまりました」

「さ、帰りましょ」

「うん」


車の中ではアメリアさんは疲れたのか外をぼーっと眺めている。


「ありがとうございました」

「帰りは、連絡するわ」

「アメリアさん…?」

「じゃあ入りましょ?」

「入るって…?」

「もうかわいいなー」

と頬をつついてくる。

そしてドアを開ける。


「お邪魔します」

「アメリアさん親がいたらやばいから…」

「大丈夫。いたらそれが目的でもあるから」

「?」

親が目的…?


まぁ滅多に出くわさないから大丈夫だろう…


「早いな。もう帰りか?」

「お父さん…」

リビングからスーツ姿のお父さんが出てきた。


「どちら様?」

「初めまして。尚くんと仲良くさせてもらっている東雲アメリアです」

「礼儀正しい人だね。ところでどういう理由で家に来たのか知らないが帰ってもらっていいかな?」

「お父さん…」

「黙りなさい。お前は今から話だ。全く…お前はいつになったらお父さんの言うことを聞いてくれるんだ。出来損ないが」


そうお父さんが言った瞬間、ものすごい勢いでアメリアさんがお父さんの背後に立つ。

華麗にジャンプしていた。


そして一瞬でナイフを突きつける。

「殺すべきか」

「ひぃ…!」

「聞いてれば好き放題言って…。尚くんがいなかったら、あなた死んでましたよ?」

「アメリアさんやめて!」

僕はアメリアさんをお父さんから引き剥がす。


「尚くん…」

「僕は大丈夫だから…」

精一杯の笑顔でそう言う。


「お前はいつもいつも足を引っ張ることしか出来ないな…」

尻もちをついていたお父さんが立ち上がって言う。


「お前、どうなっても知らないぞ?俺は政府の官僚だ。1人くらいどうにでもできる。おう?やめて欲しいか?」

「や、やめて欲しいです…」

僕は言う。アメリアさんだけは迷惑をかけたくない。


「ならやることは1つだよな?早くやれよ」

僕は床に手をついて頭を下げる。

「許してください…」

これをし始めたのは高校受験の時からか。

周りから見れば情けないと思われるかもしれない。増してやアメリアさんに見られてしまった。

でもこれは黒須間家のになっていた。


僕はお父さんやお母さんと話している時は

「尚くん…」

「全く…家から追い出されてないだけ感謝しろ。追い出しても俺の名誉が傷つくだけだからな。」

「はい。感謝しています」


「俺が求めるのは完璧だ。結果で常に完璧を出せ。そうじゃないとこの家にお前の居場所はない」

両親が仕事で家に1人でいることが多い。それなのに僕の居場所はない…。

「分かりました」


お父さんのスマホから着信音が鳴る。

「もしもし、分かった。すぐ行く。ということだから俺は仕事だ。しっかりを残せよ」

「はい…」

「それとお前…親にも迷惑がかかることを覚悟しておけよ」

「それは…!」

さっき謝ったはず…と言ってもこの人には通用しない。


「あなたも後悔しますよ?」

とアメリアさんが言う。

「ふん」

そう言ってお父さんはドアを閉めた。



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